・触覚デバイスの需要
AVRSでは、4名のコンパニオンによる座談会も行われた。
内容は「女性が求めるアダルトVRコンテンツ」である。その中で、「画像と連動する触覚デバイスが欲しい」という意見が出た。
つまり、画面の向こうの相手が自分の腕を掴んだら、何かしらの機器が腕に触覚を与えるというものだ。男性よりも、女性のほうがそうした機器を強く求めるのかもしれない。
それに実写AVなどは、基本的に「見てるだけ」である。女優が立体的に映ってはいるが、決して自分の身体を触ってはくれない。だが、それが可能になったら?
これは、何もアダルトコンテンツだけに留まらない。ホラー作品にこの技術を応用したら、この上なく恐ろしいものになるだろう。また座談会では「温もりを伝えてくれる機能も欲しい」という声もあった。ほんのり温かい程度の体温を再現するということだが、これがホラーならば「ゾンビの冷たい手」として転用できるはずだ。
・実写VR作品の課題点
しかし、大きな問題点もある。
それは、現行普及のVRが「ジャイロ」であるということだ。
つまりプレイヤーを縦の固定軸にし、その回転で仮想空間を広げるというものだが、その固定軸から外れた動作はできない。たとえば、「下から覗き見る動作」は現行の実写VRには不可能だ。ゲームならともかく、実写動画の場合は首を傾げたら景色が分身してしまう。首の上下左右の運動には対応していても、斜めの運動には未対応なのだ。
だが、「完全な3D実写撮影」の技術はすでに存在している。IT業界の巨人Facebookやニュージーランドのスタートアップ8iが、「完全な3D動画」を撮影できる24眼カメラを確立させているのだ。AVRS副事務局長の早稲田治慶氏は、これらの製品を「迫る黒船」と表現した。
・VRの発展性とは
現状、24眼カメラは非常に高額な機器である。安くても数百万円の費用が必要だ。それに対応する動画編集システムを導入するとしたら、さすがに中小の映像制作会社では身に余る。
そうした点から見ても、実写VR市場への新規参入は大変な困難が伴う。なのに、思ったほどのパイが見込めない。だからこそAVRSでは、実写作品よりもゲーム作品のほうが存在感を発揮したようにも感じる。
ただし、VRはそれ自体がまだ新しいテクノロジーである。その用途や発展性は、開発者ですらすべてを見通し切っていない。それだけ可能性があるということだし、この記事も1年後には「ずっと昔の話」になっているだろう。
それだけ技術の進歩が早い、ということだ。
取材・文/澤田真一