タイガー魔法瓶(以下、タイガー)を代表する製品といえば、炊飯器とステンレス製真空断熱ボトル。どちらにも共通しているのが「熱を制御する」技術だ。
なかでもタイガーのアイコン的存在といえるのが、内釜に本物の土鍋を使った『土鍋ご泡火炊き』シリーズである。
大阪府門真市にあるタイガー本社に隣接する工場では、この土鍋ご泡火炊きの最上位モデルをはじめ、国内外向けのさまざまな炊飯器を生産。
2026年に発売されたばかりの同シリーズ最新モデル『土鍋ご泡火炊き JRT-A100』もここで作られている。
『JRT-A100』といえば市場想定価格16万9400円と、国内でもトップクラスの高価格帯の製品だが、そんな炊飯器が作られる現場とはどんな場所なのだろうか?
人の手を活かすメイドインジャパンの生産現場
最新の高級家電というと、ロボットが次々と部品を組み上げる印象がある。しかし、大阪工場に入ってまず印象に残ったのは人の手で行なう工程の多さだ。
家電の生産現場は年々機械化が進んでおり、とくに海外の生産現場では体育館ほどの工場に人は数人ということも珍しくない。そんななか、タイガーの工場はセル生産方式でズラリと人が並んでいる。
本社工場マネージャーである山口 壮一氏は、あえて人の手を介す理由は2つあるという。
ひとつは単純に工場内で作るモデルが複数あるため。
需要や季節にあわせてその日に生産するモデルや目標数はつぎつぎと変わる。機械の場合は生産するモデルを変更するたびにセッティングや調整に時間がとられるが、人の手ならラインを切り替えるのも容易なのだ。
もうひとつの理由が人の手の優秀さ。
特に『JRT-A100』のような高機能モデルはその構造が複雑。
たとえば、炊飯器のフタ部分だけをみても、『JRT-A100』はポンプやチューブ、電装部品などを配置しており、そのぶん一般的な炊飯器より配線も多い。
すでに組み込んだ配線やパーツに干渉せず、すべてのパーツを決められた位置に通しながら組み立てるのは人間のほうが適しているというのだ。
また、人は機械では認識できないような違和感を拾い取ることができる点も重要だという。
パーツが微妙に歪んでいた場合、機械ならそのまま無理にパーツをさし込んでしまうところを、人なら「なにかおかしい」と気づけることも多い。
少しでも違和感を覚えた製品はとりあえずラインから弾かれ、その後しっかりチェックを行なうということができるのだ。
人の手で作る。でもミスは「仕組み」で防ぐ
一方で、多くの工程を人が担う以上、作業者の注意力だけに頼ることはできない。
そこで同工場では、人が得意な作業を任せつつ、部品の取り違えや作業ミスを防ぐためのさまざまな仕組みを取り入れている。
まず、作業者がいきなりひとりで組み立てを担当することはない。新しい工程を担当する際には、経験者とふたり1組になって作業手順を学ぶ。
一定数を組み立てた後も、手順や完成状態を経験者が確認し、問題なく作業できると判断されてから、ひとりで工程を担当する。
工具にもミスを防ぐ工夫がある。
炊飯器には金属や樹脂などさまざまな素材の部品が使われており、ネジを締め付ける力も場所によって異なる。そこで「工程ごとにドライバーのトルクを切り替える」のではなく、適切な締め付けの強さを設定した複数の電動ドライバーを使用することで、設定間違いを減らす工夫をしている。
さらに、ドライバーにはカウンターが付いており、規定の本数を締めたかがわかる。ネジの締め付け不足や締めすぎだけでなく、締め忘れも仕組みで防ぐのだ。
また、高機能炊飯器ともなれば部品点数も多い。
そこで、『JRT-A100』の生産ラインでは、炊飯器1台を組み立てるために必要な部品をひとつのセットにし、自動搬送機で作業者のもとへ届ける仕組みを導入。
これまで人が行なっていた部品の運搬を自動化できるだけでなく、部品の組み込み忘れや異なる機種の部品が混ざることも防げるのだ。
もちろん完成後の検査も徹底している。
ここでは、完成したすべての炊飯器を検査するが、検査項目には実際に水を入れて動かし、正常に温度が上がるか、圧力が正しくかかっているかを1台ずつ確認する項目まである。
一部の抜き取り検査ではなく、完成したすべての製品を実際に動かしてから出荷工程へ送っているのだ。
さらに、最後の梱包工程ではカメラによる画像認識を採用。化粧箱に印刷された品番やバーコード、貼り付けたラベルなどを読み取り、完成した製品と箱が一致しているかを照合することで、別機種や色違いの箱に入れてしまうミスを防ぐのだ。
組み立てから梱包まで、ミスを防ぐ仕組みが何重にも用意されているのがわかる。
最大の特徴はやはり「土鍋」
大阪本社工場では、人と機械が何重にも確認しながら、1台の炊飯器を完成させていた。
しかし、『JRT-A100』を特別な炊飯器にし、高価格になる最大の理由は、やはり内釜だ。
タイガーの『土鍋ご泡火炊き』で使用されるのは土鍋風のコーティング釜ではない。正真正銘、本物の土から焼き上げた土鍋なのだ。
ちなみに、この特徴的な内釜のみ、萬古焼の本場である三重県四日市市のセラミックメーカー「ミヤオカンパニーリミテド」で作られている。
土鍋は金属に比べて熱を伝えにくい一方、一度温まると熱を蓄え、温度が下がりにくい。『JRT-A100』では土鍋外側の温度が最高約300℃にも達する。
タイガーの一般的な金属製内釜では同じ部分の温度が約130℃だというから、その凄さがわかるだろう。
タイガーによると、この大火力によって米の甘みを引き出し、一粒一粒の弾力や粒感を残せるのだそうだ。
しかし、これほどのメリットがありながら、本物の土鍋を使った内釜が広く採用されていないのには理由がある。
陶器は焼成すると縮むうえ、個体によって縮むサイズも異なる。「家電にあわせてミリ単位で大きさを揃える」のは、もともと実現不可能といわれたくらい難しいのだ。
そこで、土鍋ご泡火炊きの内釜には、世界各地から選りすぐった10種類以上の土を専用にブレンド。季節や気温、湿度に応じて配合を調整し、焼成後の大きさが一定になるようにコントロールしている。
成形した土鍋は異なる温度で3回焼成し、工程ごとに割れや欠けなどがないかを確認。完成までには約3か月を要する。
ミヤオカンパニーリミテドでは、20年にわたって土鍋ご泡火炊きの内釜を作り続け、製造精度も当初より大きく向上した。
それでも天然素材を焼き上げる以上、製造途中の検査で基準を満たせないものは、金属製の内釜より格段に多いという。
20年の経験を重ねてもなお、本物の土鍋を安定して量産するのは簡単ではないのである。
『JRT-A100』で炊いた新米を試食!
土鍋ご泡火炊きは、どうしても本土鍋に注目が集まる。実際、一般的な炊飯器の形をしながら、本物の土鍋を内釜に採用しているのは世界でも同シリーズだけであり、その製造技術は簡単には真似できるものではない。
とはいえ、製品として完成させるには、その土鍋を使った最高の火加減が欠かせず、そのためには大阪工場で生産する複雑な電装部品も欠かせない。
土鍋生産の難しさが土と火の状態を見極めて作ることなら、複雑な工程が多い大阪工場は、作業者の技術向上と作業ミスを防ぐ仕組みに注力していることが見て取れた。
見学後には、『JRT-A100』で炊いた2026年産の滋賀県産コシヒカリの新米も試食。
「滋賀県産コシヒカリ」の銘柄設定と、新米に合わせた設定で炊いたごはんは、一粒一粒の輪郭がはっきりしており、口に入れるとしっかりとした弾力があった。
食感だけではなく噛むほどに米の甘みが広がり、米本来のポテンシャルを完璧に引き出しているように思える。
16万9400円は、炊飯器として簡単に手を出せる価格ではない。
ただし、その価格には炊飯性能だけでなく、本物の土鍋を安定した品質の家電として成立させるための手間も含まれている。工場を見学したことで、『JRT-A100』が高額である理由の一端が見えるように思えた。
取材・文・撮影/倉本 春
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