数々のインテリアデザインを手がけている高橋哲史さんの著書『お店の解剖図鑑』が12年ぶりに改訂。業種ごとの店作りの違いを紹介し、寸法まで細かく記した精度の高さは、専門学校の教材や美術関係者の資料として、長く愛されつづけている。今回のリニューアルにともない、細部まで紐解くことで見えてくるお店作りの面白さ、そして奥深さをうかがった。
イスの高さひとつにも、店のこだわりが詰まっている
──『お店の解剖図鑑』は初出が2014年でした。当時はどのような経緯で上梓することになったのでしょう?
高橋:この本を出していただいているエクスナレッジさんとは、まだ社名が「建築知識」だった頃からの付き合いになるんです。以前は、誌面に描くイラストの仕事などもさせてもらっていて、その流れで『解剖図鑑』の連載が始まりました。ただ、その雑誌が休刊することになってしまって。そんなとき、「せっかくなのでまとめたものを本にしませんか?」と声をかけていただいたんです。
──そのときの内容を網羅したのが、2014年版だったんですね。
高橋:いえ、実際に連載していたものは3分の1ぐらいしか使っていません。残りはすべて、書籍化にあたって書き下ろしたものになっています。
── 一見すると専門書のように感じますが、ページを捲るとユーモラスなイラストが多く、誰もが何の知識もなく楽しめる内容になっています。これは最初からコンセプトとして決めていたものなのでしょうか?
高橋:そうです。店舗の建築に携わっている人には当たり前の基礎知識でも、一般の方にとっては、カフェやライブハウスがどのような意味や意図を持って設計されているのかわからないと思うんです。たとえば、ラーメン屋さんに入って、「この店はカウンターに座ると、やけに足がぶつかるなぁ」と感じることってありますよね。それで、よくよく調べてみたら、以前は別の形態で飲食店を経営していた跡地を、居抜きでラーメン屋に改築した店だったりする。ひと言で飲食店といっても、その業態に合った設計があり、わずかなイスの高さの違いで違和感が生まれたりするんです。そうした裏側を知ることで、いろんなお店に行くのがより楽しくなるんじゃないかなという狙いもありました。
──拝読すると、たしかに「海鮮居酒屋」「大衆酒場」「ビアガーデン」など、居酒屋ひとつとっても、それぞれに異なる店の仕組みがあるんだなと、とても興味深かったです。
高橋:せんべろ系の大衆酒場は知らない隣の人とのコミュニケーションを楽しみにされている方もいますから、テーブルやイスの距離が近くても問題ないんですよね。むしろ、余裕を持った作りだと、一人呑みの人にとっては寂しさを感じてしまうかもしれない(笑)。テーブルの高さもお店の種類によって大きく違います。小料理屋だとお椀や器を手に持って食べることが多いので、多少テーブルが低くてもいいのですが、蕎麦屋や牛丼屋みたいに丼を置いて食べるお店では、逆に高くしないといけない。この本を作るにあたって、私も実際に牛丼屋さんにテーブルの高さを測りにいきましたから(笑)。我々デザイナーや施主は、そういった細かいところまで考えて作っているんですよね。
目的に応じて、お客さんが店の価値を使い分ける時代に
──底本が発売されてから12年が経ち、さまざまな業態の店が増えてきました。そのことで、お客さん側からのニーズにも変化は生まれているのでしょうか?
高橋:細かい変化は個々にあるでしょうけど、全体で言えるのは、お客さんがお店に対して求める価値観が変わってきたということかもしれません。こだわる部分はこだわるけれど、そうでないところは気にしなくなってきている。わかりやすく言うと、ブランド品で着飾ることも大好きだけど、普段はファストファッションで済ませてしまう。そうした使い分けが、飲食店に対しても起こっているように思います。
──その要因はなんでしょう?
高橋:ひとつにSNSが流行っていることで、話題性を求めてお店を利用する方が増えたんだと思います。言い換えると、お店が情報化しているんですね。その一方で、デートのときなどは最高の時間を過ごせるように、自分だけのとっておきの店をしっかりと調べる。その結果、お店側も、そのどちらに乗るかで、少しずつ分かれてきているように感じます。
──なるほど、では、今回の改訂にあたって、お店の在り方に変化を感じたことはありましたか?
高橋:先ほどおっしゃられたように、新しいタイプのお店が増えましたよね。この本にも書いた「子どもウェルカムなカフェ」や「フクロウカフェ」などは12年前にはありませんでしたから。でも、それ以外で大きな変化は感じませんでした。それはつまり、店作りのベースはもはや変わりようがなく、普遍的なものであるということを意味しているように思います。とはいえ、5年後、10年後はどうなっているかわかりませんけどね(笑)。
──といいますと?
高橋:この10年の間に、ファミリーレストランに配膳ロボットが登場し、料理のオーダーも多くの店でタブレット化してきています。店員が注文を取りに来なくなり、料理を運ぶこともなくなれば、当然働く人の数も減りますよね。すると、店内のテーブルの配置やお客さんの導線にも変化が生まれてくる。そう考えると、これからお店のデザインがどう変わっていくのか、想像がつかないです。でも、バブルの頃にはとにかく派手で奇抜な内装のお店があったように、時代とともにデザインは変わっていくもの。その移り変わりを体感できるのも、私にとっては楽しみのひとつですね。

著/高橋哲史 エクスナレッジ 1980円
何気なく通っている店にはどんな工夫がなされているのか。ユーモラスなイラストとともに、業態によって異なる店作りの裏側を徹底解剖した一冊。照明や装飾、資材選びなど内装の演出についても詳しく解説。
取材・文/倉田モトキ 撮影/江藤大作 編集/寺田剛治




DIME MAGAZINE




















