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トリプルドライバーを搭載したNothingのフラッグシップヘッドホン「Headphone (1) Pro」が業界をザワつかせる理由

2026.10.11

スケルトンデザインのスマホで知られるNothingだが、実はルーツはオーディオにある。日本でも多くのイヤホン、ヘッドホンを展開し、直近ではイヤーカフタイプの「CMF Clip Pro」も発売。スマホと同様に、同社にとって重要なプロダクトであり続けている。

新たに登場する「Headphone (1) Pro」は、ヘッドホンシリーズのフラッグシップモデルとして登場する1台。Nothingらしいデザインは踏襲しながら、パーツや音質に細かなこだわりが光る製品だ。

デザインは踏襲しながら素材はハイエンドに

Nothingは、デザインの一貫性を何より重視してきた。Headphone (1)、Headphone (a)、そして今回のHeadphone (1) Proの3世代を並べてみれば、その意図は明快であろう。形状・フォームファクターは共通のまま、その中でトリートメント(表面処理)と素材を変えることで、クオリティの向上を図るというアプローチが行われている。

左からHeadphone (a)、Headphone (1)、Headphone (1) Pro

ケースシェルの部分は、従来モデルと同様にアルミフレームをそのまま使用している。大きく変わったのはイヤーカップの外板で、前モデルではアクリル(プラスチック系)であったのに対し、今回はスマホにも使われる強化ガラスを採用した。

表面はフラットに仕上がり、触るとひんやりとした冷たさがあり、厚みのある重厚な質感を備えている。強化ガラス越しに内部が透けて見える、Nothingならではのシースルーデザインも健在である。

もう1つの大きな変更がアーム部分である。従来はスチールを使用していたが、今回は強度向上と軽量化の両立を狙ってチタンを採用した。この効果は大きく、アーム単体ではスチール比で45%の軽量化を達成している。

その結果、強化ガラスという重い素材を外板に使いながら、製品全体では現行のHeadphone (1)比で2g軽くなった。重い素材を使っても軽く仕上がったという、マテリアル面での着実な進化である。

カラーは2色展開で、ヒーローカラーのブラックと、Nothingの伝統的なホワイトを用意する。

着け心地 — 科学的アプローチで長時間使用を支える

Nothingはデザインにおいて、感性的な部分と論理的・科学的な部分の両方を取り入れていると説明する。強化ガラスのシースルー越しに内部の内容物を意図的に見せるのは前者の例だが、着け心地の改善は後者、すなわち科学的アプローチの典型である。

イヤークッションは、現行モデルのHeadphone (1)比で50%以上柔らかくなった。クッション材が柔らかすぎない絶妙な弾力で耳を包み、密着度を高めている。ただし表面の素材にはコシを持たせており、革ほどではないが、革特有の「コシのある柔らかさ」に近い手触りを実現したという。

クッションの素材はこれまでの1枚のPUレザーから、PUレザーとナイロン生地の2枚合わせに変更された。さらに、パッシブノイズキャンセリング(PNC)の観点から決定的に重要なのが、クッション材の芯に配したシリコン製の遮音壁である。外の騒音を入れにくく、中の音を外に逃がしにくくする物理的な遮蔽として機能する。

ヘッドバンド側にも手が入った。頭頂部のパッドの厚みは12%厚く、バンド幅は10%ワイドに、それぞれ拡大している。細すぎても太すぎても良くないが、可能な限り太い方が頭をしっかりとホールドできるという判断である。また、バンドの伸び縮みによる調整幅も従来以上に広げて、装着感の個人差に対応している。

物理キーの気持ちよさは維持

物理ボタンでの操作は、Headphone (1)で最も好意的なフィードバックを得た部分であり、Headphone (1)、Headphone (a)、Headphone (1) Proの全モデルで共通とされている。

イヤーカップには2つの操作パーツが並ぶ。ローラーは、回すことでボリュームを調整でき、軽く押せば再生・一時停止、長押しすればANC(アクティブノイズキャンセリング)のオン・オフを切り替えられる。そして選曲用のパドルは往年のラジカセに近い使用感で、カチカチと上下させることで次の曲・前の曲への移動ができ、長く倒せば早送り、長く引けば巻き戻しが可能で、通話の拒否も行える。

コンシューマー製品ではほとんど例のないトリプルドライバー構成

Headphone (1) Proの最大の武器が、この価格帯のコンシューマー向けヘッドホンではほとんど前例のない「トリプルドライバーアーキテクチャ」である。異なる性質のドライバー3基を1つのイヤーカップに搭載する構成で、登壇者自身が「このサイズで3つの異なったドライバーを一緒に搭載するというのはほとんど見たことがない」と語る、相当に攻めた設計である。

核となるのは、ほぼ全帯域を担う40mmのフルレンジダイナミックドライバー。ただしフルレンジとはいえ高音域は得意ではなく、それを補完するために「高精度ダイナミックドライバー」を1基追加。こちらは鳴らすというより、クリップネスやシャープネスといった不足部分を厳密に補う役割を担う。そして特に高音に近い領域には、xMEMS技術を搭載したツイーターを採用している。xMEMS採用の製品は、一部のハイエンドブランドを除けばコンシューマー向けではほぼ見かけず、これもこの製品ならではの採用である。

3つのドライバーは同じ位置にまとめられるのではなく、3つの異なるポジションに配置されている。密閉度の高いイヤーカップの内部で、3つの音源から音が再構成されることで、単一ドライバーでは到達できない音像と空間表現を生み出す設計。もちろんソフトウェア側でも音の合わせ込みを行っている。

ハイレゾ対応も強化。ワイヤレスではHeadphone (1)と変わらずLDACコーデックに対応し、96kHz/24ビットのハイレゾワイヤレスオーディオをサポートする。大きな変更は有線側で、USB-C接続時の対応が従来の96kHzから192kHzに拡大され、USBケーブル経由でロスレス再生が可能になった。

なお、USB-Cケーブルと3.5mmオーディオケーブルの両方が同梱される。飛行機の機内オーディオの接続など、3.5mm端子が必要な場面にもそのまま対応できる構えである。また、本体を保護するハードケースも同梱される。

トリプルドライバーアーキテクチャは、空間オーディオとの相性の良さという側面も持っている。空間オーディオを司るHRTFは、平均化されたものであり本来パーソナライズされたものではないが、アルゴリズムは世代を重ねるごとに良くなるものであり、今回のHeadphone (1) Proは約4世代目にあたることから、相当に向上したアルゴリズムを搭載している。

これにより、頭の動きに応じて音像が正しく定位し続けるダイナミックヘッドトラッキングの追従も、以前よりずっと自然な動きになった。加えて、3つのドライバー自体がカップ内の異なる位置に立体的に配置されている構成そのものが、空間的な音作りに適したアーキテクチャになっている。

さらに、リスナーがどのような音場・音像をイメージするかも体験の重要な要素として、音場のプリセットを5種類用意した。その中には、Flat EQの共同開発で縁のあるMetropolis Studiosの「Studio B」を再現したもののほか、コンサートホール、ライブハウス、クラブなどが含まれる。特にライブハウスは、前方向の音の鳴りと後方へのアンビエンスの広がりが音場として独特であり、こうした違いの再現をプリセットで簡単に切り替えられるようになっている。

プロの現場のための「加工のない音」、基準はMetropolis Studiosと共に

Headphone (1) Proの新機能として注目されるのがFlat EQである。イヤーカップ内側のボタンでオンにすると、イコライザー機能や外音取り込み機能などが自動的にオフになり、イコライザーによる修正や加工が一切かかっていない、ニュートラルでフラットな音になる。ビデオ編集や簡易的な音作りなど、原音確認が必要な用途を想定した、プロユース寄りの機能である。

難しかったのは「どこをフラットと定めるか」とのこと。Headphone (1)の音質開発ではKEFとコラボレーションを行ったが、今回はFlat EQの音の基準を定めるにあたり、ロンドンの独立系レコーディングスタジオ「Metropolis Studios」と協業した。注目すべきは、協業の内容が「この方向の音にしよう」という従来型のチューニングではなく、「どれがフラットなのか」をサウンドエンジニアと共に定義するという、より本質的な共同作業だった点である。フラットといっても、アコースティックな特性や処理によって大きく変わるため、単純にすべてをゼロにすればよいわけではなく、多少の調整を加えた上で基準を策定した。

ANCは 最大46dB、マイクは片側5基・合計10基へ

アクティブノイズキャンセリング(ANC)の性能も大幅に向上した。最大ノイズ低減量は従来の42dBから46dBへと数値が引き上げられた。ただしANCの実力は最大値だけでは測れず、ノイズをどれだけの面積でカバーし、どれだけ効くかが重要であり、この「面積」で見た性能はおよそ40%改善したという。

その実現には、ハードウェアとソフトウェアの両面からのアプローチが必要である。先述の通りイヤークッションの2枚合わせ表皮、コシのある手触り、50%柔らかいクッション材、そしてクッション芯のシリコン製遮音壁による密着性の徹底した向上が下支えしている。

ソフトウェア側の見どころはマイクの増強である。集音とかき消しを担うフィードフォワードおよびフィードバックマイクの構成は、従来のフラッグシップHeadphone (1)では片側4基(2+2の組み合わせ)であったが、今回は片側5基、合計10基に増設された。

また、環境適応型ノイズキャンセリングにも強化が入った。ノイズキャンセリングをオンにしたまま電車に乗る、屋外に出る、静かな場所に入るといった場面の切り替えに応じて消音の仕方を変える機能であり、環境のパターンが大幅に底上げされた。

基となるシナリオ数は4万3000以上に達し、時間の経過とともにさらに増え続けるという。これらの処理にはAIが活用されており、マイクが拾った音を既存のシナリオに照合し、ビームフォーミングでノイズを消していくという、かなり科学的な処理をヘッドホンの内部でリアルタイムに実行している。

Nothing初のフラッグシップヘッドホンは6万4800円、9月29日発売

価格は6万4800円、発売日は9月29日。カラーはヒーローカラーのブラックとホワイトの2色展開である。

バッテリーの連続再生時間は、ANCオフ時で最大68時間、ANCオン時でも最大30時間を確保した。海外への長距離移動でも1回の充電で十分足りる水準である。接続規格はBluetooth 6.1に対応したほか、この世代からオーラキャスト(Auracast)のサポートが始まる。製品ごと・地域ごとのアベイラビリティによる変動はあり得るが、今後の製品ではAuracastを積極的に搭載していく方針である。防水防塵性能はIP52となる。

登壇者はHeadphone (1) Proを2週間使い込んだ上で「いい音に仕上がっている」と評価するが、音のチューニングはなお追い込みの最中とのこと。発売までの残り約5日間でさらなる調整が続けられる。当日体験用に用意されたサンプル機には約1週間前のバージョンのチューニングが入っており、現在の開発機は既にさらに良くなっているという。ソフトウェア面での改善余地を開発側も把握しており、発売以降もアップデートを重ねて仕上げていく方針である。

オーディオ、スマホ共に、若年層を中心に人気を博すNothingだが、デザインに加え、コスパの良さも1つの評価ポイントとされている。フラッグシップモデルとして登場するヘッドホンは、他社比較でも安いとは言い切れない金額になっており、市場がどのような反応を示すのかも、注目するべきポイントとなる。

取材・文/佐藤文彦

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