ここ数年、飲食業界やSNSを席巻しているインドの炊き込みご飯「ビリヤニ」。かつては知る人ぞ知るコアなメニューだったが、今や大手コンビニエンスストアの棚に並び、専門店の出店も相次ぐなど、私たちの食生活に急速に浸透しつつあります。
すでに欧風カレーやスパイスカレーといった強固なカレー市場を持つ日本で、なぜこれほどまでにビリヤニが受け入れられたのでしょうか?
今回は、ビリヤニ愛好家であり、その魅力を発信し続けるビリヤニ太郎さんにインタビューを実施。ブームの背景から美味しいお店の見分け方、そして日本のビリヤニカルチャーの未来まで、たっぷりとお話を伺いました。
ビリヤニ太郎さん
日本ビリヤニ協会会長。学生時代にインドに訪れ、現地で食べたビリヤニに感銘を受けて、インド各地でビリヤニの作り方を教わる。以降、料理教室やビリヤニキットの開発、メディア出演などビリヤニの普及活動を開始、ビリヤニを求め、インドのみならずパキスタン、中央アジアなどを旅し、計70カ国を訪問。2023年にレシピ本を出版。ビリヤニの探求をライフワークとしている。
セブン-イレブンへの登場が「最大の分岐点」に
――日本にはすでに独自のカレー文化が根付いていますが、なぜ今「ビリヤニ」がこれほど広く受け入れられているのでしょうか?
ビリヤニ太郎さん: カレーをはじめ、もともとスパイスを使った料理に馴染みがあった日本人にとって、ビリヤニは「受け入れられて当然の料理」だったのだと思います。ただ、これまでは食べられるレストランが限られていました。近年、本場志向の方によるお店の開拓が進み、提供するレストランが増えたことで、多くの人にとって手が届く存在になったことが大きいですね。
――愛好家などの「コア層」から、一気に「マス層」へと広がった最大の分岐点はどこにあったと見ていますか?
ビリヤニ太郎さん:最大の分岐点は、間違いなく「エリックサウスとセブン-イレブンのコラボ」で、セブン-イレブンのお弁当にビリヤニが採用されたことですね。 これにより首都圏だけでなく、全国の店舗でビリヤニが食べられるようになり、一気にマスへと移行しました。また、万博でビリヤニが提供されたことも、多くの方に手に取ってもらうきっかけになったと思います。大手の参入によって、これまで「新しいもの好きのコア層」にしか知られていなかったビリヤニが、より多くの消費者の目に留まり、市場が拡大しました。
トレンドが感度の高いコア層からマス層へ一気にブレイクスルーする過程において、「大手コンビニチェーンや食品メーカーの参入」は強力な起爆剤となりうる。特にセブン-イレブンのコラボは、コストや製造面でハードルが高いとされる本格的なバスマティライスをコンビニ弁当のインフラに載せ、全国に流通させたという点で、日本の食のトレンド史におけるエポックメイキングな出来事だったといえるだろう。
バスマティライスの普及と「味変」の真実
――日本ではかつてのタイ米騒動以降、長粒米に馴染みが薄かった時期もありました。なぜビリヤニ特有のパラパラとした「バスマティライス」がポジティブに受け入れられたのでしょうか?
ビリヤニ太郎さん:日本には美味しい日本米があるので、昔は日本米を使ったビリヤニがほとんどでした。しかし、外国人向けや本場志向のお店が増え、本来のビリヤニを提供する環境が整ったことで、バスマティライスを使ったものが普及していきました。 いまだにパラパラした長粒米が苦手な人も一定数いるとは思います。ですが、本来のビリヤニを追求する層にとっては「バスマティでなければ本来のビリヤニの味にならない」ので、そういったコアな層に深く刺さっているのだと思います。
――ビリヤニといえば、ライタ(ヨーグルトサラダ)やアチャール(漬物)を自分で崩しながら混ぜて味を変えるスタイルが特徴的です。この食べ方がSNS映えや拡散に影響したのでしょうか?
ビリヤニ太郎さん: 実は、そのスタイルは拡散にそこまで影響していないと思っています。 そもそも、ビリヤニは単体で完成した料理です。「味変のためにライタがある」というのは、例えるなら「牛丼に紅生姜をのせる人とのせない人がいる」程度のものなんですよ。
SNSでの「映え」や「体験のシェア」がブームの牽引役になることが多い昨今だが、「混ぜて食べる体験」自体は普及の主たる要因ではなく、「純粋に料理としての完成度の高さ」が支持されているという視点は非常に興味深いポイント! 小手先のギミックではなく、バスマティライスの軽やかな食感とスパイスの香りのハーモニーという「本質」こそが、リピーターを生み出す原動力なのだろう。
美味しいビリヤニの条件と、ハズさないお店の選び方
――ビリヤニ太郎さんが考える「美味しいビリヤニの条件」を教えてください。
ビリヤニ太郎さん:もちろんなことですが、バスマティライスを使っており、お米が崩れておらず、1つ1つのお米が立っているものですね。 あとは個人の好みになりますが、私は1口目からガツンとくる濃いめの味付けよりも、「スパイスが強すぎず、食べ進めていく中で美味しさを噛み締めることができるビリヤニ」が好きです。また、口に含んだ時に鼻から抜ける香りも大事にしています。
――初めてビリヤニを食べに行く人に向けて、美味しいお店の選び方とおすすめ店を教えてもらえますか?
ビリヤニ太郎さん:お店に行く前に、事前にSNSやグルメサイトで料理の写真を確認して「バスマティライスを使っているか」をチェックすることから始めてみてください。また、「曜日限定」や「時間限定」で提供しているお店は、炊き立てを食べられるケースが多いので、美味しいお店を探すうえで意外といい指標になります。
【まずはココ!ビリヤニ太郎さんがおすすめ店】
・ジョニーのビリヤニ
・カラチの空
・サラムナマステ
特に『サラムナマステ』は、ビリヤニ初心者の方にも食べやすくていい味だと思いますよ!
うなぎ、カニ、きのこ!?日本のビリヤニは「魔改造」で進化する
――大衆化が進む一方で、チキンだけでなくマトンや魚介、さらにはインド各地の調理法(ダム式/パッキ式など)への細分化・深掘りも見られます。日本のビリヤニカルチャーは今後どうなっていくでしょうか? 日本のビリヤニが、日本独自の進化を遂げる可能性はありますか?
ビリヤニ太郎さん:日本には幸い、カレーとナンをメインにした「インドカレー屋」がものすごい数あります。インドやネパールの様々な地域出身である彼らがビリヤニを作り始めれば、今よりもさらに多種多様なご当地ビリヤニが食べられるようになるはずです。
また、日本人は他国の料理にアレンジを加えるのが好きな人種ですから、今後も独自の進化が進んでいくでしょう。すでに、うなぎ、カニ、きのこを使った、現地では見ることができないいわゆる“魔改造ビリヤニ”を私自身たくさん拝見しています(笑)。
ビリヤニは炊飯器を使っても作れるので、各家庭に炊飯器がある日本には、普及する土台がすでに整っているんです。今後、バスマティライスとセットになった「ビリヤニの料理キット」などが大手スーパーで販売され始めたら、家庭料理としても完全に定着していくと思っています。
――最後に、これからビリヤニデビューをするエントリー層へ向けてアドバイスをお願いします!
ビリヤニ太郎さん:難しく考えず、とりあえず美味しいビリヤニのお店に行って、ビリヤニを食べてきてください!
いかがだろうか?
一度食べてみれば、スパイスの複雑な香りとパラパラのバスマティライスが完璧なバランスで織りなすビリヤニには、ひと口ごとに新たな発見があり、虜になること間違いなし。専門店が追求するストイックな本場の味わいにとどまらず、日本の豊かな食材を用いた驚きの進化、そして炊飯器キットを通じた家庭料理への定着など、ビリヤニが持つ今後の可能性は計り知れない。まだ未体験という方も、すでに魅了されている方も、ぜひこの機会により深く、より自由なビリヤニの世界へ飛び込んでみてはいかがだろうか。
取材・文/石﨑寛明(DIME編集部)
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