日本を代表するゲーム会社·任天堂が転換点を迎えています。
ゲーム産業は新規ユーザーが爆発的に増える段階から抜け出しつつあり、既存ユーザーが収益の源となっているのです。これは典型的な成熟期の兆候。
任天堂のゲーム機はライトユーザーの獲得を得意としてきました。潮目が変わりつつあります。一方、この流れに上手く乗れているのがソニーのPlayStationです。
ゲーム機の市場は頭打ち
足元のゲーム機の脅威は主に3つあると考えられます。1つ目は成熟期に入って新規ユーザーの獲得が難しくなっていること。2つ目は「ロブロックス」などのライトユーザー向けのサービスが拡大していること。3つ目は過去の一部大型タイトル·長期運営タイトルにプレイヤーが固定されていることです。
オランダの大手調査会社Newzooによると、ゲーム機の市場は2020年の474億ドルをピークに微減が続いており、2025年は453億ドル規模。2025年のゲーム機·PCのプレイ時間は1%減少しました。
コロナ禍では自宅にいる時間が増え、1人当たりの可処分時間が伸びました。ゲーム機はそれによって特需の恩恵を受けたものの、コロナの収束とともに市場も緩やかな縮小へと向かいました。
世界中のクリエイターが自分で作ったゲームを公開できるブロックスの脅威も見逃せません。2025年の年間総利用時間は1239億時間。年間の平均アクティブユーザー数は1億2700万人。1人当たり1日平均2.7時間を使っている計算です。
ロブロックスは特に子供に人気が高いことで有名なプラットフォーム。その理由は、誰でも簡単にゲームを作ることができ、仲間と一緒に遊ぶことができるためです。創造と交流という子供を喜ばせる要素が詰まっているのです。
一方、子供が勝手に課金をしてしまうという問題も表面化しています。裏を返すと、それほどまでに熱中している子供が多いということでもあります。
任天堂をテレビ局に例えるとするなら、ロブロックスはYouTubeやTikTokと言えるでしょう。
「あつ森」がいまだにプレイ時間のトップを占めるという現実
そして3つ目の大型タイトル·長期タイトルに時間を奪われているという問題もやっかいです。
調査会社クロスマーケティングは「ゲームに関する調査(2026年)コンシューマーゲーム編」で、女性に対して直近1年にプレイしたコンシューマーゲームのタイトルを尋ねています。全世代でトップだったのが「あつまれどうぶつの森」でした。
このゲームはコロナ禍の2020年3月20日にリリースした大ヒットタイトル。2025年12月末時点で累計販売本数は4932万本に達しました。驚くべきことは、発売から6年が経過したゲームが、いまだにトップに立っているという事実です。
プロジェクトに関わった人たちは開発冥利に尽きるといったところですが、ビジネスの観点では見え方が違っています。新たなタイトルが売れづらくなるからです。
2026年は、任天堂が9年の歳月をかけて開発した「トモダチコレクション わくわく生活」や、コーエーテクモゲームスの精鋭オメガフォースとゲームフリークが共同開発して任天堂が発売した「ぽこ あ ポケモン」をリリースしています。
どちらもヒット作となったものの、クロスマーケティングの調査によるプレイ時間は「あつまれどうぶつの森」を上回ることができていません。
この傾向は世界的なもので、「マインクラフト」や「フォートナイト」、「コール オブ デューティ」などの鉄板タイトルがプレイ時間の多くを占めています。
任天堂は2026年7月に「スプラトゥーン レイダース」を発売しましたが、ファミ通の発表によると初週の販売本数は47万本。本作はナンバリングタイトルではありませんが、「スプラトゥーン3」が1100万本を超える大ヒット作となったことを考えると、やや物足りない印象があります。
約10年ぶりの新作リメイク「スターフォックス」の売れ行きも今一つでした。
新作をヒットさせる難易度が上がっているのです。
ヒットIPに押し上げようと挑戦する姿が見える「カービィ」
しかし、任天堂は既存IPへの依存度を下げ、新たなIPの創出や過去IPの復活に力を入れています。
過去の株主総会でも「おなじみのキャラクターを活用したゲームを好まれるお客様向けの開発をするだけでなく、新しいものを期待されているお客様に、新たなご提案もしていきたい」「新しい商品はもちろん、古い商品も引き続き大切にしていきたい」などと言う発言が経営陣から出ています。これは10年先、20年先の成長を見据えたものだと見ることができるでしょう。
しかし、市場とのギャップが生じ始めています。それが如実に表れたのが9月9日の新作発表。「星のカービィ ワールドビヨンド」を完全新作としてリリースする計画を明らかにしました。
しかし、翌10日の任天堂株は4.9%下落しています。これは「大乱闘スマッシュブラザーズ」やマリオシリーズのような、1000万本級の大型タイトルに欠けていたためと見られています。株主は足元の業績に直結するタイトルを求めているのです。
「星のカービィ ワールドビヨンド」は3Dフィールドを自由に歩き回るゲームで、カービィというIPをゼルダのような3Dアドベンチャーに育てられないか、という実験作であるようにも見えます。
任天堂のチャレンジ精神を見出すことができますが、市場はそれを好意的に見ていません。
任天堂は映画やテーマパークなどで、IPの影響力を拡大することに力を入れています。「カービィ」や「ドンキーコング」、「スターフォックス」のようなIPの育成に力を入れているということを、投資家などに丁寧に説明することが求められるでしょう。
なぜPlayStationの稼ぐ力は落ちないのか
一方、今の市場にフィットしたのがPlayStationでしょう。ゲーム機や自社ソフトを何本売るか、というビジネスモデルへの依存度が下がっているからです。
ソニー·ゲーム事業は、既存のソフトウェアに後からコンテンツを追加するアドオンコンテンツが売上の多くを占めるようになっています。
PlayStationはコアなゲームファン向けのプラットフォームとして設計されており、高い性能を保持しています。それが新たなゲーム体験を生み、多くのゲームスタジオが開発に力を入れてきました。
その過程でヒット作が生まれ、アドオンコンテンツでタイトルの寿命が長期化しているのです。
ソニーも新たなタイトルの開発に力を入れていますが、仮に自社タイトルがヒットしなくても、他のタイトルの長寿化によって業績が安定する状態が作れているのです。
文/不破聡
© Nintendo / HAL Laboratory, Inc.
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