『踊る大捜査線』シリーズでは、テレビドラマの放送時や映画の公開時に話題になったヒットアイテムやトピックスなどが描かれている。平成レトロ研究家・山下メロさんの話を交えつつ、それらについて振り返ってみたい。
解説するのは…平成レトロ研究家の山下メロさん

※本稿はDIME (ダイム) 2026年 11月号に掲載の「踊る大捜査線、大旋風!」より一部を抜粋・再編したものです
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単なる刑事ドラマではなく時代の資料としても楽しめる
テレビドラマの『踊る大捜査線』が始まったのは1997年。全11話を見返してみると、当時の空気を端的に映しているのが、通信機器の変化だ。例えば第2話の終盤では青島の〝ポケベル〟に湾岸署から「シヨニカエレ」(〝署に帰れ〟の意味)のメッセージが入る。
「1997年は、ポケベルの加入数がピークになった直後だと思います。ポケベルはもともと外回りの営業マンに連絡を取るための道具でした。それをコミュニケーション手段へと変化させたのが、当時の若者たち。電話でわざわざ伝えるほどのことでない『おはよう』や『好き』、ハートマークのような感情を短い文字列にし、電波に乗せるようになりました」
当時は女子高生の影響力が強く、ポケベルの〝ハートマーク事件〟が起きたのはそのためだ。
「NTTドコモでは自社のポケベルにおいて、漢字まで表示できるように進化する過程でハートマーク表示を非対応にすることがありました。その結果、依然としてハートマーク表示に対応する東京テレメッセージにユーザーが流出したと言われています。LINEでスタンプや絵文字を送る文化は、ポケベルから始まったのです」
プリクラやルーズソックスも、提供する側にとって想定外の使われ方を若者が生み出した好例だ。


「プリクラは本来、撮影を楽しむ機械だけど、女子高生たちは〝プリ帳〟を持ち歩き、友達同士で写真を交換する文化を作りました。ルーズソックスも、ただ履くだけでなく〝たるみ方〟を工夫し、自分たちのスタイルを生み出していったのです。企業もそのことに気づき、放課後の女子高生を集めて新商品の感想を聞くようになるなど、まさに女子高生がトレンドをリードしていた時代でした」
その後、通信機器の主役はポケベルからPHSや携帯電話へと変わる。テレビドラマの第5話で真下がノートPCの『ThinkPad』に携帯電話をつないでインターネットへ接続するシーンは、当時としては時代の先端をいく演出だった。
「携帯電話の所有者が多くなったのは1998~1999年頃。当時の携帯電話は、色、開き方、ボタン配置などに個性がありました。次々に発売される携帯電話に目移りして、若者のお金の主な使い道が携帯電話代へ移ったのが、その時代からだったと思います」

リストラや匿名掲示板といった時代を象徴するエピソードが続々
一方、社会全体はバブル崩壊後の不景気が強まり『踊る大捜査線』ではリストラされた社員が事件を起こすエピソードも出てくる。
「お財布に厳しい時代を物語るかのように、消費者金融の自動契約機が街に増え、印象に残るポップなCMが大量に流れました。2000年代前半になると不景気にさらに拍車がかかって〝家飲み〟の傾向も強まっていきます。2002年にバンダイから発売された『お酌パラダイス 釈お酌』は、缶ビールをセットすると人形が傾いてグラスにビールを注いでくれるというユニークな玩具。CMソングには『リストラ』をポップに想起させる『リス・トラ・イヌ・ネコ』というフレーズがありました。今なら炎上していたかもしれません。ただ当時はSNSがまだ存在せず、ネット上の拡散力は今と比べればほとんどなかったので、テレビや商品が社会問題を軽くいじることができた時代でしたね」
1998年公開の『踊る大捜査線 THE MOVIE』には、犯罪マニアが集い、仮想殺人をして遊ぶという物騒なホームページが描かれる。現実の世界では1999年に「2ちゃんねる」が登場し、掲示板をはじめとするネット上でコミュニケーションを図る傾向が、2000年代に向けて強まっていった。
「ポケベル、プリクラ、ルーズソックス、携帯電話、消費者金融のCM、掲示板文化など、いわゆる『This is 平成』と言いたくなるような事象って、実は平成の前半、特に1990~2000年代までに多く集まっています。その後はメディアが多様化し、個人の価値観も細分化され、国民的ブームが起きにくくなりました。2010年公開の『踊る大捜査線 THE M
OVIE 3』以降になると、当時を強く象徴するカルチャーは、あまり見て取れなくなっていく。つまり、1997年から続く『踊る大捜査線』シリーズを見返すことで、通信機器、若者文化、不景気、ネットのあり方が少しずつ変わっていく平成の空気を感じ取ることができるわけです。単なる刑事ドラマとしてだけでなく、時代の変化を保存した資料としても楽しめる作品だと思います」


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取材・文/田村菜津季 イラスト/天野綾乃(asterisk-agency) 編集/田尻健二郎
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