「来年の話をすると鬼が笑う」とはよく言われるものの、2027年の正月に向けたおせち料理の受注が続々と始まっている。昔ながらの大手百貨店はもちろん、最近では〝推し活〟に乗じたキャラクターやアニメなどに関連するおせち料理も増えてきた。そんな中、すでに今年7月より受注を開始しているのが、京都の老舗料亭・下鴨茶寮。メディア向けの発表会で総料理長などから語られた、おせち料理の品々に込められている思いなどについて紹介しよう。
創業170年の下鴨茶寮は
歴史ある下鴨神社の〝包丁人〟
下鴨茶寮とは安政三年(1856年)に創業した、京都の老舗料亭。御用達の〝包丁人〟として、京都の下鴨神社と深いかかわりを続けてきた。〝包丁人〟とは、ただ食事を提供するだけでなく、神事や催事に関与することを特別に許された存在。神事の後に神様へのお供え物を人間がいただくという「直会(なおらい)」の調理や作法を、古くから伝わる礼儀に則って継承する役割も担っているという。
下鴨茶寮は今年で創業170年目。昔から受け継がれている技術を、網羅しきれていないほど継承しているという。そんな下鴨茶寮のおせち料理には、懐石料理でも一堂に会してシェアする機会がなかなかないほどの計50点の品々が入っている。下鴨茶寮でおせちを販売しているのは、先々代の頃からとのこと。ほかの料亭や百貨店よりも、おせち料理の販売を行なうのは早かったようだ。
おせち料理の食材には〝意味〟がある!
確保するために早めに準備が進められる
そんな下鴨茶寮で総料理長を務めているのが、本山直隆さん。「おせち料理は、1年に1回、皆様のスタートを切る特別なもの。食材には縁起物をはじめ、いろんな願い、祈り、思いがこもっているものを使っています」(本山さん)
下鴨茶寮のおせち料理では「祝い肴三種(いわいざかなさんしゅ)」として「数の子」「黒豆」「たたきごぼう」を入れている。「例えば『たたきごぼう』には〝根を張る〟という縁起の意味があります。車海老には『腰が曲がるまで長生きできるように』という長寿の願いが込められています。蛸(タコ)は『多幸』に通じる多くの幸せを願うもの。蛤(ハマグリ)は、貝が対になることや、貝殻同士はその組み合わせしか成り立たないことから『夫婦円満』や『一生涯を一緒に』という意味合いがあります」(本山さん)
縁起物の食材の数々は、気候変動などの影響により、軒並みと言っていいほど希少性が高くなっているそうだ。「中でもイクラや魚介系は、仕入れの部分でかなり苦労するようになりました。そのような事情も考慮し、毎年1月中に翌年のおせちを決め、ラインアップやその年々の企画は春先にすべて決め終えるようにしています。早め早めに動き、7月の第2週目からすでに販売を開始しているのはそのためです」(本山さん)
注文数が多いので、味や品質を安定させるという意味では、できるだけ同じ場所で同じものを仕入れることがベスト。そのため、各食材は〝1か所1社からの仕入れ〟に、できるだけこだわっているという。「仕入れ先がバラバラになると、どうしても個体差が出てしまいますからね」(本山さん)
下鴨茶寮のおせち料理は
手間ひまをかけて作られる逸品ばかり
そのようにして仕入れた食材は、より華やかでおめでたい印象にするため、松笠(松ぼっくり)をイメージした〝飾り切り〟を施すなどの工夫を凝らしている。「おせち料理は日持ちをさせないといけないから、往々にして味付けがかなり濃くなっています。しかし下鴨茶寮のおせち料理は、日持ちさせるのはもちろん、料亭らしく素材そのものの持ち味を生かし、できるだけ出汁を効かせて淡く仕立てるのが特徴です」(本山さん)
いろんな品々が詰め込まれた下鴨茶寮のおせち料理の中でも、本山さんがおすすめの逸品のひとつに挙げるのは「唐墨(カラスミ)」だ。「ボラ子(ボラの卵巣)の血抜きをして塩漬けした後に塩抜きをし、さらにはアルコールに浸けてから何日も何週間も天日干しをするという、手が込む作業を3~4週間かけて仕立てます。ぜひ味わってほしいですね」(本山さん)
下鴨茶寮のおせち料理
おすすめ5品目
下鴨茶寮が受注を開始している2027年のおせち料理は計14種類。中でも、下鴨茶寮がおすすめする個性的なおせち料理5種類はこちら。
『特撰おせち 特製和おせち 二段+合鴨鍋(4~5人前)』
32万4000円
伊勢海老、キャビア、本唐墨(ホンカラスミ)などを盛り込んだおせちに、合鴨鍋を組み合わせた逸品。蛤(ハマグリ)の貝殻を模した陶器には、下鴨神社の名誉宮司より賜った直筆の書の意匠をあしらっている。合鴨鍋をセットにしているのは、おせちを食べ飽きた時などに、違った趣向で食事を楽しめるため。
『和おせち 三客(1人前×3)』
2万1600円
鱈(タラ)の旨煮や、松笠烏賊(マツカサイカ)の塩焼きといった料亭ならではの品々を、1人前ずつお重に盛り込んでいる。取り分ける手間がなく、ひとりずつご自身のお重でゆっくりとおせちを楽しめる三脚仕立て。1脚ずつ同じものを3人で味わいたいという要望に応えてラインアップしているそうで、人気が非常に高いとか。
『冷凍コラボおせち二段+ちらし寿司(2~3人前)』
2万4840円
札幌市中央卸売市場のカネシメ髙橋水産と一緒に仕立てる〝コラボおせち〟。北海道の海の幸と京都料亭の技を、ひとつのおせちにした三重の構成が特徴。一の重にはカネシメ髙橋水産が目利きした魚介を中心に盛り込み、三の重には蟹といくらのちらし寿司を新たに加えている。
『【本店】和おせち 二段+雑煮重(4人前)』
10万8000円
焼ふぐとともにふぐ白子焼を入れた贅沢なお雑煮が付いたセット。ふぐというには「福」という言葉は通じた食材。お雑煮には、大根、人参、銀杏、蓮根、南瓜(なんきん=かぼちゃのこと)といった食材も入っている。これらはすべて「ん」で終わる言葉であり「運がいい」「運を呼び込む縁起物」という語呂合わせで選んだそうだ。そんな〝開運招福のお雑煮〟は、京都らしい白味噌仕立て。同様のものは下鴨茶寮でも振る舞っているそうで、それと同じ味を家庭で楽しめる逸品だ。
『酒肴(しゅこう)おせち 冷凍一段 お酒付(2人前)』
2万7500円
世界的に有名な山口県の『獺祭』と、地元京都にある松井酒造の『神蔵』がセットに。「唐墨(カラスミ)」「クリームチーズ味噌」「甘海老塩辛」など、お酒と相性のいい品々がひとつの段のお重に詰め込まれている。正月のおせち料理としてはもちろん、オードブルのように少しずつつまみながら楽しめる。なお、2本のお酒はおせち料理とともに特別な冷凍技術によって届けられる。いずれも少し解凍された状態だと〝みぞれ酒〟としても楽しめるほか、解凍されていくにつれて徐々にまろやかな味わいも満喫できるそうだ。
総料理長の本山さんが特におすすめするのは『酒肴(しゅこう)おせち 冷凍一段 お酒付(2人前)』。「〝飲んだくれ〟の正月には最高のおせち料理です。2027年の正月休みは、カレンダーの関係で短くなりそうなので、帰省できない遠方に住むご両親や友人に贈るおせち料理としてもよさそうだと、個人的に思っています」(本山さん)
なお、下鴨茶寮が展開するおせち料理の中身自体は、ここ数年で変更したばかりなので、2027年版の品揃えは大きく変えていないという。ただし『酒肴(しゅこう)おせち~』のように冷凍でお届けするなど提供の方法は新たに検討したそうだ。「シチュエーションごとに楽しめるラインアップを揃えて、いろんなお客様に選んでいただけるようにすることを意識しています」(本山さん)
下鴨茶寮のおせち料理には
地元京都のお店の調味料や材料を使うこだわりも
メディア向けの発表会の後半には、下鴨茶寮の主人を務める放送作家・小山薫堂さんも登壇。本山さんとの対談では、お雑煮には加藤味噌店の白味噌、ごぼうなどに使うお酢には千鳥酢、お餅には鳴海餅本店の餅というふうに、下鴨茶寮のおせち料理には、地元京都にある老舗の食材を使っていることが話題にあがった。
「白味噌を入れている加藤味噌店さんは江戸時代から昔ながらの味噌づくりをしている老舗。美味しさの秘訣は『発酵の力』『菌の力』とのことで、味噌を作るすべての樽に〝ありがとう〟と書いた紙が貼ってありました」(小山さん)
「鳴海餅本店さんには、おせち料理に入れるお餅の相談に乗ってくれていて非常に助かっています」(本山さん)
「そういういろんな職人さんたちが魂を込めて生み出した材料を、本山料理長がキュレーションして作ることで、下鴨茶寮のおせち料理は出来上がっているわけですよね。お餅にも見られる紅白といえば、かまぼこもそうですけど、この紅白という組み合わせって、おめでたいという縁起の意味合い以外にも理由があるんでしたっけ?」(小山さん)
「赤はよく魔除けと言われる。白は無垢、洗礼、神聖みたいな色の意味があると言われています」(本山さん)
「紅白の組み合わせをはじめ、日本人って、ただ美味しいから振る舞うのではなく、食のひとつひとつにそういう哲学的な思想が入っているじゃないですか。それって日本独特のものなんですか?」(小山さん)
「そうだと思います。中でもおせちは、お重に入っている品々のすべてに、ちゃんと意味がある特別なものだと思います。だから、意味を理解しながら噛みしめると、おせち料理の見方は変わってくると思います」(本山さん)
食べる人の幸せを願う縁起物をたくさん詰め込んだ下鴨茶寮のおせち料理。趣向を凝らした計14種類のうち、自分の正月の過ごし方や予算に合うものを注文し、食材についてあれこれ思いを馳せながら、至福の年明けを過ごしてみてみるのもいいだろう。
取材・文・編集/田尻 健二郎




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