■バギーの存在を初めて知った「バギーチャンプ」
キットでRCカーを作り始める前、男の子の多くはトイラジコンカーで遊び始めるものだった。ボタンが3つついていて、前後と右回り(左回りもあったけど)だけという、かなり大雑把なモデルでも、嬉々として遊んでいたものであった。
やがてその単純さに飽きが来て、次には前後左右するトイラジコンカーに進化、そこで終わるか、次にキットのRCカーへ行くかで大きな障壁があったものだ。
この「バギーチャンプ」はキットのRCカーの世界に多くの子供達を引きずり込んだ張本人だった。
タミヤ バギーチャンプ
価格:3万6720円(税込)
1979年に登場したバギーチャンプは、電動RCバギーというジャンルを確立したモデルとされている。確かに今見ても、スケール感といい、その完成度は高い。発売当時の価格は1万8000円。もちろん消費税などなかった。だが、トイラジコンカーはちゃちかったけど、プロポ込みで1万円アンダーが相場。それに対して、プロポ、バッテリーなどを用意すると4万円程度になるバギーチャンプは、おいそれと買えるモノではなかった。だが、子供達はお年玉を握りしめて、近所のプラモ屋に出掛けたものだった。
トイラジコンカーとの性能差はもちろん、圧倒的だったけれど、子供達がオンロードのRCカーではなく、バギーに走ったのは、ボヨンボヨンと跳ねる、サスペンション(突き詰めるとダンパーの動き)と中空タイヤの動きの面白さだったと思う。そのしなやかな動きはトイラジコンカーと決定的な差があった。
そして、その走破性も魅力だった。舗装路ではRCカーを走らせられないし、公園の砂利で走らせられるRCバギーの方が、自由にいつでも走らせられた。自転車のカゴにバギーとプロポを突っ込んで公園まで走らせに行った思い出は、大人になった今も忘れない。
バギーチャンプはRCメカや走行用のバッテリーをクリヤパーツのメカボックスに収められた。
また、モーターやギアも密閉されていて、埃や水たまりでさえも気にせず走れるのではないか? と思わせるタフさが魅力だったのだ。そう、バギーチャンプはRCカーのGショックだったのだ。
実際はダンパーから漏れた油と埃ででギトギトになったり、水を被ってショートしたりしたけれど、でも、公園で友達と一緒に走らせるのは楽しかった。自分たちでコースを設定して競争したり、大人に怒られて走行を止めて逃げ出したり…身近に楽しむのに最高の相棒だった。もちろん、今では公園や路上で走らせてはならないが。
今のオフロード用RCカーと比べれば、バギーチャンプの性能はかつてのトイラジコンカーのレベルかもしれない。でも、復刻版のRCバギーが人気なのは、何も競技がしたいからじゃない。ましてや飾っておきたいという気持ちからでもない。トイラジコンカーで止まってしまったかもしれないが、RCカーの楽しさを知っている当時の子供達が、大人になって久しぶりにその頃の楽しみを味わいたいと思っているからだろう。
ホットショット、トマホーク、バギーチャンプは数多い復刻版のRCバギーの中で、御三家ともいえる特徴的なモデルかと思う。昔を思い出して、30年ぶりににキットカーの製作を楽しみ、30年ぶりに走らせて遊んでみてはいかがだろうか?
文/中馬幹弘(ちゅうま)
慶應義塾大学卒業後、アメリカンカルチャー誌編集、アパレルプレスを歴任。徳間書店にてモノ情報誌の編集を長年手掛けた。スマートフォンを黎明期より追い続けてきたため、最新の携帯電話事情に詳しい。ほかにもデジタル製品、クルマ、ファッション、ファイナンスなどの最新情報にも通じる。
※記事内のデータ等については取材時のものです。