株式会社メガネトップは、眼鏡市場ブランド誕生20周年を記念した報道向け体験イベントにおいて、AI機能搭載スマートグラス「Linse」の後継機となるARグラス「Linse Display」を初披露した。
商品名は、初代Linseの由来である「Luminous(明瞭で)」「Interactive(双方向な)」「Next-Gen(次世代の)」「 Smart(スマート)」「 Eyewear(アイウェア)」の頭文字のアイデンティティを受け継ぎつつ、視界に情報を映し出すARグラスであることを直感的に表現したものとなる。
なお、記事内の写真はプロトタイプのものとなり、製品化の際にはデザイン等が変更されている可能性もある。
はじまりは「ガジェットではなく、毎日かける眼鏡」
Linse Displayを語る上で欠かせないのが、2026年2月2日に行われた初代「Linse」の発表会だ。メガネトップはこの日、フルスペックの「Linse」と、音楽・通話機能に絞ったオーディオグラス「Linse Lite」の2機種を発表し、2月6日から全国の眼鏡市場130店舗で発売した。価格はLinseが5万5000円、Linse Liteが1万9800円だった。
初代Linseの開発には4年以上の歳月がかけられており、その設計思想は一貫して「ガジェットとしてではなく、毎日かける眼鏡としてどういうものがいいか」という観点にあった。当時、商品開発部の吉田和弘部長は開発の狙いを「特別なデバイスから日常に溶け込むアイテムになる中で、毎日掛けるメガネとして成立するかが重要な要素になる」と語っている。
また、社会的な受容を最優先した姿勢も明かされており、「社会的な懸念、リスクを踏まえた上で、ただ他社に先んじて製品を投入するのではなく、ユーザーや社会に受け入れてもらえるかを精査しながら、具体的に形にできるかを重視して設計、製造をしてきた」としている。この「社会に受け入れられるか」という基準が、後継機であるLinse Displayの土台にもなっている。
初代から引き継ぐ「メガネとしての完成度」
初代Linseは、2026年2月に国内メーカーとして初のスマートグラスとして発売されている。
カメラ撮影、通話、音楽再生といった機能に加え、1日中かけても痛くならないかけ心地、度付きレンズ対応、店舗での手厚いサポートを追求した結果、順調に販売を推移させているとのこと。
新たに登場するLinse Displayは、この基本機能をすべて受け継ぎながら、翻訳、ナビゲーション、テレプロンプター、文字起こしという、ディスプレイを活用するAI機能を追加した。
テレプロンプター機能では、スマホからインポートした原稿をレンズ上に表示し、テンプルのタッチパッドをシングルタップやスワイプするだけでページ送りが可能だ。画面下には現在の読み位置がページ数で表示されるため、プレゼンテーションの進行も確認できる。
翻訳機能は、相手が話す英語や中国語をその場で日本語に翻訳し、レンズ上に字幕表示する。原文と訳文を上下に並べ最大4行同時表示できる。開発者自身も「先週中国へ出張した際、これを持って行けばよかった」と実感を語るほど、通訳を介さずダイレクトに会話できる価値は大きい。
ナビゲーション機能は徒歩・自転車移動時に進行方向や目的地までの距離を視界内に表示し、スマートフォンを取り出すことなくスムーズに移動できる(現時点で電車での移動には非対応)。
「メガネとしての完成度」はどこまで引き継がれたのか
初代Linseが4年以上かけて磨いた「かけ心地」へのこだわりは、後継機でも受け継がれている。調整可能な鼻パッドや軽く柔軟性のあるフレーム素材を採用し、1日中掛けていても痛みがない“快適な掛け心地”を実現した点は、初代からの設計思想そのものだ。
一方で、ディスプレイを加えたことでデバイスとしての要求は確実に高まっている。それでもなお、眼鏡ブランドとしての立ち位置を崩さないのがメガネトップの姿勢だ。初代の販売では、これまで培ってきたフィッティングのノウハウを強みに、あえてオンラインではなく対面販売にこだわった。この「店舗で手厚くサポートする」という価値は、度付きやフィッティングがより重要になるARグラスにおいて、さらに意味を持つ。
眼鏡ブランドとして「デバイスでありながらきちんとメガネ」であることにこだわる
予定価格は税抜10万8182円、重量は約50g、12メガピクセルカメラを搭載し、ノイズキャンセリング、Bluetooth、Wi-Fi、タッチパッド、ボイスコントロール、アプリ連携に対応する。
開発陣が最もこだわったのは、デバイスでありながら「きちんとメガネとして使える」こととのこと。鼻パッドは調整可能な構造とし、インナーフレームの採用により度付きレンズにも対応する。
機能だけでなく、実際にかけ続けられるメガネとして仕上げることがメガネメーカーのこだわり。盗撮防止のため、撮影中にはフレーム前面のLEDライトが点灯・点滅する設計も初代から引き継いでいる。
競合製品との比較において、まず挙げられるのは両眼ディスプレイである。片側のみの表示ではないため、両目で楽に見ることができ、ディスプレイは1~2m先に浮かんで見えるよう知覚されるため、老眼の人でも楽に視認できるという。
さらにメガネ専門店ならではの強みとして、単焦点レンズであれば、店舗在庫があれば即日加工で度付き対応が可能であり、複雑なレンズでも約1週間での提供が可能である。店舗での精密なフィッティングサービスと合わせが、他社製品との大きな差別化ポイントとなる。
2026年10月にはクラウドファンディングを開始する予定で、現在のプロトタイプとは一部仕様が変更となる可能性がある。
初代LinseとLinse Display、何が引き継がれ、何が変わったのか
初代LinseとLinse Displayを並べると、継承と進化の線引きが見えてくる。基本となる「眼鏡としての快適さ」はそのままに、視界に情報を映すディスプレイとAI処理が加わったのが後継機の本質だ。
まず提供の形からして異なる。初代Linseは、2026年2月6日に全国130店舗で発売された量産モデルだった。これに対しLinse Displayは、2026年10月にクラウドファンディングを開始する予定で、現時点ではプロトタイプの段階にある。価格も、初代Linseが5万5000円(税込)だったのに対し、Linse Displayは予定価格で税抜10万8182円と、おおむね倍の水準へと引き上げられている。ディスプレイとAI処理を“かけ続けられるメガネ”に収めるためのコスト増が表れている。
デバイスとしての姿も変わった。初代Linseは重量が約45g、防水・防塵性能はIP54、連続使用時間は約4時間で、フレームのレンズ脇に約1200万画素のカメラを搭載していた。Linse Displayは重量が約50g、カメラは12メガピクセルへと仕様が示され、ディスプレイを備える分だけ本体もわずかに重くなっている。
機能の軸も移り変わった。初代Linseが「撮る・聴く・話す」、すなわちカメラ撮影と音楽再生、通話を日常のメガネに載せたのに対し、Linse Displayはそこに「見る」を加え、翻訳・ナビゲーション・テレプロンプター・文字起こしといった、その場で情報を使う体験を眼鏡をかけたまま完結させる。両眼ディスプレイを採用したことで、片側表示ではなく両目で楽に見られる点も後継機ならではだ。
一方で、初代が築いた価値はそのまま受け継がれている。盗撮防止のためのLED点灯・点滅は、初代ではシャッター音の発生やLED遮蔽時の撮影不可まで含む「気づかれずに撮れない設計」として徹底されていたが 、その考え方はLinse Displayにも引き継がれている。度付き対応も同様で、初代が店舗でのレンズ加工によって対応したのを踏襲し、後継機ではインナーフレームの採用によって実現する。眼鏡メーカーとしての一貫した姿勢が、世代をまたいで貫かれていることがうかがえる。
「メガネであること」を軸に、AIグラスはどこへ向かうのか
初代Linseの発表会で繰り返されたのは、機能の新しさよりも「毎日かけるメガネとして成立するか」という問いだった。4年以上の開発期間、店舗での対面販売、社会的な懸念を踏まえたプライバシー設計。そのすべてが、眼鏡メーカーとしてのLinseの立ち位置を示している。
その延長線上にあるLinse Displayは、初代の基本機能と「眼鏡としての完成度」を受け継ぎながら、翻訳・ナビゲーション・テレプロンプター・文字起こしというディスプレイ前提のAI機能を加えた一台だ。両眼表示で老眼でも見やすく、メガネ専門店のフィッティングと度付き対応という他社にない強みも備える。
予定価格は税抜10万8182円と初代から大きく上がるが、それはディスプレイとAI処理を“かけ続けられるメガネ”に収めるためのコストでもある。2026年10月のクラウドファンディングを経て、プロトタイプからどこまで仕様が洗練されるのか。国内メーカー初のスマートグラスを世に出したメガネトップが、次にどこまで「メガネらしさ」を守りながらAR体験を届けるのかが、最大の注目点となる。
取材・文/佐藤文彦
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