■Impression
オーディオの世界では、よく素材の音がすると言われる。シルクのソフトドームツイーターは柔らかい音がして、ベリリウム振動板のハードドームは硬い音がするとか。ウッドのハウジングは響きが良く、アルミハウジングはシャープな音など。しかし、このスピーカーには、その法則が当てはまらないようだ。まず、メタルコーンはとても優しい音がする。優しいというか女性ボーカルがなめらかで、艶ややかだ。手嶌葵「明日への手紙(ドラマバージョン)」(96kHz/24bit)を聴くと、普段、使っている小型スピーカーでは、ボーカルはややかすれたように、一音一音がハッキリと再生される。『Ishida model』ではその音が丸くなるのではなく、さらに細かい音が再生され、一音一音の隙間を埋めてなめらかに聞こえる。ニアフィールド向きと言われるだけあって、デスクトップで聴く時の音場定位が素晴らしい。液晶モニターがなければもっといいと思う。フレキシブルアームに交換して、いつか液晶モニターを机の下に動かしたい。
上白石萌音「chouchou/366日(カバー)」(96kHz/24bit)も今まで聴いた小型スピーカーで1番良かった。ボーカルに絞って言えば、ワイドレンジよりも音像定位と音場感の方が影響力が大きいので、フルレンジでニアフィールドは非常に有利だ。しいて言えば不自然なのは距離感だけだ。もちろん、女性ボーカル以外のジャンルでも、極めて自然な音がする。小編成のジャズを深夜に聴くのもいい。小音量でバランスがいいので、音楽を夜楽しみたい時にピッタリだ。これは多分、我々の分からないところで、ブラックウォールナットの響きが乗っているに違いない。高級なユニットをMDFのバッフルに付けて聞くより、普通のユニットを無垢板のバッフルに付けて聞く方がいいことを実感した。でも、もしこのスピーカーを手に入れたら、FOSTEX『FE83-Sol』を付けてみたくなるのがオーディオマニアの性である。これだけの箱なのだから、いろんなユニットを付けてみたい! という場合も8cmフルレンジなのでハイコスパで楽しめそうだ。
気になるのは8cmフルレンジだから低音が出ないのでは、ということ。実際はスピーカーまでの距離が近いことと、フロントにバスレフポートがあるため、レスポンスのいい低音が再現される。もちろん50Hzは無理だが、100Hz以下もそれなりに再生される。同じぐらいのサイズの2Wayスピーカーに交換すると低域の再生限界は伸びるが、ワイドレンジ化されることで、ボーカルで大切な中域が相対的に薄まる感じがする。測定上はフラットなのかもしれないが、聴感上は薄くなるのだ。私なら、このサイズでワイドレンジは求めずに、音場感で勝負したい。定期的に試聴会もおこなわれているので、音質が気になる人はオントモヴィレッジをチェックしてみよう。
50Hzのテストトーンを再生。距離は約50cm。測定用マイク使用。
100Hzのテストトーンを再生。50Hzはこれの20dB落ちぐらいだ。
高域は20kHzがビシッと再生された。これ以上は測定できないので悪しからず。
軸上1mから測定したピンクノイズでは、こんな感じで低域はかなり出ている。
文/ゴン川野
オーディオ生活40年、SONY『スカイセンサー5500』で音に目覚め、長岡式スピーカーの自作に励む。高校時代に150Lのバスレフスピーカーを自作。その後、「FMレコパル」と「サウンドレコパル」で執筆後、本誌ライターに。バブル期の収入は全てオーディオに注ぎ込んだ。PC Audio Labもよろしく!