スペースが限られる都市部で「空飛ぶクルマ」を実現するために
コンパクトな「空飛ぶクルマ」(※1)の開発・製造・販売を行なう株式会社SkyDrive(以下「SkyDrive」)は、スペースが限られている都市部で「空飛ぶクルマ」を実現するために適した機体設計の根拠をまとめた機体設計コンセプト「混雑した都市環境におけるeVTOLの安全性のジレンマ(The eVTOL Safety Dilemma in Congested Urban Environments)」を公開した。
※1 空飛ぶクルマ:電動化、自動化といった航空技術や垂直離着陸などの運航形態によって実現される、利用しやすく持続可能な次世代の空の移動手段。諸外国ではAdvanced Air Mobility(AAM)や Urban Air Mobility(UAM)と呼ばれている。
空飛ぶクルマ(eVTOL)には、長距離の効率を重視する固定翼型から、限られたスペースでの安全性を重視するマルチローター型まで、用途に応じて最適な設計が異なる。
本機体設計コンセプトでは、「利用シーン」を起点に、都市運航に必要なホバリング性能やバッテリー出力、安全設計の関係を考察し、SkyDriveがなぜコンパクトなマルチローター型を選択したのか、その技術的根拠を述べている。
本稿では、その概要を同社発表リリースをベースにお伝えする。
「どこを飛ぶか」から空飛ぶクルマの機体設計を考える
空飛ぶクルマの機体設計に、すべての用途に対する唯一の「正解」があるわけではない。例えば長距離移動では、飛行機のように翼を利用してエネルギー消費を抑える固定翼型(ティルトローター型等)にメリットがある。
一方、建物が密集した都市部での短距離移動では、限られたスペースへの垂直離陸や、低速・ホバリング時の性能がより重要になる。

また航空機は、万が一バッテリーの一部が故障した際でも安全に着陸できる設計が必須だ。しかし、「翼」があるとその分機体が重く、複雑になる。
バッテリー量に限界がある中でも、重い機体を支えるためには十分なバッテリーが必要になり、不足すればホバリングを維持できなくなるリスクもある。ビルが密集する都市部では、これが安全上の大きなジレンマとなってくる。
SkyDriveが目指すのは「人々が街から乗れる、最も身近なエアモビリティ」である。2030年には世界人口の6割以上が都市に定住すると予測される中(※2)、同社では鉄道や高速道路などの既存交通網と連携。駅や空港から最終目的地(オフィスやホテル)までを結ぶ「ラストワンマイル」を空から補完する役割を担っていく。
そのため、SkyDriveは「都市で日常的に使うこと」から逆算して機体を設計している。
※2 国際連合「世界都市人口予測・2018年改訂版」
機体設計コンセプトの概要
■都市部で生じる「空飛ぶクルマの安全性のジレンマ」
固定翼を持つ航空機は、前進飛行時に翼から揚力を得ることができるため、長距離を効率よく飛行する上で大きなメリットがある。本機体設計コンセプトで引用している調査では、前進飛行時のエネルギー効率において、ティルトローター型はマルチローター型より優位であることが示されている。
一方、都市部での運航では異なる課題もある。建物や障害物が存在し、離着陸できるスペースが限られる都市環境では、低速飛行やホバリングを行ないながら、指定された場所へ正確に進入し、垂直に離着陸する性能が重要だ。
さらに、固定翼や飛行モードを切り替える機構などを追加すると、機体重量や構造の複雑性が増し、ホバリング時に必要な出力も増加する。
長距離を効率よく飛ぶための「前進飛行性能」と、都市部で安全に離着陸するための「垂直飛行性能」をどう両立するか。これが本機体設計コンセプトで取り上げるeVTOL設計の「ジレンマ」である。
■都市運航の鍵となる「ホバリング性能」
都市部では、広い着陸場所を確保することが難しいため、機体が空中でその位置を維持する「ホバリング」と、垂直に離着陸する性能が重要になる。その効率を大きく左右する指標の一つが、「ディスクローディング(円盤荷重)」だ。

ディスクローディングとは、機体の最大離陸重量をローターの総面積で割った値で、ローターの面積あたりにどれだけの重量がかかるかを示している。
このディスクローディングが高くなるほど、ホバリング時に必要となる出力が増加する。反対に、ローター面積を広く確保し、機体重量を抑えることでディスクローディングを低くすることができ、ホバリング時の効率を高めることができる。
SkyDriveは12基のローターを配置することでローターの総面積を確保することで、低いディスクローディングを実現する設計を採用している。
■バッテリーの「容量」だけでなく「出力」が都市運航を左右する
空飛ぶクルマの性能を考える上で、バッテリーには大きく二つの重要な要素がある。
一つは、どれだけのエネルギーを蓄えられるかを示す「エネルギー密度」。これは主に航続距離に影響をおよぼす。もう一つが、瞬間的にどれだけ大きな電力を供給できるかを示す「出力密度」だ。大きな電力を必要とするホバリングや垂直離着陸では、この出力密度が重要になる。
ディスクローディングが高い機体では必要な出力も大きくなり、バッテリーの出力性能が垂直飛行の制約となる可能性がある。つまり都市で利用する空飛ぶクルマでは、「どれだけ遠くまで飛べるバッテリーか」だけではなく、「必要な時にどれだけの出力を安全に供給できるか」という視点も重要になってくるのだ。
■「単一故障」を想定した冗長設計
航空機の安全性を考える上では、システムの一部に不具合が発生することを前提とした設計が求められる。本機体設計コンセプトでは、バッテリーや推進用モーターの冗長性について考察している。
例えば、バッテリーパックの一つに故障が発生した場合にも、残されたシステムだけで安全な飛行と着陸を継続できなければならない。
ここで大きな壁となるのが、前述した「ホバリングに必要な出力」だ。緊急着陸用の経路を確保できない建物が密集した都市部においては、万が一電源システムの一部に故障が発生した場合であっても、安全に垂直着陸を完遂できる能力が求められる。
SkyDriveの機体設計は、低いディスクローディングを維持することでこの要件に応えており、単一故障が発生したシナリオにおいても、バーティポートへ安定した飛行と安全な垂直着陸を実現するためのパワーマージン(出力の余裕)を確保している。
■都市部での短距離移動から導き出した「マルチローター」という選択
高ディスクローディングの機体は、離陸時に大きなパワーを必要とするため推進システム全体が重量化して、有効積載量 対 最大離陸重量比を悪化させる。
この不利益は、巡航中もそのまま残り続ける。30km未満の都市部短距離移動において、わずかな巡航のために重い推進システムを載せて飛ぶメリットは限定的だ。
さらに、コンパクトなマルチローター構造は離着陸に必要なバーティポートのサイズを最小限に抑え、限られた都市空間の活用において圧倒的なアドバンテージを発揮する。
50kmを超える長距離の地域間移動では固定翼が優れる一方、都市内の短距離移動においては、狭小地への確実かつ安全な離着陸が最重要となるため、SkyDriveのはマルチローター構造を合理的で安全であると選択したという。
■「日常の移動に空を活用する」未来へ
SkyDriveは「どれだけ遠くまで飛べるか」だけでなく、「どこから乗れるか」という視点も重視しており、この権威ついては以下のように述べている。
「都市での日常利用を見据え、安全を最優先した短距離向けの機体開発と、既存交通網とのシームレスな連携により『人々が街から乗れる、最も身近なエアモビリティ』の実現を目指します。これを通じて「日常の移動に空を活用する」未来を切り拓いてまいります」
◎SkyDriveの機体設計に関する機体設計コンセプトの全文はこちらから
https://skydrive.co.jp/wp-content/themes/skydrive-v20260706/assets/pdf/JP_Design_Philosophy_Paper2.pdf
・画像提供:SkyDrive
構成/清水眞希




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