自律走行型の配達ロボットが、アメリカの街角で存在感を増している。首都ワシントンD.C.とその近郊では2026年夏、複数の事業者によるサービス展開が本格化。歩道を走るロボットの姿は日常になりつつある。

筆者がその「異様な物体」の存在に気付いたのは夏の初めだった
首都ワシントンD.C.近郊のバージニア州アーリントン郡で、家の近所を歩いていると、歩道を小さな白いロボットが走っている。愛嬌のあるネコ型などではない。黒いガラス調のセンサーの「目」と4つの車輪を持つ、近未来のソリッドな「移動式金庫」のような無骨なデザイン。車輪の付いた箱に、長い旗付きの棒を突き刺したような姿が歩道をスルスルと走っていく。

「何だ、このロボットは?」
調べてみると、それは2026年6月にこの地域で始まったばかりのフードデリバリー·ロボットだった。わずか数か月のうちに、その「4輪の無人配達員」は、街の風景にすっかり溶け込んでいた。
なぜ首都近郊の街なのか? ロボットが爆走できる理由
筆者が見かけたのは、アメリカで自動配送ロボットを展開するAvride(エーヴィーライド)社のロボットだ。テキサス州オースティンやダラス、フィラデルフィアなどに続き、2026年6月に5つ目の地域としてアーリントン郡での稼働を開始した。

走行エリアは、ワシントンD.C.のすぐ隣に位置する地下鉄ロズリン駅からボールストン駅にかけての沿線。この一帯が、実はロボットの走行環境として非常に理にかなっている。
まず、歩道が幅広く段差も少ないため、ロボットが走行しやすい。さらに地下鉄の駅を繋ぐ主要ルートであり、複雑な路地が入り組んでいるわけでもない。実際に歩いてみると、人間の目から見ても「ロボットにとって極めて分かりやすい、高密度でスマートな都市環境」だと納得させられる。
そして、アーリントン郡のこの地域は、マンハッタンのように大勢の人が急ぎ足で行き交うような場所でもない。車の往来も、大都市と比べればそれほど多くない。自律走行型の配達ロボットにとっては、障害が少ない環境でもある。
だが、筆者のそんな考えを、ロボットの「知能」は軽く超えていった。
Avride社によると、このロボットは360度センサー(LiDARやカメラ)と超音波センサー、強力なコンピューターシステムを搭載。段差をものともしない走行性能を持ち、暗闇でも人や物体を正確に検知して即座に停止できる。さらに、接近する車両の速度や方向を検知し、信号のある横断歩道も完全に自律して横断する。基本は車両に道を譲る設計だが、ドライバーが道を譲ろうとしている気配までリアルタイムに認識·判断してスムーズに交差点を進むという。つまり、段差が多かったり、複雑な路地や混雑している状況にも問題なく対応できるということだ。

Avride社は、この地域を「密度、つながり、ストリートレベルのエネルギー」を備えた最適な環境と評し、配達ロボットによって、地元のレストランや住民を支えることができると説明している。
米紙ワシントン·ポストは、アーリントンに住む2歳の女の子がこのロボットを気に入り、誕生日にカップケーキとタイ料理をロボットで届けてもらい大喜びしたエピソードを紹介している。「歩道を走る邪魔なもの」ではなく、「街の人気者」として受け入れられている一面もあるようだ。
チップは0ドル!無人配達をハラハラ見守る実体験
そんな街の人気者を、筆者も試してみることにした。
Uber Eatsアプリで近くの中華料理店を選ぶと、配達方法に「ロボット」の選択肢が現れた。注文画面で目を引いたのは、「ロボット配達はチップ不要」の文字。

物価高とチップ文化によるインフレに直面するアメリカ暮らしにおいて、堂々と「0ドル」を入力できる解放感は大きい。
注文後、スマホのアプリ画面は即座に「ロボットが商品をお預かりしています」に変わり、到着予定も5分早まった。

居ても立ってもいられず店に様子を見に行くと、料理を載せて走り出すロボットに遭遇。距離を保ち追跡したが、直線に入ると予想以上に速い。最高時速は約8km。軽いジョギングほどの速度で、大人が歩いて追いかけても追いつけない。
走って先回りして、家の前で待つことにした。まるで「はじめてのおつかい」を見守る親の気分だ。やがてロボットが到着……と思いきや、なぜか我が家の前を素通りしていく。

「おい、こっちだよ!」と心の中で叫んだ瞬間、ロボットは立ち止まり、何かを再計算するように左右にぐるっと向きを変え、やがて静止した。
同時にスマホに「外に出て受け取ってください」と通知が届く。ロボットの前に立ち、アプリの「ロック解除」をタップすると、カチャリとフタが開いた。温かい料理を取り出し完了を知らせると、ロボットは合成音声で「サンキュー」と言い残し、何事もなかったかのように去っていった。注文からわずか15分後のことだった。
翌日、味を占めて再度利用することにした。この日も、やはり家の前を少し通り過ぎてからピタリと停止した。また、現状では、筆者が暮らす地域ではピザ屋やドーナツ屋などが対応しておらず、ユーザー目線で見れば、配達ロボットを利用できるレストランの拡大が今後の普及の鍵になりそうだ。



全米のキャンパスへ急拡大!飲食店が人間よりロボットを歓迎する本音
Avride社の配達ロボットは、全米25以上の大学キャンパスにも進出しており、そのネットワークは急速に広がっている。スピードや距離では人間に敵わず、故障のリスクもあるが、レストラン側にはロボットならではの大きなメリットがある。
ワシントン·ポストによると、D.C.のある飲食店では、人間の配達員が、配達中に料理をつまみ食いしてしまったり、店が混雑して料理の完成が遅れ、待ちきれずに帰ってしまうことがあるという。「人間よりロボットと仕事をするほうが気軽で安心だ」と語るその飲食店の店長の本音は、配達の現場におけるリアルな課題を浮き彫りにしている。
もっとも、ロボット配達はアメリカ全体で見れば、まだごく一部だ。
人手不足という共通の課題を抱える日本でも、同じように普及するのだろうか。
すでに日本にも上陸!「無人配達員」の本当の価値
実は、Avride社の自律走行型の配達ロボットはすでに日本にも上陸している。2025年2月から楽天グループが東京都中央区晴海周辺で展開する「楽天無人配送」に採用され、現在は、対象エリアを拡大中だ。
実際に使ってみて分かったのは、この無骨な配達員は、「人間の配達員の代わり」というより、特定の都市環境におけるラストワンマイルの新しい選択肢になり得るということだ。
バージニア州アーリントン郡の街角では、彼らを見かけ、手を振ったり写真を撮る人もいる。不思議そうに眺める人もいれば、そのまま通り過ぎる人もいる。歩道を走る姿は日常になりつつある。


彼らは、日本でも深刻化するラストワンマイルの人手不足を解決する確かなヒントを与えてくれている。
文/ 阿部貴晃
在米ジャーナリスト。日系メディアのワシントン支局で20年以上、国際関係の報道に携わる。2025年4月からはワシントンD.C.を拠点にフリージャーナリストとして活動。米政治·社会·文化、日米関係に加え、ライフスタイルやトレンドなど幅広いテーマで執筆している。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ(https://www.kaigaikakibito.com/)」会員。




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