英語は、大学受験で合否を大きく左右する科目だ。東京大学の二次試験では、文系・理系を問わず得点の3割近くを英語が占める。大学入学共通テストでも’21年から、リスニングの配点がリーディングと同じ100点に引き上げられた。読み書きだけでなく、聞き取る力も問われる時代だ。
そこで東大合格者を多数輩出する名門校が力を入れているのが、音読だという。英語力は、音読でどれくらい伸びるのか。学校向けに音読アプリを提供するコトバンク株式会社代表の小泉純氏に聞いた。
私立の進学校が「音読アプリ」を採用
小学校の国語で、よく出された音読の宿題。正直なところ、やってもやらなくても先生にはバレなかった。そんな音読が今、私立の進学校を中心に、英語の宿題として出されている。
「使われているのは、スマホやタブレットで使える音読アプリです。先生が教科書などの英文と音声を配信し、生徒はお手本となる音を聞きながら音読します。読み上げた声が録音され、それを提出するという仕組みです。同じようなアプリは多数あり、弊社の『リピートーク』もその一つ。
これまで音読の宿題は、生徒が本当にやったのかどうか、先生にはわかりませんでした。しかしアプリを使えば、何分やったかがきちんと記録に残り、さらにAIが発音の質まで分析してくれます」
では、どんな学校がこの宿題を出しているのか。
「導入校の約8割は私立で、中高一貫の進学校を中心に、比較的高偏差値帯の学校によく使っていただいています。共通テストでリスニングの配点が上がったこともあり、聞き取りでもしっかり点を取れるようにしたい、という学校のニーズが強いですね。また私立校には、多少費用がかかっても最先端の充実した英語教育を受けさせたい、という保護者の期待があります。導入校の多くは、あわせて海外研修なども実施しています」
英会話は体育や音楽と同じ「実技科目」
そもそも、なぜ音読なのか。
「今の英語教育では、読み書きだけでなく『聞く・話す』能力も重視されます。元来、言語はコミュニケーションツールであり、英会話は体育や音楽などと同じ実技科目。音読は、第二言語習得の研究でも効果を示す報告があり、いわばスピーキングの基礎トレーニングです。
テキストを見ながらお手本の音声に重ねて読む『オーバーラッピング』や、音声を聞いて繰り返す『リピーティング』からはじめ、最終的にはテキストを見ずに音声を追いかけながら発話する『シャドーイング』へと徐々に難易度を上げていく。こうすることで、英語力は格段にアップします」
例えば、東大・京大に毎年数十人の合格者を出す大阪星光学院中学・高等学校も、「リピートーク」を導入している学校の一つだ。同校では英語科の教員がこのアプリを使った家庭学習の効果を検証し、コトバンクが運営する教員向けの英語教育メディア『国際教育ナビ』で結果を公表している。
「対象は中学1年生の4クラス192人。教材は、過去形や助動詞などすでに習った文法を使った教科書の例文です。これを見本の音声に重ねて読む、日本語を見てすぐ英語に言い換える、聞いて書き取るといった5段階の練習メニューに組み、約1か月、家庭学習で取り組ませました。
面白いのは、先生が関わったのが最初の設定と使い方の確認の1時間だけだったこと。あとは課題をやり終えた生徒にボーナス点を付けただけだそうです。
生徒を『同じ文法項目をまとめて練習する』グループと『項目を入れ替えながら練習する』グループに分けたところ、前後に行った『日本語を見て英文を書く』40点満点のテストで、平均点はそれぞれ約4点、約7点上がりました。音読した時間が長い生徒ほど、点数が高い傾向も見られました」
同校の教員は、これだけで「アプリそのものが他より優れている」とまでは断言できないとしつつ、家庭学習を「”気分や根性”ではなく、”記録にもとづいて調整できる学習”に変える」点に意味があると述べている。
では、AIの採点を先生たちは信用しているのか。
「採点の最終的なよりどころは、やはり先生ご自身の耳です。ただ人間同士でも、A先生とB先生の評価が同じとは限りません。万人にとって100点のAIはありませんが、実用レベルではあります。全員の音声を先生が聞いていたら膨大な時間がかかりますから、それをAIでさっと終わらせて、学習効果が出る程度のフィードバックを返せれば十分だと考えて使っていただいています」
英作文も英会話も、AIに頼めば済む時代でもある。実はこのアプリも、裏側では生成AIを活用している。それでも小泉氏は、生徒にAIをそのまま使わせることには慎重だ。
「教育では、便利な道具をあえて使わせないことも大切なんです。体を鍛えるのと同じで、A地点からB地点へ移動するなら車が速いけれど、車では筋肉がつかない。だから、あえてジムに通う人がいるわけです。
ChatGPTを最初から使えば英文を作るという目的は達成できても、文を組み立てたり意味をつかんだりする本人の力はつかない。だからこそ、まずは自分で声を出して英文を読むことが大切です。AIは答えを肩代わりさせるためではなく、生徒にちょうどいい負荷をかけるフィードバックのために使うんです」
英語の”筋肉”は、自分の声でしかつけられない。進学校が英語の宿題に音読を選ぶのは、そのためだろう。
【プロフ】
小泉純氏
コトバンク株式会社代表取締役。大学在学中に起業し、「教育に、最高の道具を」をミッションに、英語音読クラウド「リピートーク」や時間割・時数管理クラウド「KOOM」などのDXサービス、教育向けメディア「国際教育ナビ」を提供している。東京大学医学部健康総合科学科卒業。
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