※本記事には作品内容に関する若干のネタバレが含まれます。
2025年に日本で大ヒットとなった映画「国宝」。私が住むオランダでもやっと公開が始まり、さっそくオンラインでチケットを購入しました。ところが何やら画面に警告文が。
「私は16歳以上の訪問者のチケットのみを注文します。疑わしい場合には身分証明書の提示を求められる場合があることを理解しています。」
そして確認を促すチェックボックス。なんとオランダでは、国宝は「16歳未満は視聴不可」というレーティングがつけられていたのです。

映画館内に掲示されたポスター。日本では2人の女形が向かい合う構図だったが、海外版は上映国によってポスターのデザインが異なる場合も。オランダ版はぱっと見、歌舞伎らしくないような、でも赤と青のコントラストが美しいデザイン。
オランダ独自の視聴推奨年齢基準とは?
そんなに過激な映画だったっけと思い、オランダのKijkwizerという映像コンテンツの年齢分類システムのサイトを見てみました。直訳すると「視聴ガイド」で、「青少年にとって有害となる内容が含まれているかどうか」を評価する機関です。日本の映倫に近い役割ですが、映画だけではなくテレビ番組やネットフリックスなどの配信番組も対象。ちなみにテレビ番組の放送時間もこのKijkwizerの評価が基準となっており、対象年齢が12歳以上の番組は夜8時以降、18歳以上は深夜0時以降にしか放送されません。
年齢分類はAL(全年齢対象)、6(6歳未満は影響を与える可能性があり視聴に注意。以下同様。)、9、12、14、16、18の7分類。それに加え、どの観点で注意が必要かという7つのカテゴリーがあり、「暴力」「恐怖」「性的描写」「乱暴な言葉」「差別」「ドラッグ·アルコール·喫煙」「危険行為」とそれぞれのアイコンで表示されます。これらは映像作品の放送時や広告にも表示され、保護者が子どもに見せる際の参考になります。
Kijkwizerによると、国宝には「16」「暴力」「乱暴な言葉」の3つのアイコンが付けられていました。これは単に暴力シーンの有無ではなく、「どれだけリアルに見えるか」や「血が描写されているか」といった表現内容も大きく関与します。本作品ではおそらく、映画冒頭にあるヤクザの抗争シーンがそれに該当したのでしょう。つまり映画全体のメインテーマが暴力ではなくても、青少年に影響を与える可能性があるシーンが含まれていれば、その時点で「16」のレーティングがつけられるという仕組み。決して「国宝」という映画そのものが暴力的だというわけではなかったんですね。
もちろん視聴は個人の判断に委ねられているのですが、オランダの法律(刑法)では映画館や店舗はレーティングに適した年齢以外に該当コンテンツの販売をすることが禁止されています。つまり映画館としては16歳未満にチケットを販売すると法に触れてしまうため、購入時の年齢確認が必要だったわけです。なお「14」までは保護者同伴であれば対象年齢以下の子どもも鑑賞可能ですが、「16」以上はたとえ保護者が同伴であっても映画館で見ることはできません。

ちなみに国宝にはベッドシーンが出てきますが、意外なことに「性的描写」では全年齢対象。Kijkwizerの基準では、作品内でのそういったシーンの登場頻度や鮮明さなどに加え、非現実的な描写を当たり前のように思わせてしまうような、若者に歪んだ認識を与える内容にはレーティングがつけられるようです。少し話はそれますが、2021年にオランダで小学校高学年を対象としたテレビ番組「Gewoon. Bloot.」が物議をかもしたことがありました。これはさまざまな年齢、人種、身体的特徴を持つ男女5人がオールヌードでスタジオの子どもたちの前に登場し、身体やそれに関する個人の感情など子どもたちからの質問に回答するといった内容。全8回シリーズで放送されました。元はデンマークで放送された同様の番組のオランダ版として製作されたもので、子どもたちが目にするSNSの世界では「完璧な身体」ばかりが強調される中で、現実の大人たちはいろんな身体なんだよ、みんなそれぞれ違うんだよということを示す教育番組でした。とはいえ、さすがに夜7時の家族団らん時間に一糸まとわぬ男女が並ぶ様子が放送されるのはかなり驚きでしたが、この番組の場合は性的な意味合いはないため、Kijkwizerのレーティングは全年齢対象でした。
世界各国で異なるレーティング基準
さて、オランダでは16歳未満は映画館で見れない「国宝」でしたが、他の国ではどうだったのでしょうか。調べたところ、イギリスでは性的描写が理由で15歳未満は視聴禁止に。詳細な理由までは不明だったもののドイツやスイスでは「12」。イタリアでは暴力、武器の使用、性的描写のアイコンが付きつつもなんと「6」。アメリカはそもそも審査を受けずに公開されていました。ちなみに日本では映倫によってPG12に指定されており、「簡潔な身体一部の傷害及び20歳未満の飲酒の描写」が理由だそうです。あれ、そういえばオランダ、イギリス、イタリアともに「ドラッグ·アルコール·喫煙」の項目は引っ掛かっていません。該当するのはおそらく若い歌舞伎役者たちのお座敷遊びのシーンだと思うのですが、ヨーロッパの青少年がそれを見ても「未成年がお酒飲んでる」という強い印象は持たないのかもしれませんね。日本では子どもでも、徳利やおちょこが出てきたら「あ、お酒飲んでいるんだな」と気づく可能性は十分ありそうです。
では、最近オランダで公開された他の日本映画のレーティングはどうだったのでしょうか。国宝を見に行った2週間後、1988年公開の大友克洋監督のアニメ作品「AKIRA」の4Kリマスター版上映があり行ってきました。こちらは「16」「暴力」「乱暴な言葉」の3つのアイコン。Kijkwizerを見ると差別表現でも「12」の評価でした。(差別表現、まさかあの有名セリフの「デコ助野郎」ではないよな···?)もちろんチケット購入時には年齢確認がありましたよ。

昨年オランダでも大変話題となり本サイトでもご紹介した(https://dime.jp/genre/2034601/)鬼滅の刃はどうでしょうか。2025年公開の「鬼滅の刃 無限城編」は「12」「暴力表現」。Kijkwizerでは、かなり露骨でリアルな暴力シーンが含まれることが警告されている一方、実写ではなくアニメーションなので、青少年にとっても現実との区別ができるだろうと評価されていました。2020年公開の「鬼滅の刃 無限列車編」も「12」「暴力表現」で、ほぼ同様です。
意外だったのが、2024年公開の「SPY×FAMILY CODE: White」。主人公アーニャのかわいさに反するかのように、「12」「暴力表現」「乱暴な言葉」「ドラッグ·アルコール·喫煙」の4つのアイコンがついていました。鬼滅の刃より注意点が多い映画?特筆すべきは「ドラッグ·アルコール·喫煙」に関してで、「アルコールの過剰摂取のシーンが、子どもたちにそれが異常なことではないと印象付ける恐れがある」と指摘されていました。アーニャの仮初めの母であるヨルさんが、飲み過ぎて普段と違う行動を取ってしまうシーンのことだと思われます。日本ではコミカルな場面として捉えられていましたが、オランダでは逆にそのような見せ方ゆえに、過剰飲酒の危険性が軽んじられる恐れと評価されたのでしょう。ちなみに日本での本作品のレーティングは「G」で全年齢対象。
2023年公開の「ゴジラ-1.0」は「12」「暴力」「恐怖」の3つのアイコン。特に恐怖の点で「非常に恐ろしい音や音響効果が含まれる」とありました。ゴジラの絶叫は世界共通の怖い音なんでしょうかね。今年公開予定の「ゴジラ-0.0」は、Kijkwizerではまだ検索できませんでしたが、一部映画館の告知を見ると「14」「恐怖」の2つがありました。前作より更にゴジラの怖さが増しているってこと···?

このように映像作品のレーティングは各国が独自に審査をしており、審査団体も民間や公的機関などさまざま。そして何よりその国の文化的·歴史的背景や生活習慣、倫理観、法律などが大きく影響します。日本と異なるレーティングがついている映画は「どのシーンがこの国では問題だったのか?」、「なぜこれがこの国では問題なのか?」というのを深掘りしてみるのもおもしろいかもしれません。
文/福成海央(ライター、科学コミュニケーター)
オランダ在住。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」会員。気になったらとりあえずなんでも調べるしなんでも書く。おもしろいこと好き。オランダの美味しいチーズとポテトも好き。
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