記録的な酷暑もひと段落した今秋。冷房の効いたオフィス、冷たい飲み物にビール。そんな夏を過ごしてなお、朝起きたときの腰の重さが抜けていない――そんな人は少なくないはずだ。「夏バテの名残だろう」と放置しがちなその違和感を、理学療法士の松田圭太氏は”隠れ腰痛”と呼ぶ。
揉んでも治らないその正体は、腰ではなく内臓に原因があるかもしれない。しかも松田氏によれば、夏に溜めたツケが本格的に噴き出すのは、まさにこれから。秋の今が、冬に持ち越さないための最後の分かれ目だ。
そもそも夏に腰痛は増えるのか?「夏の腰は、むしろ絶好調です」と松田氏は言う。
「夏は血流が良くなるので、筋肉が動かしやすくなる。でも、それが思わぬ落とし穴で、筋肉の調子が良すぎるがゆえに動きすぎてしまうのです。ぎっくり腰もそうですし、お子さんと慣れない山登りをして腰を痛めた、なんて方もいます。夏は、普段とは質の違う腰痛が増える季節なのです」
動きすぎとは別の負担が、夏にはもうひとつある。内臓の冷えだ。
「胃や腸などの内臓の壁も、実は筋肉でできています。しかし、手足の筋肉と違って自分の意思では動かせず、自律神経が調節しています。その自律神経に影響を与えるのが温度で、体内に冷たいものが入ってくると交感神経が働き、内臓は収縮します。わかりやすく言うと、寒くて身を固める反応ですね。暑さで体の外側は緩んでいるのに、キンキンに冷えたビールなどを飲むことで体の中は冷えて硬くなる。このアンバランスが、内臓とつながっている腰まわりのこわばりを生むのです」
手足や腰の筋肉は動くのに、内側は固まっている。だから痛みは表に出にくく、本人でさえ違和感があっても原因がわからない。これが松田氏の言う”隠れ腰痛”である。松田氏は続ける。
「腰痛の相談がいちばん増えるのは、季節の変わり目。つまり、夏に溜めたツケが回ってくるのは、これから寒くなる季節です。夏に蓄積されたものが、秋から冬にかけて顕在化するケースは本当に多い」
夏の動きすぎが原因なら、心当たりはあるだろう。しかし、内臓由来の腰痛はどう見分ければいいのか。
「まず、朝起きぬけに違和感があるとき。寝方や寝具に問題はないと仮定すると、睡眠中は筋肉や関節が弛緩しているのでこわばらないはず。とくに肝臓や腎臓の不調では、腰や背中の重だるさとして現れることがあります。次に、食後あるいは飲食をした翌日に腰の痛みがひどくなるという方。
あとは、マッサージを受けても解決しないケース。一時的に楽になるけど、またすぐ痛くなる。なんだか奥のほうが痛い。左右どちらか一方だけに痛みが出るのも目安です。関連痛といって、胃なら背中や左肩、肝臓なら右肩、腎臓なら腰の少し上に響きやすい」
夏の腰痛を治すセルフケア
では、内臓由来の痛みにどう対処すればいいのか。ポイントは、腰そのものに直接アプローチしないということだ。
「ひとつめは、『お腹のスキンロール』です。スキンロールとは、皮膚とその下の浅い筋膜をつまみ上げ、指でたぐるように転がしながら癒着をはがすマッサージ技法のこと。内臓は腹膜という膜につながっていて、その上に腹横筋や大腰筋などお腹の筋肉が重なっています。ここが硬くなると腹膜も硬くなり、腰のあたりの膜まで引っ張って腰を緊張させる。だから、まずは表面の皮膚を緩めることが大事なんです。
やり方は簡単で、まず仰向けになり、膝を立てます。その状態でお腹の皮膚を指でつまみ、5秒ほど揺らすように動かしてください。つまむ強さは『痛気持ちいい』と感じる程度。つまむ場所を上下にずらしながらゆっくりと繰り返し、少しでも硬くなっているなと感じたら重点的に動かしてください」
ふたつめは、意外な場所だ。
「お尻の外側です。そこには大転子という大腿骨の出っ張った骨があり、その上側に中臀筋・小臀筋という筋肉がある。ここを緩めてあげてください。この部分も、腹膜と結構つながっているからです。
これもやり方は簡単で、仰向けに寝て、膝を曲げます。左のお尻を伸ばす場合は、左足の外くるぶしを右の膝に乗せる。そのまま右の太ももを自分の胸のほうへ引き寄せてください。すると左のお尻が伸びてくるはずです。それを、左右両方やりましょう。」
テニスボールなどが家庭にある場合は、床にボールを置き、お尻の真横の中央あたりに当たるように横向きに寝て、グリグリと動かすのも効果的だという。
シャワーで済ませる入浴が、一番おすすめできない
では逆に、私たちが日ごろやってしまいがちだがNGな行動はなにか。
「いちばんおすすめできないのは、シャワーだけで済ませる入浴です。シャワーだけだと、交感神経と副交感神経のどちらに傾くべきなのか、身体がスイッチを切り替えにくい状態が続く。暑い時期ではありますが、38度から40度くらいの適温の湯船に3分程度でも構わないのでしっかり浸かり、自律神経を整えてあげましょう」
また、強く揉んだり、市販の痛み止めでしのぐのも逆効果だという。
「一時的によくなるかもしれませんが、適切な知識がなく場当たり的な対処をしていると、炎症の癖がついてしまう場合もあります。そのまま冬になって筋肉が急に硬くなると、ぎっくり腰や腰痛の慢性化につながりかねません」
ただし、腰痛の原因が内臓の「疲れ」ではなく、病気の予兆であることもある。両者はどう見分ければいいのか。
「まず目安になるのが、マッサージで一時的にでも楽になるかどうかです。その場だけでも軽くなるなら内臓の疲れ。一時的にすら和らがない場合は、内科系の病気であることが多い。そのうえで、はっきりとした危険信号もあります。
急にしびれが強くなる、発熱を伴う、血尿が出る。たとえば尿や便が自分の意思と関係なく出てしまう膀胱直腸障害も、そのひとつです。24時間痛みが引かず、眠れないほどの痛みが生じます。こうした症状は『レッドフラッグ』と呼ばれ、徒手療法を行ってはいけないケース。自分で何とかしようとせず、すぐに病院へ行ってください」
夏の腰痛は、夏のうちに治そう。おかしいなと思った時点で、痛みのプロに相談したい。
【プロフィール】
松田圭太氏 理学療法士。整痛院ふっか総院長。慢性期病院での勤務を経て、29才で腰痛専門の整体院を開業。のべ5万人を施術し、YouTubeチャンネル「整痛院ふっか/痛みしびれ専門」は登録者数23万人超。著書に『腰痛は医者には治せない』(小学館)
文/桜井カズキ
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