犬猫と暮らしたいアクティブ・シニアの前に立ちはだかる“壁”
犬や猫と楽しく暮らしたい、と思っていても「仕事が忙しく留守にすることが多いので、十分な世話ができない」とあきらめている人は多い。ではシニアになってリタイアし、ずっと家にいられるようになったら晴れてペットを家に向かえることができるかというと、こんどは「終生飼育ができないかもしれない」という不安から、あきらめる…。こんなケースは多いのでは。
実際、保護施設から犬や猫を引き取る場合の年齢制限は、「60歳~65歳未満」を上限の目安としている施設が一般的だ。これは10~15年以上という動物の平均寿命を考慮し、最期まで責任を持って飼育できる年齢に設定されているため。
とはいえ、日本は世界でも有数の長寿国。総務省の推計によると、2025年(令和7年)時点における日本の65歳以上の高齢者人口の割合(高齢化率)は29.4%と3割近くにのぼっている。厚生労働省の調査(2022年時点)では日本人の健康寿命(日常生活に制限のない元気な期間)は、男性が72.57歳、女性が75.45歳であり、70代前半までは元気でアクティブな生活を送っている人が圧倒的に多い。にもかかわらず、「犬や猫と暮らす」という夢をあきらめざるを得ない人が多いのが現実だ。
保護施設で増え続ける、シニア犬猫
一方、保護施設で増加しているのが、引き取り手のいないシニア犬猫。譲渡会などでは子犬や子猫、若い犬猫に人気が集まるから、というだけではない。最近は、犬猫と暮らしていたシニアが入院したり施設に入ったり死亡したりして、シニアになってから飼い主を失って保護施設に引き取られる犬猫が増えている。
そういえば、筆者宅でお願いしているペットシッターさんも、「最近は一人暮らしのお年寄りのお世話をしているケアマネージャーさんからのSOSで、本人がお世話できなくなった動物を捕獲し、保護施設に連れて行く手伝いをすることが多い」という話を聞いた。(数多くのレスキューを経験があるそのベテランペットシッターさんによると、家の奥に逃げ込んで姿を見せない猫をおびきだすには、捕獲器に鶏のから揚げを入れておくのが一番有効だそうだ)。
犬や猫と暮らしたいのに暮らせないシニアと、家族として暮らしたいのにできないシニア犬猫、どちらも幸せに暮らせる方法はないものか…。そう考えていた時に、新潟市中央区にある「新潟市動物愛護センター」で、10歳以上のシニア猫を、75歳以下の高齢者に譲渡する「シニア for シニア」という制度を始めたというニュースを見た。新潟日報の報道によると、条件は「譲渡希望者が申請時に75歳以下」「飼育が難しくなった際に代わりに世話ができる後見人がいる(後見人は学生を除く18歳以上70歳以下)」などだという。
新潟市の動物愛護センターでの取り組みがニュースに
他のエリアでもやっているところはないかと探してみると、日本初の動物専門オンライン寄付サイトを運営している「公益社団法人アニマル・ドネーション」という団体(以下「アニドネ」)が、「アニドネ シニア for シニア基金」を設立し、サイトで寄付を募っていることがわかった。
同団体では、基金をつくりこの譲渡形式を後押しすることで、シニア for シニアが日本のニューノーマルになることを目指す活動をしていて、超高齢社会の日本で、人も犬猫も、保護団体も幸せになれる仕組みが当たり前になるよう、社会に働きかけているという。
動物への寄付といえば、動物保護シェルターの管理者を養成する講座を取材した時に、海外の大規模な保護施設の資料映像を見せられ、それらの多くが支援者の遺贈でまかなわれていると聞いて驚いたことがある。その時、欧米にはそういう動物保護と寄付が結びついたカルチャーが深く根付いているのを実感し、もし自分が亡くなった後にいくばくかを残せるようなら、こういう施設に遺贈したいと強く思うようになった。
海外での「シニア for シニア」活動は
アニドネの公式サイトでは、シニア for シニアに早くから取り組んできた海外の例も紹介されている。
例えばイギリスでは、高齢者や終末期の飼い主が動物と暮らし続けられるよう、ボランティアが犬の散歩、買い物の手伝い、通院・入院時の短期預かりなどの生活面をサポートする仕組みがあるという。さらに、「自分が死んだら後はどうなるだろう」という高齢者特有の不安に対応する「Forever Foster」などの支援体制もあるそうだ。
またアメリカでは、31州53のシェルターと連携した「Pets for the Elderly」というプログラムがあり、参加している動物保護施設から高齢者が犬猫を迎える際、獣医による検査や避妊去勢手術などの費用を支援することで経済的なハードルを下げ、高齢者と保護動物のマッチングを後押ししているとのこと。
日本でも広がるシニア for シニアの取り組み
日本国内でもシニア for シニアの取り組みを始めていたり、取り組みを前向きに検討したりしている保護団体が増えており、アニドネのサイトには15団体が紹介されている。以下はその一例だ。
2019年から「シニアドッグ・サポーター制度」として、いち早く「シニア for シニア」に取り組んできた先駆的な存在が、アニドネ認定団体 特定非営利活動法人「DOGDUCA」(愛知・名古屋)。これまで100組以上の新しい家族を誕生させており、他の施設で断られ続けたシニアの譲渡希望者とも丁寧な面談を重ね、マッチングさせた例が多くあるという。
「譲られる」のではなく「預かる」から、シニアでも動物と暮らせる
自治体としての画期的な取り組みが、2012年に制定された北海道の保護猫の「永年預かり®制度」。通常、保護猫の譲渡は終生飼育が絶対の条件となっているが、猫の所有権を団体に残したまま、シニアに家族として迎えてもらうというシステムだ。所有権が保護団体にあるので、何かやむを得ない事情でお世話ができなくなった場合に引き取ってもらえるという安心感から、多くのシニアがもう一度、猫と暮らす選択をできるのだという。
この活動に取り組み、啓蒙活動も積極的に行っているのが、アニドネ認定団体 特定非営利活動法人「猫と人をつなぐ ツキネコ(以下、「ツキネコ」)」(北海道札幌市)。
動物保護活動に否定的なイメージを持つ人が一部にいるが、その中には、譲渡を希望しながら、厳しい条件を突きつけられてあきらめざるを得なかった人も一定数いるように感じる。
確かに最期まで責任をもって面倒を見る「終生飼育」が理想ではある。しかし日本人の寿命と健康年齢がこれだけ伸長した今では、安心して預け合える関係性の中で、人と動物がもう一度つながる新たなシステムが必要ではないだろうか。「シニア for シニア」という選択が、これからの社会の“あたりまえ”になっていくことを期待したい。
取材・文/桑原恵美子
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