特定商取引法などの法律では、消費者が事業者から購入した商品などについて、一定の場合に「クーリングオフ」を認めています。
SNS上で購入勧誘を受けた場合については、現行法ではクーリングが認められていません。しかし近時の状況を踏まえ、消費者庁の検討会において、SNS上での購入勧誘についてもクーリングオフを認める方向での議論がなされています。
1. クーリングオフとは
「クーリングオフ」とは、消費者が事業者と締結した契約を、ペナルティなしで解除できる制度です。
消費者保護の観点から、契約の要否について再考の機会を与える必要性が高いと考えられる取引類型について、一定期間のクーリングオフが認められています。
現行法では、たとえば訪問販売や電話勧誘販売について8日間のクーリングオフが認められています。消費者が事業者の圧力や言葉巧みな勧誘に押されて、よく分からないまま契約を締結してしまう例が多く見られるためです。
2. SNSのメッセージによる勧誘につき、クーリングオフの対象への追加が検討中
現行法では、事業者がSNSを通じて商品やサービスの購入を勧誘する場合については、消費者によるクーリングオフが認められていません。
しかし近年では、事業者がSNSのメッセージ送信機能を利用して、消費者に対して商品やサービスの購入を働きかける事例が増加しています。
その中には、事業者が事実と異なる説明をするケース、威迫的な言動を用いるケース、消費者が断っているのにしつこく勧誘するケースなども見られます。
このような状況を踏まえ、消費者庁が設置した「デジタル取引・特定商取引法等検討会」では、クーリングオフ制度の見直しに関する議論が行われてきました。
2026年9月10日に公表された中間取りまとめでは、SNSのメッセージ送信機能を利用した勧誘行為の一部につき、電話勧誘販売と同等の規律を設けることが提言されています。
参考:デジタル取引・特定商取引法等検討会 中間取りまとめ|消費者庁
3. 検討中のSNS勧誘規制の概要
デジタル取引・特定商取引法等検討会の中間取りまとめでは、スマートフォンやPC等の画面を通じた、特定の相手方に対する双方向のやり取りのための文字情報等の送信を「チャット等」と定義し、新たに勧誘規制の対象とすることが提案されています。
ただし、事業者のメッセージに対する応答を不可とする一斉配信や、単発のポップアップ表示など、双方向のやり取りを一切想定しないものについては、チャット等による勧誘規制の対象外とするのが適当とされています。
新たな勧誘規制の対象とするチャット等については、電話勧誘販売と同様に、下記の3つの場面において規律を設けることが提唱されています。
(1)勧誘場面
(a)販売業者等の氏名・名称、勧誘者の氏名、商品・サービスの種類および販売目的の告知を義務付ける。
(b)不実告知および重要な事実の不告知を禁止する。
(c)消費者を威迫し、または困惑させる行為を違法行為として規律する。
(d)消費者が拒絶の意思を示した後の再勧誘を禁止する。
(2)契約場面
申込書面・契約書面の交付を原則としつつ、勧誘から申込み・契約までがインターネット上で完結する場合は、書面の電子化に関する規律について実態を踏まえて引き続き検討する。
(3)解約場面
(a)契約書面を受領した日から起算して8日を経過するまでの間、クーリングオフを可能とする。
(b)不実告知等により契約締結に至った場合は取消権を認め、過量販売に該当する場合は解除権を認めるなど、意思決定過程の問題に対応した民事上の効果を付与する。
4. まとめ
クーリングオフに関する法改正の議論は継続中ですが、デジタル取引・特定商取引法等検討会の中間取りまとめに沿った規律が設けられる可能性は高いと思われます。
特に近年では、SNSで突然メッセージを送り、商品やサービスの購入を勧誘する事業者が増えています。そのような勧誘には安易に応じないことが大切ですが、もし勧誘に応じて購入してしまったときは、クーリングオフなどによって解約できるかどうかを検討しましょう。
対処の仕方に迷ったときは、弁護士や消費生活センターの窓口に相談してください。
取材・文/阿部由羅(弁護士)
ゆら総合法律事務所・代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。ベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。東京大学法学部卒業・東京大学法科大学院修了。趣味はオセロ(全国大会優勝経験あり)、囲碁、将棋。
https://abeyura.com/
https://twitter.com/abeyuralaw
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