「眠れない、食べられない、疲れが抜けない。夏バテの三大症状に悩む人の体の中で悲鳴を上げているのは、実は『肝臓』であることが多いのです」
そう話すのは、『自律神経を整えて1日の疲労を根こそぎ落とす 絆創膏を貼るだけ快眠』(KADOKAWA)などの著書を持つ理学療法士の山内義弘氏だ。夏バテは気合いで乗り切るものではなく、体の仕組みから立て直すものだという。肝臓と夏バテの意外な関係、そして絆創膏1枚でできる撃退法を聞いた。
夏バテの三大症状、黒幕は「肝臓」だった
なぜ夏バテで肝臓なのか。山内氏はこう解説する。
「肝臓は食べたものからエネルギーを作って蓄える、いわば体の発電所です。暑さで体力を消耗する夏は、この発電所がフル稼働を強いられて疲弊します。すると、夜までエネルギーが足りなくなる。睡眠中にエネルギー切れを起こすと体は覚醒して補おうとするため、夜中に目が覚めてしまうわけです」
肝臓は糖をグリコーゲンという形で蓄え、食事をしていない間はそれを血液中に放出して血糖値を保っている。夜間にこの供給が尽きて血糖値が下がると、体は血糖を上げるホルモンを分泌して立て直そうとする。このとき体は活動モードに傾くため、眠りが浅くなったり目が覚めたりするというわけだ。
食欲不振も、肝臓のSOSだという。
「脂肪の消化に必要な『胆汁』は肝臓で作られます。肝臓が弱ると胆汁が十分に作れず、脂っこいものを体が受け付けなくなる。『揚げ物を見るだけで胃がもたれる』という夏の食欲不振は、その典型です。さらに肝機能の低下は代謝の停滞に直結し、抜けない疲労感となって現れます」
不眠、食欲不振、疲れ。バラバラに見える三大症状は、肝臓という一つの根っこでつながっているわけだ。
絆創膏1枚が夏バテの「悪循環」を断ち切る
では、なぜ絆創膏なのか。鍵は、肝臓など内臓の働きを支配する「自律神経」と「姿勢」にある。自律神経は体を活動させる交感神経と休ませる副交感神経からなり、自力では動かせない。ところが呼吸だけは例外で、姿勢が呼吸を変え、呼吸が自律神経を変える。
「夏バテでだるくなると、人はうつむきます。うつむく姿勢が続くと背中が丸まって胸が閉じ、呼吸が浅くなる。浅い呼吸は自律神経を乱し、内臓の働きをさらに落とします。だるいから下を向き、下を向くから内臓が弱るという悪循環です」
この悪循環を断ち切るスイッチが、絆創膏だ。
「皮膚の下には『関節包』や『筋紡錘』という精密なセンサーがあります。関節の角度や筋肉の伸び具合を感知して脳に伝える器官で、絆創膏で皮膚をわずかに引っ張るだけで、脳に届く情報が変わり、筋肉や関節の動きが再起動します」
貼るのは、胸の中心にある胸骨だ。胸骨は、首から下りてくる筋肉が付着する土台にあたる。ここが固まると、首の動きまで巻き添えで制限される。
「鎖骨の間のへこみの少し下に絆創膏の端を貼り、頭側に向かってキュッと引き上げるように貼ってください」
絆創膏は100円ショップで売っている標準サイズで十分。薬剤の効果を狙うのではなく、皮膚を引っ張る力そのものが目的だからだ。貼る前に「自分がどこまで上を向けるか」を確かめておくと、貼った後の変化が実感しやすい。
「これだけで首がスムーズに上へ動くようになります。動きの制限が外れて上を向ければ、自然と前を向けて、気持ちも勝手に上がってくる。呼吸もめちゃくちゃしやすくなりますよ」
そして深い呼吸こそが、肝臓への近道だと山内氏は続ける。
「深い呼吸は自律神経を安定させるだけでなく、横隔膜を大きく動かします。肝臓は横隔膜の真下にある臓器なので、呼吸のたびに揉まれて血流が促される。絆創膏1枚が、肝臓ケアの入り口になるのです」
横隔膜とは肺の下にあるドーム状の筋肉で、呼吸のたびに上下してポンプの役割を果たす部位。浅い呼吸ではほとんど動かず、その真下にある肝臓も揺すられない。姿勢を整えることが肝臓に効くという一見遠回りな話は、ここでつながる。
寝苦しい夜は「手のひら」を冷やせ
夏バテ回復には睡眠が欠かせないが、熱帯夜はそれを許してくれない。山内氏が勧めるのが「手のひら冷却」だ。
「人は深部体温、つまり体の内部の温度が下がり始めたときに眠気を感じます。夏は体に熱がこもったままだから寝つけない。エアコンは部屋の空気を冷やすだけで、それ自体が入眠のスイッチにはならず、額の冷却シートも放熱効果は薄い。一方、手のひらには『AVA(動静脈吻合)』という体温調節専用の血管があり、暑いときには大量の血液が流れ込みます。ここを冷やすのが、深部体温を下げる最短ルートなのです」
やり方は、冷蔵庫で冷やしたペットボトル2本にタオルを一巻きし、両手で軽く握って寝るだけ。手のひら冷却の快眠効果は、スタンフォード大学の研究でも裏付けられているという。
「体を冷やすなら脇や鼠径部と思いがちですが、そこを冷やすと冷たい血液が一気に全身へ回り、脳がびっくりして逆に目が覚めてしまう。ほどよく深部体温を下げられるのが手のひらなのです。冷たすぎるのも逆効果なので、体感15度くらいがベスト。寝る90分前に入浴して深部体温を一度上げておくと、下がる勢いがついてさらに寝つきやすくなります」
「生あくび」と「尿の色」は危険サイン
最後に山内氏は、夏バテの先にある熱中症への警戒も促す。「寝るときはクーラーをつけたくない」と我慢した結果、睡眠中に熱中症になるケースが多い。入眠のスイッチにはならなくとも、夜の冷房は命を守るための大前提だ。
そのうえで覚えておきたいのが、危険サインである。眠くないのに出る「生あくび」は脳の酸素不足の表れ。手足のピリピリしたしびれは脱水のサイン。そして尿が濃い紅茶色になったら、筋肉が壊れて成分が血液中に溶け出している恐れがある。腎臓に負担がかかる状態で、すぐに受診すべきレベルだという。
「予防には、朝起きてすぐコップ1杯の水と梅干し1粒を。原材料が『梅・塩・しそ』だけの梅干しなら、寝ている間に失われた水分と塩分を一度に補えます」
絆創膏1枚、ペットボトル2本、梅干し1粒。どれも今日から始められるものばかりだ。まずは今夜の眠りから取り戻してみてはいかがだろうか。
山内義弘(やまうち・よしひろ)
理学療法士。延べ1万人以上を施術。独自の「絆創膏セルフケア」をSNSで発信し、YouTubeチャンネル「腰痛・肩こり駆け込み寺【山内義弘】」のチャンネル登録者数は156万人。近著に『自律神経を整えて1日の疲労を根こそぎ落とす 絆創膏を貼るだけ快眠』(KADOKAWA)
文/桜井カズキ
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