■連載/35歳から履く大人の靴選び
大人に似合うシューズとは一体どんなものなのかを探る新企画「35歳から履く大人の靴選び」。シューズ業界の最前線で活躍するクリエイターの方たちに、現在のお気に入りと、大人たちに履いてほしいおすすめのシューズを紹介していただく。連載のトップバッターを飾るのは、東京・上野にある人気スニーカーショップ「mita sneakers」でクリエイティブディレクターを務める国井栄之(くにい・しげゆき)さん。多くのブランドとのコラボレーションや別注モデルのデザインを手掛けるだけでなく、国内インラインモデルのディレクションなども行っている。
スニーカー好きであれば誰もが知っている国井さんがお気に入りとして挙げたシューズは、ニューバランスの『MRT580』。『580』は、ニューバランスの数あるスニーカーの中でも特に思い入れのあるモデルだそう。
国井さん:ニューバランスの580は、オリジナルの発売が1996年。今年20周年を迎えました。アメリカで発売されていた『585“made in U.S.A.”』というモデルの日本改良品版として登場したもので、当時、日本はハイテクスニーカーブームだったこともあって、発売当初はあまり注目されずワゴンセールになったりもしていました。ちょっと陰に隠れた存在だったんですが、アパレルブランドのHECTIC(ヘクティク)を運営していた真柄尚武さん、YOPPI(江川芳文)さん、仲間のニューヨークのスケーターたちが履き始めたことで、グラスルーツ的に人気が広がっていったんです。
それから数年後、mita sneakersにニューバランスとのコラボレーションプロジェクトの話がやってくる。
国井さん:’90年代にコラボレーション、別注と言われていたスニーカーは、海外の大きなチェーンストアの販路限定の場合が多くて、厳密にはコラボレーションというわけではなかったんですね。そこに、ニューバランスとコラボレーションができるという話が持ち上がってきて。それはmita sneakersにとっても、僕にとってもターニングポイントでした。その頃ニューバランスで人気があったのは『1300』や『576』というモデルだったんですが、せっかくのチャンスだし好きなことをやりたいなと思って。そこで頭に浮かんだのが『580』だったんです。そこで真柄さん、YOPPIさんと相談をして『MT580“HECTIC×mita sneakers”』が生まれることになりました。企画がスタートしたのは1999年で、ローンチしたのが2000年の12月ですね。
『MT580“HECTIC×mita sneakers”』のコラボレーションプロジェクトは、国内だけでなく世界中のスニーカーファンから支持され、ベースモデルを変えずに10年以上に渡り継続された。これは世界的にも類を見ないこと。そしてこのコラボレーションプロジェクトによって『580』は大人気モデルとなったのだ。第2弾モデル以降は抽選販売となり、リリースの度にストリートファッション誌を中心に話題となっていたが、第1弾発表時はネガティブな意見もあったそう。
国井さん:第1弾のときは店頭にサンプルを置いて予約をとっていたんです。当時はまだニューバランスと言えばMade in U.S.A.やMade in U.K.が絶対という意見も多かったですし、コラボレーション自体が今ほどポピュラーなものではなかったので、アジア生産の『MT580“HECTIC×mita sneakers”』に拒絶反応のようなものも少なからずありました。ただそれ以上に、懐古主義ではなく新たな試みに賛同してくれたスニーカーヘッズが、盛り上げてくれたんです。