10月9日より公開中の映画『どこよりも遠い場所にいる君へ』は、豪華なスタッフ陣で制作されている注目作品だ。監督は、繊細な心情描写を得意とする『HIGH CARD』シリーズの和田純一さん。脚本は『ストロボ・エッジ』や『ジョゼと虎と魚たち』などのラブストーリーを数多く描いてきた桑村さや香さん。キャラクターデザイン・総作画監督は、イラストレーターとしてゲームやライトノベルなどの分野でも活躍し、今話題の『超かぐや姫!』も手がけたへちまさん。そして、今回インタビューした音楽家・中村弘二さんが劇伴を担当している。自然豊かな離島を舞台に、複雑な心情を抱く高校生を丁寧に描いた同作品に対し、どのように寄り添いながら楽曲を手がけられたのか。全33曲に及んだという劇伴制作の舞台裏について聞いた。
気鋭のピアニストがモーションアクターとして参加!映画「どこよりも遠い場所にいる君へ」の超絶な演奏シーンができるまで
アニメーションの世界では、よりリアルなキャラクターの動きを表現するため、実在する人の動きをトレースする「モーションキャプチャー」が活用されている。同技術を駆使し…
以下、ネタバレを含みます。
劇伴制作は醍醐味の多い仕事。
全33曲は綿密なやりとりをもとにつくられた
中村さんは、1995年から2005年まで活動したバンド「SUPERCAR(スーパーカー)」でメインボーカルを務めるとともにほとんどの楽曲を作曲。現在では、バンドの『LAMA』やソロの『Koji Nakamura』として活動しているほか、アニメやドラマの劇伴やイベント空間の音楽なども手がけている。
「最初から映像ありきでつくる劇伴は、ほかの音楽制作とは違ったかたちで非常に頭を使う。いろんな人にかかわるし、それぞれの思いがあり、それをどう彩って演出して盛り上げていこうか……という気持ちで制作に当たっています。すごくおもしろいですよ。だから、今回の話をいただいた時も『どういうふうにつくろうかな』って、楽しみにしていました」(中村さん)
映画『どこよりも遠い場所にいる君へ』の劇伴制作にあたり、制作スタッフと最初に打ち合わせる段階で、台本や絵コンテなどの資料がしっかりと用意されていたという。
「『アニメーションがどういう絵柄なのか』『映像のスピード感がどうなのか』みたいなことを打ち合わせで知り、台本や絵コンテからイメージが湧いてきましたね。『どこよりも遠い場所にいる君へ』は、アクションが多様にある作品ではありません。なので、自分の中ではわりと〝堅い感じ〟というか、ドラマ的な劇伴になればいいなと思いました」(中村さん)
中村さんが手がけた劇伴は全33曲。約2時間のアニメーション映画としては、やや多いくらいの楽曲数だという。
「音楽が入るシーンの一覧リストがあるんです。それぞれの楽曲ナンバーには『こういうふうにしてほしい』と書いてあり、参考となるラフな動画も見ながら制作していきました」(中村さん)
音楽がより印象的なのは采岐島高校のシーン。
自然へのリスペクトも感じる映像美も必見
制作していく中で特に思案を巡らせたのは〝神隠しの入り江〟と呼ばれる場所で倒れていた少女・秋鹿七緒の面倒をみることになる高津と、主人公・月ヶ瀬和希と同じ采岐島高校に通う三島たまきに関するキャラクターの楽曲だったそうだ。
「頻繁に登場する和希や七緒とは違って、すんなりとはいきませんでした。特に三島たまきは、時々瞬間的に画面に映るから、鑑賞している人にとってなかなか愛着が湧きにくいというのがあって。それぞれのキャラクターのことをよく考えないとつくりにくく、音楽でどういうキャラクターに見えたらいいんだろうと。そんな難しさもあり、それがおもしろさでもありました」(中村さん)
全33曲に及ぶ劇伴制作の全般的なことで言えば、2つのリクエストがあったとか。
「ひとつは、ピアノのシーンが別途あるので、劇伴ではピアノを使わないようにしてほしいと。もうひとつはホラーチックにはしてほしくないということでした。物語には人知の及ばないうっすらと怖い要素があるけれど、それをなるべく感じさせないようにしました。それと、映画が上映される劇場の環境は施設によって様々だし、いずれは配信されて自宅のテレビや手持ちのスマホで見ていただくことになるかもしれない。だから、どんな環境で聴いても、音楽が作品に溶け込んでいればいいなと思ってつくりました」(中村さん)
出来上がった作品を試写で2回見たという中村さん。それぞれで異なるシーンが強く印象に残ったそうだ。
「1回目の試写では、高津のアトリエのシーン。画面に映る彼がつくった作品と相まって『この曲でよかった』と。2回目の試写では、学校のシーンがとても良く見えましたね。劇伴もいい感じで聴こえて、イメージどおりでした」(中村さん)
2回目の試写は映像がかなり調整された完成版だったそうで、和田純一監督をはじめとする音響スタッフが、采岐島のモデルとなっている隠岐諸島で実際に録音してきたという自然の環境音が、細かく入っていることも実感したという。
「絵の描き込み量もかなり増えており、映像が浮かび上がっているかのようでした。この作品が持っている自然描写へのリスペクトを感じましたね」(中村さん)
中村さんが作風やキャラクターなどに思いを馳せながら制作した全33曲の劇伴と、まるで自然に包み込まれるような環境音。これらにも耳を傾けることで、複雑な心情を抱える高校生たちの人間ドラマが、より深みを増して見えてくるはずだ。
音楽家
中村弘二さん
1995年地元青森にてバンド「SUPERCAR(スーパーカー)」を結成して2005年解散。その後「iLL」として活動する。現在はバンド『LAMA』(フルカワミキ、田渕ひさ子、牛尾憲輔)や、ダークロックユニット『MUGAMICHILL』(ナスノミツル、中村達也、ナカコー)そして『Koji Nakamura』としてのソロ活動も継続している。コンポーザーとしては自身の活動の他にアニメ「エウレカセブンAO」や連続TVドラマ「潤一」・「WOWOWオリジナルドラマ アフロ田中」等のメインテーマと劇伴音楽も担当している。そのほか、CM曲やアート展、携帯端末の操作音などの楽曲制作、Eテレの子供番組や国民的アイドルの楽曲提供など活動は多岐にわたる。
映画『どこよりも遠い場所にいる君へ』
現在公開中 配給/松竹
https://sh-anime.shochiku.co.jp/dokokimi-movie
2025年に小説「カフネ」で第22回本屋大賞を受賞した作家・阿部暁子氏による人気青春小説「どこよりも遠い場所にいる君へ」(集英社オレンジ文庫刊)を映画化。豊かな自然にあふれた離島・采岐島――。その島には〝神隠しの入り江〟と呼ばれる場所があった。とある事情で都会を離れ、采岐島の高校に進学した少年・月ヶ瀬和希は、ある初夏の日、〝神隠しの入り江〟で一人の少女が倒れているのを発見する。少女の名前は秋鹿七緒。1974年からきたという七緒は、和希とその場に居合わせた高津という男性に保護されることになる。七緒のことが気になり、それからたびたび放課後に彼女のもとを訪れるようになった和希。やがて和希は、七緒から驚きの言葉を聞かされるのだった――。過去と現在が交わる時、秘密を抱えた二人の未来が動き出す。
2025年に小説「カフネ」で第22回本屋大賞を受賞した作家・阿部暁子氏による人気青春小説「どこよりも遠い場所にいる君へ」(集英社オレンジ文庫刊)を映画化。豊かな自然にあふれた離島・采岐島――。その島には〝神隠しの入り江〟と呼ばれる場所があった。とある事情で都会を離れ、采岐島の高校に進学した少年・月ヶ瀬和希は、ある初夏の日、〝神隠しの入り江〟で一人の少女が倒れているのを発見する。少女の名前は秋鹿七緒。1974年からきたという七緒は、和希とその場に居合わせた高津という男性に保護されることになる。七緒のことが気になり、それからたびたび放課後に彼女のもとを訪れるようになった和希。やがて和希は、七緒から驚きの言葉を聞かされるのだった――。過去と現在が交わる時、秘密を抱えた二人の未来が動き出す。
キャスト:石橋陽彩、永瀬アンナ、土屋神葉、上坂すみれ、羽多野渉、岡本信彦、松岡禎丞/藤木直人(友情出演)/玉木宏
原作:阿部暁子「どこよりも遠い場所にいる君へ」(集英社オレンジ文庫)
監督:和田純一
脚本:桑村さや香
キャラクターデザイン・総作画監督:へちま
美術監督:大西穣
美術設定:坂本竜
撮影監督:木村俊也
色彩設計:歌川律子
編集:坂本久美子
音響監督:はたしょう二
音響効果:出雲範子
音響制作:HALF H・P STUDIO
音楽:中村弘二
主題歌:とた「オリーブ」(RECA Records)
劇中歌:とた「鳳仙花」(RECA Records)
アニメーション制作:トムス・エンタテインメント/第6スタジオ
製作幹事:松竹・ポニーキャニオン
製作:『どこよりも遠い場所にいる君へ』製作委員会
(C)阿部暁子/集英社・『どこよりも遠い場所にいる君へ』製作委員会
取材・文・撮影/田尻 健二郎




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