J1初参戦ながら、開幕8戦で13位と健闘。同県のライバル・鹿島にも公式戦初勝利!
26-27シーズンJ1も開幕から約2カ月が経過し、2023・24年王者のヴィッセル神戸、2025年に優勝争いを演じた柏レイソル、豪華タレント軍団を擁するFC町田ゼルビアらが上位争いを繰り広げている。
こうした中、2025年J2で優勝し、2026年からJ1に初参戦してきた水戸ホーリーホックも序盤8試合を2勝3分3敗の勝ち点9で戦い、8試合終了時点で13位と健闘している。特に大きかったのが、9月2日に同じ茨城県にホームを置く常勝軍団・鹿島アントラーズに4-2で圧勝した一戦は、クラブにとっても歴史的なものとなった。
「今季の我々は開幕からACL(AFCチャンピオンズリーグ・エリート)勢5連戦。上位との対戦が続き、本当にタフな日程でした。そこで鹿島に勝てたのは大きい。これまではずっと『J1トップ』と『J2常連』という構図でしたけど、全力で戦って勝てるところまで来た。当日の試合では鹿島がバタバタしているのを見て、僕自身も驚いたくらいです。
昨年のJ1昇格時の主力だった大森(渚生)もその後、鹿島に完全移籍しましたけど、ウチの選手が鹿島からオファーをいただけるなんて、本当に感慨深い出来事でした」としみじみと語るのは、2020年からクラブの経営トップを務める小島耕社長である。
2020年就任から7年目。小島社長は「時の人」に!
地元・茨城県鉾田市出身で、メディア畑で長く働き、2018年に水戸と関わりを持つようになってからクラブ社長に就任したという異色の経歴の持ち主は、2025年のJ2優勝・J1初昇格達成によって”注目の人”となった。
「正直言って、僕自身はそういう実感がないんです(笑)。2026年のJ1百年構想リーグで選手を入れ替え、外国籍選手を初めて獲得し、2026-27シーズンから今夏に主たるホームスタジアムをケーズデンキスタジアム水戸から水戸信用金庫スタジアムに変更しましたけど、毎日が目まぐるしく動いています。
僕が社長になった7年前はフロントスタッフが12~13人しかいなかったんですが、今は36~37人もいる。2018~19年の水戸の指揮官だった長谷部茂利さんが、9月12日に川崎フロンターレ戦で相手監督として来られた時、『すごい人が増えてるね』とビックリされていた(笑)。その規模拡大に合わせて、僕自身も社内の体制を整理しています」と小島社長は劇的に成長するクラブを今、懸命にマネジーメントしようとしているのだ。
2020年時点の水戸は少ないスタッフでホームゲームの運営、ホームタウン活動、広報発信に奔走していたため、明確な営業方針を立てたり、スポンサー企業に未来像を提示するといったことがあまりできていなかった。だが、今は各部署の統率役がいて、密に指示ができる体制が整いつつある。
「僕自身がメチャメチャ汗をかいて営業に行ったりすることが今はもう少なくなって、日常業務とは要所での営業活動がメインです。自分に求められるのは『気合』と『根性』、あとは『肝臓』ですかね(苦笑)。役割が少し変わった分、モチベーター的な役割をより重視しなければいけない。そこはJ1に上がってより強く意識しているところです」と小島社長は彼らしい軽妙な口ぶりで言う。
躍進を遂げている水戸で小島社長が重視する2つのポイントとは?
ご存じの通り、プロスポーツの世界は勝ち負けに大きく左右される。そればかりでなく、サッカーはインドア競技と違って天気にも左右される。不確定要素が多い。うまくいかないことが重なると、スタッフのマインドも下降線を辿りがちだ。そうならないように、経営者はつねに目指すべきところを提示し、意欲を高めようと仕向けている。
「今の時代ってスポーツビジネス論やマーケティングのノウハウが重視されがちですよね。そういうことよりも重要なのは、『全ての仕事が勝ち点3につながっているか』です。
水戸は昨年、小さな勝ち点の積み重ねでJ2優勝して、最高峰リーグに上がれましたけど、やっぱりチームは強いからこそ魅力があるし、地域貢献にもつながる。勝てていない時は『自分たちはホームタウン活動を一生懸命やってるから』とか『スポンサー企業に足を運んでいるから』と言い訳しがちですけど、勝てる集団にすることが、みんなをハッピーにするのは間違いない。だからこそ、社員には『その仕事は勝利につながっているのか?』と口癖のように問いかけています」
小島社長が言わんとすることを一般企業に置き換えると、「自分の仕事が会社全体の利益につながっているか」を真剣に考えるということだろう。個人個人はよかれと思っていても、その取り組みが必ずしも組織のメリットにならないケースもある。それが頻発している組織はバラツキが生まれ、一体感も損なわれてしまう。「全員が同じ方向を見ることの重要性」を彼は今一度、説いているのだ。
「もう1つ、僕が大事にしているのは、数字。クラブの評価軸はそれしかないから、今は集金と集客の2つだけをしっかりやって、それが勝ち点3につながるならOKだと考えています。以前は週末の試合の後、月曜日の会議で集客や収入面の報告がきちんとできないところもありましたけど、僕が社長になってからはそこだけは徹底させるようにした。その成果もあって、今はクラウド上を見れば全ての数字がクリアに分かるようになりました」とも小島社長は言う。これは北海道コンサドーレ札幌の社長時代に10年間で売上高を約3倍に引き上げたJリーグ・野々村芳和チェアマンから薫陶を受けた部分が多かったようだ。
水戸信用金庫スタジアムへの移転で、26-27シーズンの売上は30~32億の試算も
実際、小島社長も2020年度の売上高7億6200万円から2025年度は16億4200万円にジャンプアップ。さらに収容人数が多い水戸信用金庫スタジアムに主たるホームを移した今季は30~32億円に達するという試算だというから、いかに劇的な成長を遂げているか分かるだろう。
「水戸信用金庫スタジアムへの移転は大きな決断でした。クラブとしてもイニシャルコストでおよそ1億6000万円かけて改修工事を進めましたけど、今のところはおおむね好評です。開幕時点ではアクセス面での不安やインターネット環境の問題がありましたけど、試合をこなすごとに改善に向かっています。ケーズデンキスタジアム水戸と比べると、スタジアム場外も広くなったので、スタジアムグルメも常時40店舗以上が並び、雰囲気もすごくよくなったと感じています。
ただ、水戸信用金庫スタジアムは想定以上にランニングコストがかかるというのも正直なところ。僕自身は『お金がかかるなら、それ以上に稼げばいい』というスタンスなので、今はどういうふうに収入を増やすかを模索しています。序盤の平均集客は平均1万1000人程度。手ごたえは感じていますが、収容規模は約1万8000人なので、もっと伸ばせると思います。
今はまだクラブ全体がJ1基準に適応しつつある段階で、ホームゲームの設営や撤収に時間がかかっている状態ですが、基準を引き上げることは可能なはず。これもJ1に上がったからこそ、経験できること。僕らは25年間、J2にいましたけど、そこに居続けただけでは得られないものがあると今、改めて痛感しています。本当にJ1昇格というのは大きいこと。クラブ全体の強度がアップしたと実感しています」と小島社長は上昇気流に乗っている今が将来の水戸を大きく左右する時期だと捉え、努力を続けていく構えだ。
「僕らは100億円クラブを追いかける40億円クラブとして上を目指す」
他のJ1クラブを見れば、売上高100億円を突破している浦和レッズや川崎を筆頭に、メインスポンサー・サイバーエージェントの資金力などを活用して急成長を遂げている町田、2024年に誕生したエディオンピースウイングスタジアム広島の効果で収入規模が倍以上にアップしたサンフレッチェ広島など、より規模感の大きいクラブがひしめいている。そういう環境に定着し、いずれタイトルを狙っていこうと思うなら、もちろん現状にとどまっていていいはずがない。
「僕らは100億円クラブを追いかける40億円クラブでいいと思っているんです。今の水戸が40億円になるのは簡単なことではないですけど、1年先にJ1に初昇格したファジアーノ岡山が2025年度に約35億円の収入を記録したと言われていますが、そういう基準を超えないとJ1に定着し、上を狙うのは難しいですね。
チーム人件費にしても、J2だった2025年が5億2000万円、J1に上がった今季は11~12億円という感じですけど、これでもJ1の中では圧倒的に少ない。今は2025シーズンの監督を務めた森直樹FD(フットボールダイレクター)とクラブレジェンドの本間幸司GM(ゼネラルマネジャー)が二人三脚で強化を進めてくれて、いいチームを作れていますが、ここからさらに数字を引き上げていけるようにしないといけない。僕もモットーである気合と根性をより高めていきますよ」と小島社長は笑顔で言う。
「鹿島は富士山のような存在」。常勝軍団に追いつけ追い越せで成長を目指す!
水戸の場合、同じ県内に鹿島というビッグクラブがあるのが1つの難しさ。冒頭のように今季の初対決では首尾よく勝利したが、彼らは2025年J1王者。過去の歴史を見ても国内20冠以上のタイトルを取っている名門中の名門で、長年応援し続けている熱心なサポーターが非常に多い。茨城県全体で277万人の人口規模は誇っているものの、取手市やつくば市のエリアはどちらかというと千葉寄りで、日立市以北は福島県との結びつきが強い。全県の人々を鹿島と水戸で取り合うようなことは簡単にはいかない。小島社長も難しさは感じている様子だ。
「ビジネス的には鹿島に水戸エリアのパイを持っていかれているところは確かにありますけど、鹿島は33年間Jリーグを引っ張ってきた頂点。ある意味、富士山のような存在です。彼らに学びながら、競いながら、自分たちの価値を高めていくことはできると思います。茨城県の魅力をより発信していくためにも、2つのクラブが最高峰リーグでしのぎを削っている状況はポジティブですね。僕も地元出身なので、地域を盛り上げたいし、みんながもっと楽しくなれるような環境を作っていきたいと思います」
後発組としてのチャレンジャー精神を持ち続け、積極果敢に前進していこうとしている小島社長。庶民的で野心のあるリーダーがいるチームは一見の価値がある。追い風が吹いているこのタイミングでぜひ一度、水戸信用金庫スタジアに足を運んでみるのも一興だ。
取材・文/元川悦子
長野県松本深志高等学校、千葉大学法経学部卒業後、日本海事新聞を経て1994年からフリー・ライターとなる。日本代表に関しては特に精力的な取材を行っており、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは1994年アメリカ大会から2014年ブラジル大会まで6大会連続で現地へ赴いている。著作は『U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日』(小学館)、『蹴音』(主婦の友)『僕らがサッカーボーイズだった頃2 プロサッカー選手のジュニア時代」(カンゼン)『勝利の街に響け凱歌 松本山雅という奇跡のクラブ』(汐文社)ほか多数。




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