株主優待を目当てに株を買う人は多い一方で、配当の高い株を買ったほうが得ではという声もあります。本記事では、金券や自社製品などの優待を利回りに換算するルールを示します。そのうえで、50万円以内で買える優待株と高配当株を同じ金額で比べます。配当と優待を合わせた実質利回りは、どちらが上なのか。権利確定日前後の値動き、優待の廃止や改悪、長期保有の条件といった優待ならではの弱点も整理します。
優待を利回りに直す4つのルール
株主優待は現金ではないため、そのままでは配当と比べられません。本記事では次の4つのルールで優待を金額に直します。
1つ目は、ポイントやQUOカード、ギフトカードのように現金に近いものは額面どおりに数えることです。
2つ目は、自社店舗で使う食事券や買物券は、ふだんからその店を使う人なら額面で数え、使い切れない人はその分を差し引くことです。
3つ目は、自社製品やカタログギフトを定価ではなく「自分でお金を出しても買う値段」で見積もることです。
4つ目は、「〇%割引」のような割引券は実際に浮いた金額だけを数え、使わなければゼロとすることです。
同じ優待でも、人によって価値は変わります。たとえば外食チェーンの食事券は、年に数回その店で食事をする人なら現金とほぼ同じですが、近くに店舗がない人には価値がありません。優待券には有効期限があるため、期限内に使い切れるかどうかも見積もりに含める必要があります。また、すかいらーくのように転売を禁止している優待もあり、使わない券を売って現金に換える前提で計算できるとは限りません。
こうして出した優待の年間金額を投資額で割ったものが優待利回りです。これに配当利回りを足したものを、本記事では実質利回りと呼びます。
50万円で優待株2銘柄と高配当株1銘柄を比べる
優待派の例は、ビックカメラ(3048)とすかいらーくホールディングス(3197)を100株ずつ買う組み合わせです。株価はいずれも2026年10月14日の終値で、銘柄は計算のための例として挙げるもので推奨ではありません。ビックカメラは株価1,700円で、100株の投資額は17万円です。2027年8月期の年間配当予想は1株50円で、100株なら5,000円。優待はグループ店舗で使える1,000円の買物券が2月末基準で2枚、8月末基準で1枚の、年3,000円分です。
すかいらーくは株価3,333円で、100株の投資額は33万3,300円です。2026年12月期の年間配当予想は1株27円で2,700円。優待はガストやバーミヤンなどで使える電子チケットが6月末と12月末に2,000円分ずつ、年4,000円分です。
2銘柄の合計投資額は50万3,300円です。受け取れるのは配当7,700円と優待7,000円で、合計1万4,700円。実質利回りは約2.9%になります。
配当派の例はソフトバンク(9434)です。株価241.8円で2,000株を買うと48万3,600円。2027年3月期の年間配当予想は1株8.8円なので、配当は1万7,600円、利回りは約3.6%です。
優待を額面どおりに数えても、この組み合わせでは配当派が年2,900円多く受け取る計算です。ただし優待株の中でも差は大きく、ビックカメラ単独の実質利回りは約4.7%とソフトバンクを上回ります。足を引っ張っているのは、配当利回りが0.8%台のすかいらーくです。すかいらーく単独の実質利回りは約2.0%で、優待を額面で数えてもソフトバンクの配当利回りに届きません。優待株とひとくくりにせず、銘柄ごとに配当と優待を足して確かめる必要があることがわかります。
税金を引くと差は縮まる
課税口座では、配当から20.315%が源泉徴収されます。一方、優待は税務上「雑所得」に当たるものの、配当のように天引きはされません。給与所得者で給与以外の所得が年20万円以下なら、所得税の確定申告は不要とされています(住民税は別途申告が必要です)。
税引き後で比べると、優待派は配当6,136円と優待7,000円で1万3,136円(約2.6%)、配当派は1万4,025円(約2.9%)となり、差は約900円まで縮まります。
長く持つと、さらに差は詰まります。ビックカメラは8月末基準で、1年以上の継続保有なら優待券が1枚、2年以上なら2枚追加されます。2年以上持つと、優待派の税引き後の受取額は1万5,136円(約3.0%)です。ソフトバンクにも1年以上・100株以上の保有でPayPayマネーライト1,000円分を受け取れる優待(申請制)があり、これを加えた配当派は1万5,025円。両者はほぼ並びます。
なお、NISAの成長投資枠で持ち、配当の受取方法を株式数比例配分方式にしていれば配当も非課税になります。この場合、税金面での優待の有利さはなくなります。
優待は100株がもっとも効率がよい
配当は株数に比例して増えますが、優待はそうではありません。ビックカメラを500株持っても、保有株数に応じた優待は年5,000円分で、100株の約1.7倍にとどまります。投資額は5倍になるため、優待利回りは大きく下がります。
仮に50万円をビックカメラ1銘柄に入れると、100株単位なので300株(51万円)になります。この株数では優待は100株と同じ区分で、年3,000円分のままです。配当1万5,000円と合わせた実質利回りは約3.5%となり、ソフトバンクの約3.6%をわずかに下回ります。100株なら4.7%あった実質利回りが、株数を増やすだけで1ポイント以上下がる計算です。
このため優待株は最低単位の100株で持つと効率がよく、投資額が大きくなるほど配当派が有利になります。50万円程度の資金なら、優待株を100株ずつ複数に分ける方法や、優待株は100株だけにして残りを高配当株に回す方法もあります。
権利確定日前後の値動きで優待が消える
優待をもらうには、権利付き最終日までに株を買い、権利確定日に株主名簿に載る必要があります。人気の優待株は、権利付き最終日に向けて優待目当ての買いで上がり、権利落ち日以降に売られて下がりやすい傾向があるとされます。
優待の金額は株価に比べて小さいため、この値動きは無視できません。すかいらーくを100株持つ場合、株価が1%下がるだけで3,333円の評価損となり、年4,000円分の優待の8割強に当たります。権利付き最終日の直前に高値で買い、権利落ち後の下落で含み損を抱えると、優待を差し引いても損になることがあります。
このため、長く持つつもりであれば、あえて直近の権利日を見送り、権利落ち後に株価が下がった場面で買うという考え方もあります。権利付き最終日は権利確定日の2営業日前で、証券会社の優待検索サイトなどで確認できます。購入前に、過去の権利日前後で株価がどう動いたかを見ておくと、高値づかみを避けやすくなります。
廃止・改悪と長期保有の条件
優待は配当以上に企業の判断で変わりやすい制度です。すかいらーくは2020年9月、100株の優待を年6,000円分から年4,000円分に減らすと発表しました。2022年には日本たばこ産業(JT)とオリックスが株主間の公平を理由に相次いで優待の廃止を発表し、還元を配当中心に切り替えています。大和総研の分析では、優待の廃止を公表した翌日の株価リターンは、平均で5~6ポイントほど押し下げられたと推計されています。同じ分析では、廃止と同時に増配を公表した企業は、下げ幅が小さくなる可能性も示されています。
配当にも減配のリスクはありますが、配当は業績や配当方針に沿って決まるのに対し、優待は業績が好調でも株主間の公平を理由に打ち切られることがあります。JTやオリックスの廃止も、業績が堅調な中で発表されたと報じられています。
一方で、新たに優待を導入する企業も増えています。大和インベスター・リレーションズが2026年1月にまとめた資料では、優待を実施する企業は1,624社とされています。2024年には実施企業数が5年ぶりに増加に転じたとされます。
導入や変更で目立つのが、長期保有を条件にする仕組みです。KDDIの2026年度の優待は、200株以上を1年以上継続して保有する株主が対象で、金額は1年以上5年未満で2,000円相当、5年以上で3,000円相当としています。株数を増やしても金額は変わりません。継続保有は同じ株主番号で株主名簿に載り続けているかで判定されるため、途中で売却すると期間が途切れる場合があります。KDDIは2024年度まで、100~999株の株主にカタログギフトを贈っており、5年未満で3,000円相当、5年以上で5,000円相当でした。2025年4月の株式分割で1株が2株になったため、旧100株は現在の200株にあたります。同じ持ち分で比べると、5年未満の優待額は3,000円相当から2,000円相当に減ったことになります。
損得を分けるのは「使い切れるか」
今回の試算では、額面どおりに数えても50万円の比較では配当派がやや上回り、課税口座で長く持つと優待派が追いつく結果になりました。差は年に数百円から3,000円程度で、どちらかが大きく損をするというほどではありません。
優待利回りのランキングに並ぶ数字は、多くが最低単元の100株を額面で評価した値です。自分の投資額や生活圏に当てはめると、見え方は大きく変わります。比べる際は、まず配当利回りだけで候補を並べ、そのうえで実際に使える優待だけを上乗せする順番にすると、優待の数字に引きずられにくくなります。
もうひとつ結果を左右するのは、優待を本当に使い切れるかどうかです。近くにビックカメラやガストがない人にとって、優待の価値は額面を大きく下回ります。また、優待株には配当利回りの低い銘柄も少なくありません。優待が廃止や改悪になったとき、配当だけでも持ち続けたいと思える銘柄かどうかは、優待株を選ぶうえでのひとつの目安になります。
結局、優待派と配当派はどっちが得か
50万円で比べた今回の試算では、優待を額面どおりに数えても配当派がやや上回りました。課税口座で長く持てば優待派が追いつくものの、差は年に数百円から3,000円程度。「優待派は損をしている」と言い切れるほどの開きはありません。
どちらに分があるかは、条件によって分かれます。NISAで持つ人、近くに優待を使える店がない人、投資額が大きい人は、配当派のほうが有利になりやすいでしょう。NISAなら配当の税負担がなくなり、使えない優待は価値がゼロで、投資額が増えるほど優待の効率は落ちていくからです。反対に、課税口座で2年以上持つつもりがあり、ふだん使う店の優待を100株だけ持つのであれば、優待派でも配当派と遜色のない受取額になります。
実は今回の数字で受取額がもっとも多くなったのは、どちらか一方に寄せた形ではありませんでした。ビックカメラを100株(17万円)だけ持ち、残りでソフトバンクを1,300株(約31万4,000円)買うと、投資額は合計約48万4,000円。配当1万6,440円と優待3,000円で計1万9,440円となり、実質利回りは約4.0%と、ソフトバンク単独の約3.6%を上回ります。税引き後でも約3.3%で、ソフトバンク単独の約2.9%を超える計算です。
ただし、これはビックカメラが優待だけでなく、配当利回りも約2.9%ある銘柄だから成り立つ結果でもあります。配当の低い優待株で同じことをすれば、数字は下がるはず。優待派か配当派かを選ぶより、「優待は100株だけ、それも配当がそれなりにある銘柄で」と考えるほうが、受け取る額は増やしやすいといえそうです。
※本記事は2026年10月14日終値時点の株価と各社の公表資料をもとにした試算です。特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。配当や優待の内容は変更される場合があります。投資の最終判断はご自身でお願いします。
著者名/ 鈴木林太郎 経済ライター テックと経済の”交差点”を主戦場にやさしく解説。企業・自治体の取材とデータ検証を重ね、現場の課題を言語化する記事づくりが得意。難解な制度や技術を、比喩と事例で”今日使える知識”に翻訳します。
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