スナック菓子の名前が満腹感を予測させる
小腹が空いた時にスナック菓子に手が伸びるという人は少なくないとは思うが、その多くは後の食事に響かないようにあくまでも軽くつまむに留めたいと考えるのではないだろうか。余分なカロリーを摂りたくないと思いつつも止むに止まれず口にしているケースもありそうだ。
このようにスナック菓子を食べる行為には誘惑との闘いの側面もあるのだが、そこで重要になってくるのが個別の商品イメージであり、特にそのネーミングである。ヘルシーで低カロリーなイメージを植え付けることができればそれだけ手に取られやすくなるだろう。
たとえばプリッツ、カール、ぱりんこ、など軽い響きの商品名は食べてもあまり“罪悪感”を感じずに済みそうである。一方、ガトーショコラやレディボーデンなどの重厚な音色は、それなりの食べ応えを予感させてくれそうだ。
興味深い新たな研究では、スナック菓子の名前は食べた際の満腹感の想像に影響を与えていることが報告されている。
カナダ・オタワのカールトン大学の研究チームが今年8月に「Food Quality and Preference」で発表した研究では、スナック菓子の商品名やブランド名の「音象徴(おんしょうちょう、Sound Symbolism)」が、食べた際の満腹感を予測させていることが報告されている。
音色が特定のイメージを喚起させる
1929年に言語学者のエドワード・サピアが証明した音象徴は、音そのものが持つ響きが人間の心に特定のイメージ、たとえば大きい、小さい、重い、軽い、などを喚起させる現象である。
代表的な音象徴の現象の一つに「ミル/マル効果(mil/mal effect)」がある。ミルと呼ばれる物体と、マルと呼ばれる物体の大きさを実験参加者に想像してもらったところ、70%以上が「マル」が大きく、「ミル」が小さいと回答したのだ。
母音の「あ(a)」の音が含まれるマルは大きな物や広い空間を連想させ、母音の「い(i)」の音が含まれミルは、小さな物や狭い空間を連想させるのだと解釈されている。
さらに「ブーバ/キキ効果(bouba–kiki effect)」は、丸みを帯びた図形と、ギザギザでとがった図形に対し、どちらがブーバでどちらがキキかを尋ねたところ、、丸みを帯びた形をブーバ、ギザギザでとがった形をキキと判断する傾向が一貫して高いことが確認されている。
この結果は年齢に関係なく、大学生、高齢者、幼児、そして英語話者だけでなくほかの言語話者にも当てはまることもまた報告されている。
「ミル/マル効果」や「ブーバ/キキ効果」に基づき、研究チームはスナック菓子の名前の響きが、その印象にどのような影響を与えるかを音象徴によるアプローチで検証した。具体的にはスナック菓子の名前の響きによって、その食品が重いか軽いか、満腹感が大きいか少ないかといった人々の期待を調べたのだ。
濁音があり重厚な響きのネーミングは満腹感を連想
研究チームは600人以上の参加者を対象に、さまざまなスナック菓子の架空の商品名を提示して実験を行った。例えば「Tikee(タイキー)という名前の新しいポテトチップスを想像してみてください」とか、「Boge(ボーゲ)という名前の新しいトレイルミックスを想像してみてください」といった質問に回答することが参加者に求められた。
架空の商品名は小ささや大きさに関連する音を持つ造語で、オートミールのような健康的な食品から、ポテトチップスのようなカロリー過多な食品までさまざまな食品に及び、各食品に割り当てられた名前は、参加者ごとにシャッフルされてランダムに提示された。
参加者には、その食べ物がどれくらい重く、どれくらい満腹感があるかを予想してもらった。その結果、Bogeのような名前のスナックは、Tikeeのような名前のスナックよりも重く、満腹感があると予想する者が多いことがわかった。
濁音がなく軽い語感のネーミングの商品は文字通り軽いスナックに感じられ、濁音があり重厚な響きのネーミングの商品はそれ相応に食べ応えのある食べ物を連想させていたことになる。
名前の長さ、人々の好感度、発音のしやすさといった要素も考慮に入れたが、食べ物の種類、たとえば健康的なものか不健康なものかは、名前の効果には影響していなかった。つまり実際にはカロリー過多の商品でも、その名前が軽快な音色であればそれほどお腹に溜まらないもののように思えているのである。
手土産を渡す友人は大食いか小食か
この音象徴効果は購買行動にどう影響を及ぼしているのか。
調査の結果、購入意欲は、その人の現在の目標によって左右されることが分かった。友人への手土産を選ぶシナリオでは、参加者にボリュームのある食べ物が好きな友人、あるいはヘルシーで軽い食べ物が好きな友人を想像してもらった。するとその友人によって購入意欲が変化した。大食いの友人には「大きい」名前の食品、小食の友人には「小さい」名前の食品を購入する傾向が高まったのだ。
つまりスナック菓子の名前の響きは、人が探している食品の種類によっては、購入意欲に影響を与える可能性があるということだ。
軽い語感のスナック菓子は文字通り軽いおやつに感じられて少しぐらい食べても“罪悪感”も少なくなりそうだが、逆に食事を抜いていたりして空腹な状態では胃袋を満たすために重い響きのネーミングのスナック菓子を手に取る相応の理由があるのだろう。
また人々の事前の期待が食後の満足感に影響を及ぼすこともありそうだ。その食べ物が満腹感をもたらすと期待して食べれば食後の満足感はより増し、逆にあくまでも軽食やおやつだと見なして食べた場合は食後の満足感が低くなっても不思議ではない。
パッケージデザインも印象に影響を与える
今後の研究では、言葉による説明だけでなく、商品の実物にも着目すべきであるという。商品名だけではなく、パッケージの光沢、形状、配色などのデザインもまた印象に影響を与えているだろう。
たとえば人々は、鮮やかな色のパッケージよりも、地味な色のパッケージの製品の方が健康的だと認識する傾向があり、また光沢のあるパッケージのスナック菓子は脂肪分が多いと思い込む傾向があることがこれまでの研究で報告されている。
これらの要素が複合的に作用することで、スナック菓子の満腹感に対する印象は、単に名前だけの場合よりも強まる可能性があるのだろう。
自分用でも差し入れに持っていく場合でも、選んだお菓子によって今自分がどんな状態にあるのか、あるいは渡す相手をどう認識しているのかについて理解が深まりそうである。
※研究論文
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0950329326002223
文/仲田しんじ
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