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「月4杯」でお得に!アメリカの大手カフェチェーンPanera Breadがコーヒーのサブスクを実現できる仕組み

2026.09.20

全米に2000店舗以上を構える大手カフェチェーン「Panera Bread(パネラブレッド)」には、あまりに太っ腹なドリンクのサブスクがある。月14.99ドル(約2200円)を払うとコーヒーなど対象のドリンクを2時間ごとに月30杯まで注文できる「Sip Club」だ。

対象ドリンクの平均価格は3.84ドルなので、30杯飲めば115.20ドル相当。月4杯飲めば元が取れる計算だ。

家の近くに店があれば毎日1杯で楽に30杯に届くし、オフィス街の店なら平日の朝だけで月20杯強、そこにランチ休みの1杯を足せばあっという間に超えてしまう。

利用者としてはうれしい限りだが、果たしてこんな大盤振る舞いで商売は成り立つのだろうか? その秘密に迫った。

Sip Clubのアプリ画面。

赤字のコーヒーでも、店が儲かる理由

アメリカの大手カフェチェーンというと、スターバックスのようなラテやフラペチーノといった「特別感のあるドリンクを出す店」というイメージかもしれない。だがPanera Breadは店名に「Bread」とある通り、ベーグルや菓子パンはもちろん、サンドイッチ、さらには一皿で食事になるボリュームのサラダやスープまで並ぶ。ドリンクだけの利用もできるが、実際の雰囲気と利用形態は日本のファミリーレストランを小さくしたような店に近い。

Sip Clubではコーヒーだけでなく、アイスティーやソーダなどさまざまなドリンクが対象になっている。

つまりPanera Breadにとって、コーヒーは数ある商品の一つにすぎない。だとしたら、コーヒーで客を呼び込んで、来店のたびに他の商品も買ってもらっているのではないか――そう思って公表資料を確認すると、こんな数字が並んでいた。2021年末時点でサブスク会員は60万人を超え、非会員に比べて来店頻度は約8倍、年間の利用金額は最大11倍。ドリンクを受け取った際に食べ物も一緒に購入した割合は約3割で、会員の43%はそれまでPanera Breadを利用していなかった新規客だったという。

サブスクで提供するコーヒーだけでは利益は出ないどころかマイナスかもしれないが、それでも店で食べ物も買ってもらうことで、利益につながるのだ。

Panera Breadではベーグルやパンなどのフードも豊富に並ぶ。Sip Clubのドリンクと一緒にフードを購入する会員もいる。

利用回数を客に強いた日本のサブスク?

じつは日本でもこのような「コーヒーサブスク」が「試験導入」された事例がある。セブンイレブンが2023年10月に、一部エリア·期間限定で導入した「セブンカフェサブスク」だ。月額2000円(税込)で30日間、1日1杯までレギュラーコーヒーが無料になるサービスだ。

当時のレギュラーコーヒーは税込110円。元々単価が低く、当然利益も多くないコーヒーでのサブスクは、Panera Bread同様「他の商品をついで買い·合わせ買いしてもらうことで利益を出す」という戦略だったことは想像に難くない。

だが、である。この価格設定だと元を取るには19杯以上飲む必要があった。しかも1日1杯までという制限があり、Panera Breadのように2時間ごとに何度でも買い足すことはできない。つまり月に19日以上、セブンイレブンに通うことを客に強いるシステムだった。

当時も2万店以上の店舗数を誇る天下のセブンイレブン。客に通勤途中や散歩がてらに月に19回立ち寄る人も多いという計算だったのか。はたまた来店数が少ない客を、月に19回以上立ち寄らせようとする狙いだったのか。

だが客の側にしてみたら「月に19日出かけて利用しなければならないサブスク」の利便性は高いとは言えない。少なくとも4杯でお得になる「Panera Bread」と比較するとその違いが際立つ。

このサービスが全国展開ではなく試験導入で終わったのも、「客に強いる来店回数」が多すぎたからかもしれない。

またはサブスクで提供し、お得感を出して「客寄せパンダ」にする商品を、「単価の低いレギュラーコーヒー」にするという戦略自体に無理があったとも言える。

セブンイレブンのコーヒーコーナー。2023年には一部エリアでサブスクを試験導入していた。

客の財布を動かす「クロスセル」と「返報性の原理」

さらに「Panera Bread」は客の「ついで買い」を促すシステムを導入している。マーケティング用語で「クロスセル」と呼び、「ある商品を購入した、またはしようとしている客に、別の商品の購入を促す」ことだ。ハンバーガーを購入した客への「ポテトはいかがですか?」「ドリンクはいかがですか?」がそれにあたる。

「Panera Bread」のコーヒーサブスクでの「ついで買い」を促す方法はスマホ画面での「ポップアップ」だ。たとえば……。

『今なら1ドルでベーグルが追加できます。いかがですか?』

『今なら2ドルでペイストリー商品が追加できます。いかがですか?』

アプリでドリンクを注文した直後にそんなポップアップが出てくるのだ。しかも「あと15秒、14秒、13秒……」というカウントダウン付き!

ちなみに「Panera Bread」の筆者が利用するWestheimer Road店ではベーグルの通常価格は2.59ドル。ペイストリーは商品によって価格が異なるが、たとえばシナモンロールは5.09ドル。 つまりいずれも約61パーセントお得である。

サブスクのコーヒーだけでもお得なのに、フードの割引まで! 「二重にサービスしてもらっている。客はそんな心理になるだろう。

そしてこんなふうに考える。「もう一品買ってあげようかな?」

心理学には「返報性の原理」という言葉がある。人は他者から親切や譲歩を受けると、「自分も何か返さなければ」と感じる傾向のことだ。Panera Breadはサブスクという時点で、すでに客にお得を与えている。そこへさらに、今だけ、の割引を重ねてくる。この“ダブルでお得”が、返報性の原理をうまく利用している。

もう一つ、実際に使ってみて気づいたことがある。サブスクは4杯飲めばもう元が取れる設計なので、それ以降は「タダでもらっている」ような感覚になってくる。正規の値段で買うときは、隣のベーグルやパンにはあまり目がいかない。ところが「このドリンクはタダみたいなもの」と思った途端、なぜかそのベーグルやパンの方に目が吸い寄せられてしまうのだ。実際には財布からお金は出ているのに、なぜか損をしていないような不思議な気分になる。

     アメリカでコーヒーのサブスクを用意しているカフェチェーンはPanera Breadだけではない。ニューヨーク発で全国に90店舗を展開する「Blank Street」は、Panera Breadと同じように2時間おきに飲み物を注文できるサブスクを2種類用意しており、料金の高い方のプランに入ると飲み物以外にもちょっとした割引が付いてくる。ただしこちらは契約した時点で条件が決まっているだけで、カウントダウン付きのポップアップで「今だけ」と急かしてくることはない。同じ「お得」でも、その場でつい財布を開かせる仕掛けの強さは、Panera Breadが一枚上手という印象だった。

店側の「大盤振る舞い」に見えた「月4杯でお得になるドリンクサブスク」。そこには「ついで買い」「合わせ買い」という狙いだけでなく、「返報性の原理」などさらなるトリックが隠されていた。

さて原稿を書き終えたのでコーヒーを買いに行こうかな? あっ、ベーグルかベイストリーもついでに。

文/横山敦子
世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」(https://www.kaigaikakibito.com/)会員。アメリカ在住

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