8月28日に小学館から発行されたコミック『ゴルゴ13 THEサバイバル ~大地震、その時!~』。世界を震撼させる超A級スナイパー「ゴルゴ13」ことデューク東郷が、その身を以て自然災害を乗り切る方法を解説する内容だ。
日本は世界有数の「災害大国」である。地震、津波、台風、水害、土砂災害等々、あらゆる災害の発生と常に隣り合わせだ。このような国は珍しい。その上で『ゴルゴ13 THEサバイバル』は、群衆事故や熊との遭遇といった今話題(?)の災難についても語られている。
今回は、その内容をさらっと窺いつつ「この状況で我々一般人ならどうするべきか?」と考えていきたい。

『ゴルゴ13THEサバイバル~大地震、その時!~』
原作/さいとう・たかを 作・画/深山雪男
群衆事故の恐怖
群衆事故。これは都市部では、大地震の直後に発生する可能性があると言われている。
なぜか? 仮に渋谷で震度7の地震が発生した場合、多くの人は地下に逃げ込むはずだ。となると、決して広くはない地下空間は当然ながら人ですし詰め状態になる。その際に「群衆雪崩型」もしくは「将棋倒し型」の崩壊が起きたら、多くの人が押し潰されてしまう。
2022年10月29日に韓国・ソウルで発生した梨泰院雑踏事故は、日本にも警備上の大きな影響をもたらした。同様の事故が発生しないよう、JR新宿駅やJR渋谷駅等の「人の滞留地」では無用の立ち止まりが禁止されるようになったのだ。これは10月31日のハロウィンにも波及し、結果として日本を騒がせた渋谷ハロウィンはかつてのような賑わいをなくしていく。
作中のデューク東郷は、渋谷の地下街で群衆事故寸前の事態に遭遇した。その時に東郷が取った行動は、壁に向かって腕を張り、スペースを作るというもの。この状況では、群衆の中央が最も危険な場所である。肺を圧迫されないよう、胸の前にカバン等で空間を作るのも良い選択肢だ。
スリッパとデューク東郷
『ゴルゴ13 THEサバイバル』は、作中で何度も大地震が発生する。そして、この作品が特に強調しているのは「大地震の驚異」ではなく「大地震がきっかけの混乱や現象」である。
たとえば、30階建て以上のタワーマンションの高層部に住む人が大地震に遭ったら、その後はどうなるのか? 5階建ての団地とは違い、30階からの避難というのは容易なことではない。また、断水が発生した時には生活用水を部屋に運ぶ術がない。停電のためにエレベーターは稼働せず、水は階段を使って人力で運ぶ……という事態も考えられるのだ。
また、火災が発生した場合は意外な危機が住民に及ぶ可能性も。タワマンにはスプリンクラーの設置が義務付けられているが、他方で低層階で発生した火災の煙が一酸化炭素中毒や窒息の危険をもたらしてしまうかもしれない。故に、タワマンの住民は建物の耐震設計に全てを依存することなく、「いざその時」を常に考えていないといけない。
作中でデューク東郷が温泉旅館に宿泊する場面がある。そこでお節介焼きの女将に渡された防災バッグには、ライトとスリッパ、軍手、水、笛が入っている。一見、心許ない非常用品だが、これがのちに東郷の身の安全を守ることになる。特にスリッパは、作中で東郷の「とある行動」を支えるアイテムとして活用される。
東郷VSエスパー
『ゴルゴ13 THEサバイバル』のハイライトは、アンヌ・アンドレーエヴァとの対決である。
アンヌはSPコミックス『ゴルゴ13』58巻『テレパス』に登場したエフゲーニャの妹。このエフゲーニャは超能力で東郷の狙撃を回避することに成功したエスパーだが、アンヌは姉以上の強い力を持っている。
アンヌは自然災害を予知する能力を持っているが、それを利用して日本国内の分断を画策している。ここで注目すべきは、災害発生時はネットで様々な情報が飛び交い、中には大衆の動揺を掻き起こすことが目的の情報も混ざっているという点だ。
アンヌはひたすら日本国民の不安を煽る発言を繰り返し、分断とパニックを起こさせる。悲観論は新たな悲観論を生み出し、SNSで拡散されていく。21世紀の自然災害は、情報戦争の側面も持っているのだ。
2019年に49歳で逝去したインドネシアの国家防災庁主席報道官のストポ・プルウォ・ヌグロホは、SNSで拡散される災害関連情報の真贋をチェックし、その結果を公表する活動に従事していた。たとえば、インドネシア国内にある火山が噴火した際は誰かが別の国で発生した火山噴火の動画をアップし、「これはインドネシア国内の火山だ」と主張する。2016年の熊本地震の際に拡散された「脱走したライオン画像」と全く同じ手段だが、被災者に与える精神的プレッシャーは非常に大きい。
ストポはデマ情報検証の第一人者として、世界各国のジャーナリストからも大きく評価されていた。ステージ4の癌と戦っていたストポがその命と引き換えに残したのは、「災害そのものよりも恐ろしい現象が存在する」というメッセージだったのだ。
自然災害を利用して日本を混沌の底に落とそうとするアンヌに、デューク東郷はどのように立ち向かったのか? 続きは本編を確認していただきたい。
静岡県に存在した「先見の知事」
筆者は静岡県静岡市在住である。
静岡県民は、全国的には「防災意識の高い人たち」ということで知られているが、実は今に至る防災意識を持つようになってから50年しか経っていない。きっかけは山本敬三郎の静岡県知事就任だ。
山本は大地震を想定した街づくりや大規模区画整理を実行しただけでなく、宝永地震に関する古文書を整理・分析して地震科学に役立てるという政策も実行した。山本が静岡県知事だった70年代、山本以上に「災害への備え」について考えている首長はいなかった。山本が新聞の取材に応じた記事を読んでみると、これがとても50年前のものとは思えないほどの「新しさ」を保っていることが分かる。
そうした背景を認識しながら『ゴルゴ13 THEサバイバル』を読んだ場合、これが21世紀のテクノロジーやライフスタイルを念頭に置きつつ、実はスタンダードな防災対策をベースにしていることが分かるだろう。
文/澤田真一
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