全国で「カラオケまねきねこ」を展開する株式会社コシダカホールディングスの子会社である株式会社コシダカアミューズメントが、次世代アーティストの発掘・育成・楽曲制作・デジタル配信・プロモーションまでを一気通貫で手掛ける完全内製型の新音楽レーベル「Manekineko Music Entertainment」を本格始動させた。
巨大な店舗網と圧倒的な来場者基盤を持つ同社が、なぜ音楽レーベルを立ち上げたのか。そして、既存のメジャーレコード会社とは一線を画すその戦略とはどのようなものなのか。同社でDX推進や新規事業戦略を牽引する執行役員の腰髙理志氏に、革新的なビジネスモデルとそこに込められた未来像を聞いた。
年間5,000万人のトラフィックと店舗網が生んだ多角化戦略
コシダカホールディングスは、現在国内外に約818店舗(※2026年7月末時点)のカラオケ店を展開し、国内のカラオケチェーン市場で約20%のシェアを保有している。年間来場者数は約5,000万人に達し、ピーク時は単月で500万人以上の規模の顧客が店舗を訪れる。とりわけ若い世代の利用が際立っており、高校生の会員数は160万人と、全国の高校生の約半数をカバーする巨大なユーザー基盤を構築している。
しかし、同社が描く成長曲線は、単なる店舗数の拡大やシェア拡大の延長線上にとどまらない。
「店舗網の拡大による市場シェアの獲得という既存の戦略にとどまらず、企業としての持続的な成長を実現するための『次なる一手』を打ち出す必要がありました。既存のアセットや顧客のトラフィックを活用し、いかに多角的な事業へ進出して新しい収益源を生み出すか。それが経営上の命題でした」と、腰髙氏は経営上の設立背景を語った。
同社はグループビジョンとして「エンタメをインフラに」を掲げている。全国の店舗空間やアプリ会員ネットワーク、そして約1万5,000人におよぶアルバイトスタッフは、これまで十分にマネタイズされてこなかった隠れたアセットであった。
「若い世代が集まる会員基盤をいかに有効活用するかを模索する中で浮上したのが、自社で音楽レーベルを立ち上げるというアイデアでした。カラオケという日常の空間には、歌を楽しむ若者たちや音楽好きの自社スタッフが多く存在します。その情熱や自己表現をアーティストとしての未来へとつなげられないかと考えたのです」
メジャー志向を追わない「推され活」を受け止める選択肢
新レーベル「Manekineko Music Entertainment」立ち上げ前から、同社が主催してきたボーカルオーディションプロジェクト「まねチャレ」は、これまでに約2,400名のエントリーを集める一大事業へと成長した。しかし、このオーディションを通じて浮き彫りになったのは、従来の音楽業界の常識とは大きく異なる若者のリアルな心理だった。
「音楽オーディションに参加する方は全員プロを目指していると思っていました。しかし、当社がまねチャレを実施して驚いたのは、応募者の約半数が必ずしもプロのアーティストになりたいわけではないという事実でした」
現在、SNSを通じて個人が気軽に発信できるようになった世の中では「プロを目指すわけではないが、自分の歌を誰かに聴いてもらいたい」「SNSやYouTubeで自分の作品を発信してみたい」という、才能と熱量を持ったアマチュアが多く存在する。自らが発信者となって周囲から応援される「推され活」という新たな需要に対し、メジャーオーディションだけでなく、幅広い才能を受け入れる場が必要となった。
「我々が狙うのは、アマチュアとメジャーアーティストの間の領域です。成功の定義を固定しすぎず、普段利用しているカラオケの延長線上で自然体で挑戦し、アーティスト活動ができる環境を提供する。従来のメジャーの成功モデルを追わないことこそが、最大の差別化となっています」と腰髙氏は強調する。
さらに、オーディション応募者の7割、決勝進出者の6割が「顔出しNG」での参加を希望しており、15~19歳の若年層がボリュームゾーンとなっている。顔出し不要や地方からのエントリーを認める低いハードルと、東証プライム上場企業グループというバックボーンがもたらす圧倒的な安心感が、潜在的な才能を呼び込む強力な磁力となっているのだ。
データ・機器・リアル店舗を統合する「完全内製型」IPエコシステム
「Manekineko Music Entertainment」の真骨頂は、単に楽曲をリリースするにとどまらず、発掘・育成・制作・プロモーション、そして次世代の創出へと至るシームレスな「IP循環モデル」を自社内で完結させている点にある。
この循環構造の第一歩となる発掘段階では、自社主催のボーカルオーディション「まねチャレ」を活用する。続いて育成段階では、自社主催イベントやフェスなどの実践的なパフォーマンス機会を通じてアーティストとしての成長機会を用意している。
制作段階においては、提携する著名クリエイター陣によるハイクオリティな原盤制作を行うほか、一般から持ち込まれた音源のリリース化をサポートする。こうして生まれた作品はプロモーション段階へと引き継がれ、全国のカラオケまねきねこ約720店舗のBGM、MV、CM放映といった強烈なリアルの接触機会と、TikTokなどのSNSによるデジタル展開を融合させて拡散される。
そして作品が認知されアーティストが成長した後は、マネジメント事業の展開や、新たな人材を呼び込み、再び次の発掘へとつなげる持続的なエコシステムを形成しているのである。こうした完全内製化を推進する経営上の最大のメリットは、IP(知的財産)の上流・権利を自社で所有できることだ。
「従来のカラオケ事業は、外部IPのライセンス提供を前提としたフロー型のビジネスです。しかし、サービス基盤を自社で一貫してコントロールできる強みを生かし、安定したストック型の経営基盤を構築できます」と、腰髙氏は経営面でのメリットを説明する。
この垂直統合モデルを技術面から支えるのが、自社開発のカラオケ機器「E-bo」の存在だ。従来のカラオケ機器は、専用の選曲端末から操作するため、ユーザーの年齢や性別といった個人情報と選曲データを紐付けることが難しかった。一方、現在約3,000ルームに導入されている「E-bo」は「まねきねこアプリ」と連携し、ユーザーのスマートフォンから選曲する仕様となっている。これにより、どの年代の顧客が、どの楽曲を実際に歌っているかという精緻な属性データをリアルタイムで蓄積・解析することが可能となった。
「このリアルな歌唱・属性データを、楽曲制作やターゲット層の設定にダイレクトにフィードバックしているため、若者のリアルなトレンドに即したクリエイティブが可能になります。また自社機器であるため、デビューアーティストの楽曲を優先的に全国のルームへ配信できるといったアドバンテージが極めて大きいのも特徴です。今後は、E-boを活用した原石の発掘を可能にするさらなる機能も構想中です」と腰髙氏は語る。
「曲を出して終わり」にしない伴走型アーティスト支援
2026年8月25日、同レーベルからは初の所属アーティスト2名が待望のデビューを果たした。第1弾アーティストの「MiiNA(ミーナ)」は、オーディション「まねチャレ」で大手レコード会社10社やクリエイター陣から満場一致の支持を得て優勝した実力派だ。人気クリエイターHoneyWorksからの楽曲提供を受け、デビュー曲「わたしがヒロインなら」を配信リリースした。
第2弾アーティストの「ここね」は、岡山県に通う現役高校生の覆面シンガーであり、優秀賞を獲得してデビュー曲「どうにかして」を同日リリースしている。
同レーベルが提供する最大の価値は、単なるデビューの機会にとどまらない生活保障と圧倒的な実戦の場にある。音楽配信やYouTubeの再生数が伸びたとしても、即座に十分な生活費が得られるわけではないのが現実だ。とくに、地方から上京して活動する新人アーティストにとって、生活費と雇用の確保は極めて深刻な課題となる。
「1曲目のリリースがゴールではなく、あくまでスタートラインです。そこからどうやって持続的に音楽活動ができるか、どう成長させていくかを一緒に考えていくのが私たちの役目です」と腰髙氏は明かす。
また、独自のネットワークを活かし、露出機会に関しても一般的な新人では考えられないスケールの支援を行っている。MiiNAはデビュー直後に国内最大級の野外音楽フェス「LuckyFes」のオープニングアクトとしてステージに立ち、大観衆の前でパフォーマンスを披露した。
「未成年の応募者に対しては保護者の同行を必須とし、上場企業グループとして法令遵守と安全性を徹底しています。保護者の方々にも活動内容を透明性をもってご理解いただき、安心して夢を託せる環境を整えていることも当社の強みだと思います」と腰髙氏は説明する。
夢・音持ち込み自由——音楽ビジネスの構造課題に挑む
現在の音楽業界は、CD売上の縮小やストリーミング配信における収益分配率の低さにより、レーベル単体でのマネタイズが非常に難しくなっている。既存の大手レーベルが従来のビジネスモデルからの脱却に苦慮する中、本業であるカラオケ店舗の安定した収益基盤を持つコシダカホールディングスの参入は、業界全体にとっても大きな実験となる。
「当社最大の強みは、当社はカラオケ店舗というリアルのインフラと収益基盤を持っていることです。だからこそ、小回りの利く実験的なアプローチで、新しいビジネスモデルを提示することが可能なのです」と腰髙氏は語る。
同社は国内にとどまらず、マレーシアに19店舗を展開するなど海外進出も加速させている。自社アーティストを海外店舗のプロモーションや現地のイベントとクロス展開させることで、従来の日本の音楽レーベルにはなかったグローバルな発信が可能になる。
「これまでのカラオケ店舗は、充実した飲食物や快適な空間を提供する最も身近なエンターテインメントとして価値を磨いてきました。我々はその強固な基盤からさらに、カラオケルームの存在を再定義し、データとエンターテインメントが交差するメディアでありIP育成プラットフォームであると考えています。この仕組みが成功すれば、カラオケ業界と音楽業界の間にまったく新しい協調関係が生まれるはずです」と、腰髙氏は将来の展望を描く。
「カラオケまねきねこが今まで築いてきた安心安全なカラオケ空間から、誰もが気軽にアクセスして自分の可能性にチャレンジできる《夢を叶える場所》へと進化させられたらと思います。ぜひ当社が用意した空間に、熱い夢と音を自由に持ち込んでいただきたいです」
レーベルが掲げる「夢・音 持ち込み自由」には、同社が目指すエンタメインフラの姿が凝縮されている。プロを目指す大げさな覚悟がなくても、ただ歌が好きで自分の表現を届けたいと願う人々に「Manekineko Music Entertainment」、そして「カラオケまねきねこ」の夢のドアは開かれている。
取材・文/Miyu 撮影/横田紋子




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