『永遠に尽きぬ男の欲望の挽歌』
白髪の、体の皮膚のシナシナ感からも、かなりの年齢を感じさせる、まぁ70はいってそうなジイサンである。
水風呂と熱い湯のちょうど中間の風呂のヘリに座ったそのジイサンは、片手に洗面器が持ってましてね、水風呂の冷たい水を洗面器に汲んでは股間にジャジャ〜とかけ、10秒すると、今度は湯船の熱い湯を汲んでは股間にジャジャ〜とかける、そして10秒後にはまた冷たい水をジャジャ〜……これを延々繰り返しているのだ!
こ、これは巷でたまに聞く、精力アップの秘法“金冷法”じゃないですかァァ!! いやでも、それをやってるのはね、ジイサンですよジイサン! そんなジイサンになってまで、やっぱり男としての力は失いたくないのか?
この男としての絶え間ざる力への執着心! 男というのは,根にそういう生き物なのか? なにか人間のはて知らぬ業というものを見せつけられた思いだなァ〜。
でもやってる当人も、禁冷法をやってることをおおッぴらに知られるのは恥ずかしんでしょうね。
水やお湯をかける時、自分の股間を見ながらかけるようなことはしないで、遠〜くを見つめるような目をしてましてね、ただ涼みながらボンヤリと水をかけてるだけですよ、ってな感じで何気なくかけてるんですよ。
でもオレは気付いたぞ、水と湯を交互に、それも一定のリズムでかけ続けていることに! なにしろオレだって男の力への執着心だけは、使い道すらなんにもないのに無意味に強いからな…。
それもまたそのジイサンが座ってる水風呂と湯船の間っていうのがまたうまくできててね。水風呂と湯船がただ並んでるんじゃなくて、段差があって並んでる。で、その段差を埋めるようにヘリが厚くなってる部分があって、そこにうまく座れるようになってる。
おまけにその段差があることで、水風呂と湯船がV字状に並ぶことになり、湯や水を組む時も体を大きく後にひねらないで済むんですよ。まぁ、文章の説明じゃよくわからないだろうから、これはイラストに描きますけど、この湯船の設計は、もう金冷法をしやすくするためにデザインしたとしか思えない、優秀すぎるデザインなのだ!!
この『H湯』、サウナで健康を追求するためだけでなく、実は金冷法による男の下半身関係の健康維持までをも追求した銭湯だったのか!? 恐るべし『H湯』! さらに恐るべしは、果てる事なき男の欲望!! う〜んスッボン皇帝!!
文/カーツさとう
コラムニスト。グルメ、旅、エアライン、サブカル、サウナ、ネコ、釣りなど幅広いジャンルに精通しており、新聞、雑誌、ラジオなどで活躍中。独特の文体でファンも多い。
■連載/カーツさとうの最強サウナ熱伝