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なぜ、JR東日本は千葉のラグビーチームを引き継いだのか?新生「グリーンウォリアーズ東葛」が目指すもの

2026.09.27

2026年7月、40年以上の歴史を持つラグビーチーム「NECグリーンロケッツ東葛」がJR東日本に引き継がれ、「JR東日本グリーンウォリアーズ東葛」として新たなスタートを切った。

首都圏から東北まで広大な鉄道ネットワークを持つJR東日本が、なぜ千葉県の「東葛」という地域に根づいてきたラグビーチームを引き継いだのか。

その理由と、新しいチームが目指す姿について、JR東日本グリーンウォリアーズ東葛代表の池田克弘氏に話を聞いた。

なぜJR東日本はラグビーチームを引き継ごうと考えたのか

なぜJR東日本は、東葛のラグビーチームを引き継いだのか。

その背景を理解するうえで、キーワードとなるのが、JR東日本が2025年に策定したグループ経営ビジョン「勇翔2034」だ。

人口減少が進むなか、鉄道会社にとって、人を運ぶだけでは地域の活力を維持することが難しくなっている。そこでJR東日本が考えているのが、「そこへ行ってみたい」と思える理由そのものをつくること。「勇翔2034」では、これを「移動の目的(地)づくり」として進めている。

「NECグリーンロケッツ東葛(以下、グリロケ)は、40年の歴史があり、日本一にも4回輝いた伝統のあるチームです。そして、東葛エリアの8市と地域連携協定を結び、ラグビーを通じて地域に貢献するというモデルを持っていました」

東葛エリアの8市とは、柏市、松戸市、我孫子市、流山市、野田市、鎌ケ谷市、白井市、印西市の8市。

この地域をホストエリアとして関係を築いてきたグリロケと、地域とともに新たな価値を生み出そうとするJR東日本。両者の目指す方向が重なったことが、チームを引き継ぐ大きな理由になったという。

千葉県、東葛エリアの8市、JR東日本による地域振興等に関する協定の調印式。

ホームスタジアムの最寄り駅は「つくばエクスプレス」

ただし、ここには興味深い点がある。

チームがホームスタジアムとしている柏の葉公園総合競技場の最寄り駅は、つくばエクスプレスの柏の葉キャンパス駅だ。駅前には三井不動産が運営する商業施設があり、スタジアム周辺にJR東日本の施設はない。

だからこそ池田氏は、JR東日本だけで何かをしようとは考えていないという。

「つくばエクスプレスさんや三井不動産さん、地元のみなさんとも一緒に、この地域を盛り上げていかなければいけません。それをつないでいくのも自分の仕事だと思っています。私は、つなぎ役なんです」

自社の鉄道へ人を呼び込むだけではなく、鉄道会社や企業の垣根を越えて地域全体を盛り上げていく。その中心にラグビーチームがあるというのも、JR東日本が目指す「移動の目的(地)づくり」のひとつの形なのかもしれない。

元渋谷駅長、57歳でラグビーチームの代表に

JR東日本グリーンウォリアーズ東葛 クラブ代表の池田克弘氏

今回、インタビューに答えた代表の池田克弘氏は、1993年にJR東日本へ入社。長く鉄道の仕事に携わり、渋谷駅長も務めた、いわば鉄道一筋の人だ。

現在57歳。池田氏自身は、そろそろ会社員人生も終盤に入り、次のキャリアを考える時期だと思っていたという。

「さまざまな経験もしましたし、年齢的にも、そろそろグループ会社などで次のキャリアを歩むのかなと思っていました。ですから、この話を聞いたときは驚きました」

そんな池田氏に託されたのが、JR東日本として初めて運営するプロラグビーチームだった。

しかも、池田氏にはラグビーの競技経験がない。それどころか、当時はルールも知らなかったという。

会社員人生も終盤に差しかかったところで、突然、経験のないラグビーチームの運営に携わることになった池田氏。その経歴を聞いていると、ラグビー未経験の会社員がチーム再建に奔走するドラマ『ノーサイド・ゲーム』を、どこか思い起こさせる。

「これからどうなる?」ファンが抱える期待と不安

チームの譲渡が発表されたとき、グリロケのファンである「クルー」たちも、まずはほっとした。日本のラグビー界ではこれまで、親会社の業績や方針転換などによって、歴史あるチームが活動を終えるケースもあった。

40年続いてきたチームを引き継いでくれる会社が見つかった。そして、それがJR東日本なら、経営状況によって再びチームが手放されるような心配も少ないのではないか。そう感じたクルーも多いはずだ。

ところが、新チームの始動が近づくにつれ、今度は別の気持ちが芽生えてきた。

東葛地域には「GREEN ROCKETS」のロゴ入り自販機があちこちに設置されている。

JR東日本グリーンウォリアーズ東葛(以下、グリウォリ)になったら、チームはどう変わるのだろう。

東葛地域で話を聞いてみると、地元の人からも似たような不安が聞かれた。これまでは地域のイベントなどに選手が顔を出し、身近な存在として親しまれてきたが、グリウォリになっても、これまでのように気軽に選手に来てもらえるのだろうか。

何か具体的な不満があるわけではない。ただ、これまで大切にしてきたチームと地域との距離が変わってしまうのではないか。新しいチームの姿がまだ見えないからこその、漠然とした不安だった。

このファンや地域の思いを、池田氏はどう受け止めているのだろうか。

地域との関係はこれからも変わらない

池田氏は、今後のチームの運営方針について、「これまで築いてきた地域との関係は今後も大切にしていく」と話す。

「地域のお祭りやイベントなど、地域貢献につながる活動については、基本的には無償でお受けしていきたいと考えています。社員選手が中心になると思いますが、プロ選手にも可能な範囲で参加してもらいたいですね」

7月20日には、ホームスタジアムの柏の葉公園総合競技場で発足式を開催。ジャパンラグビーリーグワン理事長の玉塚元一氏、JR東日本社長の喜㔟陽一氏らも参加し、チームの引き継ぎセレモニーや地域連携協定の調印式のほか、ファンとの交流・体験イベント、縁日やアトラクションなども行なわれた。

発足式の開会を待つ地元ファン。緑は「JR東日本グリーンウォリアーズ」のチームカラー。
発足式の後、会場に集まったクルーはそれぞれ、推しの選手との交流をおこなった。

会場で印象的だったのが、喜㔟社長と記念撮影をしようと並ぶクルーの姿だ。その列は、選手との写真撮影を待つ列に負けないほどの長さだった。JR東日本がつくる新しいチームへの、クルーの期待の大きさとも見える光景だった。

さらに8月8日には、グリロケ時代から続く「グリウォリ祭2026」をNEC我孫子事業場グラウンドで開催。地域のファンや住民も参加できる夏祭りで、運動会企画やステージイベント、選手によるパフォーマンスなどを楽しみ、最後は選手と一緒に地元の花火大会を観賞した。数時間の交流イベントではなく、昼から夜まで選手と一緒に夏祭りを楽しめるのも、このチームならではだ。

7月に開催された発足式の様子。選手とクルーがゲームなどを通して交流。

「心が動く関係」をつくる

池田氏は、こうした機会をさらに増やし、選手とクルーとの距離を近づけていきたいという。

「試合ですから、もちろん勝ったり負けたりします。でも、選手が一生懸命頑張っている姿を見て、クルーの心が動くことがあると思うんです。そしてイベントなどで実際に選手と触れ合って、そこでまた思いを共有したり、共感したりする。そういうことを繰り返しながら、人と人との関係ができていく。人間関係の基本は、心が動くような関係をつくれるかどうかだと思っています」

ラグビーについてはまだ学ぶことが多い池田氏だが、人との関係をつくることについては、長い経験がある。鉄道の現場で地域と向き合ってきた経験が、「心が動く関係」という言葉にも表れているように感じた。

ラグビーを知り尽くした人たちがチームを支える

池田氏自身はラグビー未経験だ。しかし、新しいグリウォリをつくるのは、もちろん池田氏1人ではない。

GMを務めるのは、元日本代表でラグビーワールドカップにも出場し、日本代表GMも務めた太田治氏。昨シーズンまで選手としてチームを支えてきた「タッキー」こと瀧澤直氏も、GM補佐として新しいスタートを支える。さらに、2019年のラグビーワールドカップ日本大会で活躍した田中史朗氏も、チームメンター兼アカデミーディレクターとして名を連ねる。

池田氏も、自分の役割はGMやコーチ、選手を信頼し、支えることだと話す。

「駅長のときは、現場で働く社員を守るのが自分の役割だと思っていました。今も同じです。GMやコーチ、選手を信頼して任せる。結果が出ないときもあると思いますが、そういうときこそ、代表として彼らを支えていきたいと思っています」

ラグビーを知り尽くしたスタッフが選手を支え、その選手たちをクルーが応援する。池田氏は、その人たちをつなぎ、チーム全体を支える。それぞれの役割が少しずつ見えてきた。

ファン列車も走る? 池田代表が描くこれから

池田氏は、これからのグリウォリとクルーとの関係について、さらに熱く語る。

「まず身近なところでは、社員選手が駅に立ち、利用客と直接触れ合う機会をつくることを予定して、準備を進めています。すでに社員選手は採寸をすませ、制服も準備しているんですよ」と笑う。

そして話は、鉄道会社ならではのアイデアへ。

「例えば、アウェーの試合に行くときに、ファン専用の応援列車を準備するなんていうのもありますね。最初はバスになるかもしれませんが、将来的には『グリウォリ列車でグリウォリの応援に行こう』なんてことができたらいいですね。こんな企画はJR東日本じゃないとできませんから」とすでに池田氏自身がワクワクしているようすだ。

「グリウォリだけではなくて、ラグビー全体の後押しもやっていけたらいいですね。ちょうど来年はラグビーワールドカップの年ですので、例えば、ラグビーのラッピング電車を山手線に走らせるなんて、どうでしょうか」

どこまで実現するかは、まだわからない。けれど、ラグビーの試合を観るだけでなく、スタジアムへ向かう時間から楽しめたら。ラグビー観戦が週末の大イベントになりそうだ。

「地元のチーム」がある街へ

東京のベッドタウンとして発展してきた東葛エリア。近年は柏の葉や流山などで新しい街づくりも進み、街の姿も変わり続けている。

そんな街に、「自分たちのチーム」と思える存在がある。それは、暮らしている街をもっと好きになるきっかけのひとつになるのかもしれない。

選手を駅で見かけ、地域のお祭りで言葉を交わし、週末にはスタジアムで声援を送る。勝てば一緒に喜び、負ければ悔しがる。そんな時間を重ねるうちに、チームは少しずつ「この街のチーム」になっていく。

まずは一度、ホームゲームが開催される日にスタジアムへ足を運んでみてはいかがだろうか。そこにはきっと、心が動く瞬間が待っている。

取材・文/内山郁恵

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