『踊る大捜査線』成功の影には、多くの革新的な取り組みがあった。それは音楽の面でも同様だ。発車メロディーに使われるほど、誰もが知る音になった〝踊るサウンド〟の秘密とは?


解説するのは…音楽&エンタメアナリストの田中久勝さん

雑誌『ORICON STYLE(オリ★スタ)』などの編集長を歴任し、現在は独立。フリーのエディター・ライターとして音楽・エンタメ業界を中心に、インタビュー記事やヒット分析記事など幅広く執筆している。
※本稿はDIME (ダイム) 2026年 11月号に掲載の「踊る大捜査線、大旋風!」より一部を抜粋・再編したものです
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革新1:〝『踊る』といったらこれ〟を体現するイントロ戦略
劇伴や主題歌といった音楽に対する評価の高さも『踊る大捜査線』(以下、本作)の特徴だ。作中で流れる劇伴には、様々な仕掛けが施されていると田中さんは解説する。
「例えば、印象的な楽曲には冒頭の0・5秒でグッと引き込んでくれるフレーズが必ず入っているんですよね」
その代表例が、本作のテーマ曲「Rhythm And Police」だ。
「無機質でクールなんだけど、何が起こるんだと思わせる緊張感がある。そこからの『ダンダンダンダダン』っていう力強いリズム。
聴いたらすぐ『あ、踊る大捜査線だ』って連想できますよね。これがイントロの力です」
音楽の役割はつかみだけではない。人物や場面ごとに、ふさわしい音が割り当てられている。
「室井慎次の登場シーンで流れる『G︲Groove』は青島俊作の敵役という関係性だけでなく、本庁と現場のはざまで揺れる心情や人間的な部分も表現しているように感じます。ほかの曲も人物像や感情を音で想像させてくれる構成なのです」
その土壌は、本作以前から築かれていた。プロデューサーの亀山千広さんが1996年に手掛けたヒット作『ロングバケーション』でも、サントラは103万枚を販売。劇伴のクオリティが高い支持を集めていた。
「単なる映像の添え物ではなく、互いを引き立て合うものとして扱う。この考え方はフジテレビの中で脈々と受け継がれてきたのではないでしょうか」
革新2:メロディやハーモニーからリズムへの転換
90年代前半までのドラマにおいて、劇伴には歌謡ロックやオーケストラが使われることがほとんどだった。
「メロディーやハーモニーが重視されていて、壮大で重厚な音楽が多く作られていました」
本作の音楽を手掛けた松本晃彦さんは、全く異なるアプローチでその慣習を打ち破った。
「打ち込み系のサウンドを軸に、リズムで聴かせる劇伴を作ったんです。当時の業界では斬新でした」
リズムへの転換は、音の視聴者への伝わり方を変えた。
「メロディーではなくリズムなので、音が耳だけでなく体全体に染み込んでいく。先述した『Rhythm And Police』の掴みも、キャラクターや場面ごとの音楽づくりも以前からある手法です。でもリズムベースだと体が覚えているから、音が鳴った瞬間にその楽曲が流れる場面が思い浮かぶんです」
結果として、サウンドトラックは累計100万枚超えのヒットに。なぜリズム重視の劇伴がこれほど受け入れられたのか。田中さんは、昭和から平成へと現代化が進み、生活のテンポが速まっていた時期だったこととの関連性を指摘する。
「電車に揺られるテンポ、信号が変わって早歩きになるテンポ。視聴者が日々刻んでいるリズムと、松本さんの劇伴のリズムは不思議と一致しているように感じます」
もし壮大なオーケストラが流れていたら、印象はまるで違っていたはずだ。
「どうしても美化された、非日常のような印象を持たせてしまう。松本さんのリズムは、より日常に寄り添っているんです」
そしてそれは、サラリーマン警察の日常を描く本作にこそふさわしいリズムといえるだろう。
あの名曲誕生のヒントは『スパイ大作戦』!本広克行監督が明かす「Rhythm And Police」誕生秘話

「普段走らない青島が駆け出す〝ここぞ〟で流すとすごく盛り上がるのが『Rhythm And Police』の良さ。僕はアニメ・和洋のドラマや映画を観るのが好きで、それを感覚的に覚えていて『スパイ大作戦』のように、と依頼しました」(本広監督)
革新3:29年経っても薄れない「安心感」
打ち込み主体でリズム重視の音楽は、今や多くの音楽で使われるようになった。
「それでも本作の音楽は色あせませんよね。聴き直すたびに、登場人物やシーンが思い浮かぶ。期待を裏切らない安心感があります」
それは、主題歌の使われ方にも表れている。
「クライマックスで『Love Some body』が流れ出してエンドロールへ──お決まりの流れなんだけど、物語の区切りという安堵につながる。こうしたいわば様式美は、本作の随所に散りばめられています」
ドラマ劇伴としてのノウハウと業界の型を破る挑戦が積み重なった本作の音楽には、ほかにはない親しみを感じると田中さんは語る。
「例えば久石譲さんが手掛けるジブリの音楽は、彼らしい荘厳さがある。それとは違う魅力で、自然と口ずさめる庶民的ななじみやすさを持つのが本作の音楽です」
音へのこだわりは最新作『N.E.W.』でも健在だ。
「音楽のない時間がほとんど無いんです。どのシーンでも劇伴が流れていて、各場面にピタリとはまっていた。しかも次の展開への橋渡し役も果たしていました。これだけ音を重要なパーツとして使うのは本作ならではだなと」
映像と音が重なって、物語は踊り出す。『N.E.W.』でもその瞬間を味わってほしい。
29年の時を経て、『踊る』サウンドふたたび!『踊る大捜査線 N.E.W. 』オリジナルサントラが発売!

最新作『N.E.W.』でも、テレビドラマから携わった松本晃彦さんが再び音楽を手掛けている。青島俊作の新たな物語にふさわしい楽曲たちを、じっくり聴いてほしい。CD盤は映画公開日と同日の2026年9月18日に発売され、アナログ盤も11月に発売予定。
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取材・文/桑元康平=すいのこ 編集/千葉康永




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