バブル崩壊後の景気低迷や就職氷河期──。ため息ばかりだった日本へ、1997年、ひとりの刑事が希望と興奮をもたらした。出世より現場。慣例より行動。根回しより正義感。当時、多くの共感を集めた青島俊作の姿は、今見ても驚くほど新しい。そして2026年、あの青島が帰ってくる!創刊40周年、彼と同じ時代を生きてきたDIMEでは、世代を超えて愛される『踊る大捜査線』シリーズの軌跡を総力取材。令和のビジネスパーソンに再び熱をもたらすヒーローの姿とは? 踊る旋風を見逃すな!
今回探るのは、衣装の秘密だ。主人公・青島俊作の代名詞、モッズコート。実は作品を重ねるごとに世代交代していたのはご存じだろうか。『踊る大捜査線 THE MUSEUM』で展示された歴代コートを中心に、衣装担当に舞台裏エピソードを聞いた。

解説するのは
松竹衣裳株式会社 岡田敦之さん
2003年公開の映画『青の炎』で初めて衣装を担当し、ドラマやCM、舞台と幅広く携わる。『踊る大捜査線 THE MOVIE 2』以降、シリーズの衣装統括を務める。
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青島は「変化」室井は「不変」
作品全体ではリアルを追求
青島俊作を象徴するアイテムといえば、スーツの上に纏うモッズコートだ。制作チームにとっても特に思い入れは強いと、松竹衣裳映像部の岡田敦之さんは語る。
「『THE MOVIE 2』以降、作品ごとに改良を重ねるほどにはこだわっています。その方向性は、織田裕二さんと制作チームの間で綿密に議論を重ねて決めています」
対照的に、柳葉敏郎演じる室井の衣装はほとんど変わっていないのだという。
「毎回制作しますが、柳葉さんを見ていると、なぜかデザインを変えてはいけないという気持ちにさせられるんです」
シリーズ全体を通じて求められてきたのは、フィクションらしさを削ぎ落とした衣装作りだ。
「『サラリーマンとしての刑事』を感じてほしいので、現実に寄せたデザインを心がけています。本広(克行)監督はエキストラの衣装にも細かく目を配る方で、例えば『N.E.W.』では登場する署の所轄ごとにジャンパーのデザインを変えているんです。麻布中央署は洗練された感じ、台東署は下町っぽく、といったようすです」
変わるもの、変わらないもの。その積み重ねが、作品のリアリティを支えている。新作を観る人も、過去作を見返す人も、登場人物の衣装にぜひ注目してほしい。
【初代】TVドラマ~『THE MOVIE』
映画第1作まで使われた初代コートは、実はミリタリーブランドHOUSTON製の既製品。展示された1着は、亀山プロデューサー宅で真空パックのまま偶然見つかったものを使用している。

【2代目】『THE MOVIE 2』
©2003 フジテレビジョン アイ・エヌ・ピー

2代目コートは初期型をベースにしたデザインに。撃たれたすみれを抱きしめた際についた血糊は、役者側からのアイデアで、あえて量を増やしたという。

撮影は物語の順番通りに進むわけではなく、血だらけのシーンの直後に綺麗な状態のシーンを撮ることも。その分、コートの制作数も多くなった。
〈岡田さんの制作裏話〉『THE MOVIE 2』以降のコートは全てオーダーメイド
2代目からは作品ごとにオーダーメイドで制作している。「初代の型をコピーして、色みも同じになるように作っています。織田さんの分に加え、予備なども用意するため、最低3着は毎回制作しています」

背中には『THE MOVIE』で刺された箇所を補修した跡が。型を作る際、補修箇所も指定していたそうだ。
【3代目】『THE MOVIE 3』
『THE MOVIE 3』のコートは、作中における青島の心情を示唆するキーアイテムとしての役目も果たしている。撮影前の衣装打ち合わせで織田さんと衣装担当が協議した結果、丈の長い仕様に。

【4代目】『THE FINAL』
作中でずいぶん長く着用されてきたため、本作のコートはエイジング加工が施され、使い込まれた風合いが表現されている。また、走るシーンが多かったため、動きやすいように丈はシリーズ最短の膝上ほどまで短くなった。

〈岡田さんの制作裏話〉撮影中も細かく改良。シリーズ通した制作数はなんと30着以上!
全シリーズを通したコートの制作数は30着以上になるそうだ。「裾のドローコードを短くしたり、それでも走ると気になって、丈自体を詰めたることになったり。そんな感じで撮影中も適宜、改良を重ねていました」
【5代目】『室井慎次 生き続ける者』
作中、ワンシーンのサプライズ出演をした際に着用。歩くシーンのみで短くする必要がなく、織田さんの「長くしたい」という要望もあり、シリーズで最も丈が長いコートとなった。

〈岡田さんの制作裏話〉「暑さ対策」も衣装作りの大事なポイント
青島の登場シーンは春を想定していたが、撮影は初夏にずれ込み季節外れの暑さに。「ボア付きで撮影を試みましたが、途中で裏地を付け替えました。役者がスムーズに演技できるよう調整するのも大切な仕事です」

撮影中の暑さを少しでも軽減するため、コートの見えない部分は裏地がメッシュ生地になっている。
【6代目】『踊る大捜査線 N.E.W.』
14年ぶりの新作にあたり、コートの色みをどうするかチーム内でも意見が分かれたそう。結果、使い込みを感じる褪せたカーキ色という織田さんの案が採用された。

初代モデルは現在も購入可能!
映画公開時のネット予約販売では想定を大きく上回る問い合わせが殺到し、年間数万枚の大ヒットを記録したそう。

HOUSTON『M-51 PARKA with LINER』2万1780円
取り外しが可能な裏地は胴体部分が起毛素材になっている。購入して、作品の思い出に浸ってみてはどうだろうか。
文/桑元康平=すいのこ 撮影/藤岡雅樹 編集/千葉康永
※紹介したコートは、2026年7〜8月に開催された『お台場ファンライジング』内での『踊る大捜査線 THE MUSEUM』にて展示されたものです。
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