サムスン電子が折りたたみスマホの「Galaxy Fold」を世に送り出してから7年、ついにアップルがその対抗馬になる「iPhone Duo」を発売した。iPhone初の折りたたみスマホで、開いたときのディスプレイサイズも歴代最大の7.6インチになるとあり、高い注目を集めている。生産に遅れも出ているため、発売直後から品薄状態が続いている。
折りたたみスマホは、Android中心に発展してきており、市場にも多数の製品が出回っているが、アップルとしては初の製品カテゴリー。その一方で、初物ながら、どの角度でも止められるヒンジや、映り込みを大きく軽減するNano-textureコーティングのメインディスプレイ、さらには画面下にカメラを埋め込んだアンダーディスプレイカメラなどを搭載しており、差別化を図っている。
とは言え、作り込みの結果、価格は36万4800円からと、歴代モデルで最高値になってしまった。返却前提の大手キャリアの端末購入プログラムを使っても、2年で20万円程度かかる。これだけの価格に見合う価値や使い勝手は、本当にあるのか。実機を使い、その実力を検証した。
写真の表示は大迫力、Touch IDは慣れが必要か
iPhone Duoがこれまで出てきた数々の折りたたみスマホと違うのは、開くと横長のディスプレイが現われるというところにある。サムスン電子も「Galaxy Z Fold8」を近い形状にしたが、どちらかと言えばこれまでは正方形に近い縦長のディスプレイが主流だった。開いた時のアスペクト比は1:1.4になり、写真や動画などがフィットするため、無駄なスペースが生じにくい。
ただし、写真と動画ではややその表示領域も異なる。スマホで撮影する写真は3:4の画角が主流で、これはほぼ画面にピッタリ。余白が少なく、まるで写真そのものを手に持っているような印象を受ける。一方で動画は16:9やより横に長い21:9のものが多く、1:1.4のディスプレイでもやはり上下に余白(実際には黒くなるが)ができてしまう。それもあり、7.6インチという数字ほど大きく見えないのも事実だ。
特徴的なのは、反射を軽減するコーティングが施されていること。これがあるため、明るい場所でもディスプレイが見やすい。触ったときのサラッとした感覚も独特だ。また、インカメラは画面下に埋め込まれているため、映像の妨げにならない。こうした仕様からは、視聴環境をよくすることがしっかり考慮されていることが伝わってくる。
開いた時の形状から逆算して作られていることもあり、閉じた時のサイズ感はこれまで登場してきたiPhoneとは大きく異なる。パスポートに近いサイズ感で、既存のモデルと比べると縦が短く、横に長い。また、Face IDも搭載されておらず、生体認証はサイドキーと一体となったTouch IDになる。
ディスプレイのアスペクト比が異なるため、ホーム画面のDockやアプリ起動時のボタンなどは、右端のスペースにまとめられた。そのため、アンテナピクトやWi-Fi、モバイル通信のアイコンなども、再設計されている。横に操作系のボタンをまとめることで、閉じたときのアプリはきちんと縦長になり、違和感が少ない。形状の違いを、ユーザーインターフェイスの再設計で上手にカバーした格好だ。
一方で、物理的に横幅が長いのも事実。また、右側に操作系のボタンが寄せられているため、片手持ちした際に親指がやや左側に届きづらい。サイドキーの位置がやや下寄りにあるため、指紋認証にも慣れが必要になる。そもそも、iPhoneにはFace IDで顔を認識すると、通知の中身を表示するという機能があるが、Touch IDだとそのチェックのために、あえて指をサイドキーに乗せなければならない。
形状が違うだけでなく、生体認証の方式を変えたことで、やや使いづらくなっている面はある。開くと正方形に近くなる折りたたみスマホは、閉じた際の比率が通常のスマホに近くなるため、ほぼ同じ操作感を実現できていたが、横長ディスプレイを前提にすると、やはり閉じた時に違和感が出てくる。開いた時の迫力と閉じた時の使い勝手、どちらを優先するかだが、iPhoneは後者を選んだと言えそうだ。
ヒンジの完成度が高く開閉時の演出もおもしろい、半開きでも使いやすい
折りたたみの要になるヒンジも、非常に工作精度が高く、開閉が滑らかだ。力のかかり方が、角度によって微妙に変わっていき、最初は少し反発があるが、途中でスーッと開いていき、最後にパタンと開く動きが心地いい。この動きに、画面のアニメーションが連動しており、まるで中のディスプレイが透けて見えるような演出がされているのも、使っていて楽しくなる部分だ。
こうした演出は随所に施されており、例えばインカメラで自撮りするような時には、最初にカメラ部分が黒く表示され、そこにカメラがあることが分かる。カメラを終了させると、それがすっと消え、あたかもそこにあったレンズが消えてしまったように見える。“魔法のよう”を売り文句にする、アップルらしいギミックと言えるだろう。
とは言え、こうした演出に驚くのは最初だけ。使い続けていくうちに慣れてしまい、新鮮さはなくなってくる。アップルらしさではあるが、時間とともに魔法が解けると、その厚みや重さが気になってくる。折りたたみスマホというフォームファクターゆえに、ある程度は許容できるが、競合のモデルが閉じても通常のスマホとほぼ変わらない厚みや重さを実現していることを踏まえると、やはり改善してほしい部分だ。
一方で、ヒンジに関しては滑らかに開く割にはどの角度でもピタッと止まり、机やテーブルの上に置いた時に使いやすい。角度を調整しやすいため、映像を見やすい最適な位置でピタッと止めておいたり、置きながらカメラ撮影をする際に画角の調整をしたりといったことがしやすかった。ヒンジの作り込みに関しては、今まで出てきたどの折りたたみスマホよりもよくできていると感じた。
もっとも、これはiPhone Duoに最適化されたアプリであればの話。内蔵のカメラアプリや、動画配信のNetflixのように、iPhone Duo用に作り込まれたアプリの場合、画面の下半分が操作パネルになり、置いたままでも使いやすい。Netflixのように、映り込みを映像として反映しているアプリは、こだわりを感じる。
エコシステムが未成熟なのがなんとも残念、しばらくは待ちが正解か
逆に、現時点ではiPhone Duoに最適化されていないアプリが多すぎるため、かなり使うアプリを選ぶ必要がある。上記のようにNetflixは半開きの状態で操作パネルが出るほか、YouTubeもコメントや概要欄などが下半分に表示される一方、ビデオ会議アプリのZoomは、半開きにしても縦位置のアプリの画面が出るだけで、かなり使い勝手が悪い。
そもそも、iPhone Duoに非対応のアプリだと、現時点では開いた時に、縦位置で表示されてしまう。このようなアプリが多すぎて、現状だとあまり開いて使う気になれないというのが正直な気持ちだ。国内でシェアの高いアプリだと、LINEやメルカリ、楽天市場、Yahoo!ニュースなどは軒並み縦位置で表示され、開いた時だと左右にかなり無駄な黒いスペースができてしまう。
見開きで読みたい電子書籍や電子雑誌、電子コミックアプリも同様で、国内向けのサービスは多くが上記のような状態。AmazonのKindleは全画面に広げて見開きで表示することができるものの、操作にバグがあり、開閉しないと書棚に戻れなかった。iPhone Duoに完全対応しているアプリと、そうでないアプリの落差が大きいのはガッカリするポイントだろう。
とは言え、アプリ開発者側もiPhone Duo発表から開発ツールのアップデート、端末発売まで時間がなく、実際にはこれから続々と対応していくことになるとみられる。ただ、それでも未対応のまま放置されてしまうアプリは残るだろう。Androidの場合、OS側である程度強制的にレイアウトを変更する機能があり、非対応アプリでもそれなりに使えるが、アップルは同じ手法を選ばなかった。
これはよりユーザー体験を完璧にするためだろう。一方で、そのぶん、非対応アプリの使い勝手の悪さが目立つ形になってしまったので一長一短だ。非対応アプリは、閉じた時も右端に無駄なスペースができてしまうため、その意味では、これまでのiPhoneよりも使い勝手が落ちる形になる。
ヒンジやディスプレイ品質などのハードウェアや、OS側の演出などの完成度は高い一方で、エコシステムが未成熟すぎるというのが現時点での率直な印象。むしろ、もっと安いiPhoneの方が利便性が高いという点では、価格に見合った価値があるとは言いづらい。
逆に、青田買いをして、その成長を楽しむという観点で持つのであれば、もっともおもしろい端末の1つであることは事実だ。ハードウェアの完成度が高いこともあり、所有欲をくすぐられる端末であることは間違いない。利便性を求めるなら待ち、ワクワク感を重視するなら買いというのが実際に使ってみての結論だ。
取材・文/石野純也




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