実験中、犬が飼い主からの影響を受けないように、飼い主にはヘッドフォンを付けることが要求された。そして、犬が音源に慣れてしまわないよう、実験は2セッションに分けられ、1セッションにつき4回のトライアルを行うが、その度に流す音源はランダムに組み合わされた。
犬の反応と行動としては、音源を聞いた時、飼い主のほうに顔を向けるか、飼い主の体に触れるといったボディコンタクトをとるか、スピーカーのほうに顔を向けるか、スピーカーに近づくかなどの他に、吠える、クンクン鳴く、あくびをする、体をかく、鼻の頭や上唇を舐める、体を振る、前脚または後ろ脚を伸ばす、動きが止まる/体を固める、しっぽを振る、パンティングする、などがチェック項目となっている。
それらを分析したところ、犬は非感情的な音源よりも感情的な音源に対してより多く反応し、さらには、先に述べたようにポジティブな感情音源よりもネガティブな感情音源のほうにより反応したということ。他の犬のクンクン鳴く声や、人の泣き声といったネガティブな感情音源に対して、不安な行動をより多く見せ、動きが止まる/体が固まる犬では、よりその時間が長く、また、年齢のいった犬に比べて若い犬のほうがより体が固まる傾向にあったそうだ。加えて、興味深いことに、不妊・去勢手術をしていない犬に比べて、している犬のほうがネガティブな感情に対する反応スコアが低かったと。
とすれば、飼い主が泣いていると、まるで慰めてくれるような行動をとる犬がいるが、犬としてはどこか不安めいたものを感じているのかもしれない。こういった他の個体のネガティブな感情に共感するという行動は、群れ動物が野生で生きていた場合を考えると、危険や不安を早く察知し、それを共有して、自分(たち)の命を守るという観点において、必然的に備わったものと考えることができるのではないだろうか。ただ、犬がもともと他の種(人)の感情にも反応できる能力をもっていたのか、人間と暮らすようになってそれが培われたのかはわからないが。
ともあれ、感情も取り入れたAI(人工知能)の開発が話題となることが多くなった現代にあって、生き物である犬の感情というのは思った以上に複雑だ。それをまだまだ理解しきれないからこそ、犬という動物はおもしろい。
参考資料:
(*1)Dogs Can Discriminate Emotional Expressions of Human Faces / Corsin A. Müller et al. / Current Biology, Volume 25, Issue 5, p601-605, 2 March 2015, DOI: http://dx.doi.org/10.1016/j.cub.2014.12.055
(*2)Functionally relevant responses to human facial expressions of emotion in the domestic horse (Equus caballus) / Amy Victoria Smith et al. / BIOLOGY LETTERS, February 2016, Volume 12, Issue 2, DOI: 10.1098/rsbl.2015.0907
(*3)Investigating emotional contagion in dogs (Canis Familiaris) to emotional sounds of humans and conspecifics / Annika Huber et al. / Animal Cognition, July 2017, Volume 20, Issue 4, pp703-715, DOI: https://doi.org/10.1007/s10071-017-1092-8
文/犬塚 凛
構成/ペットゥモロー編集部