時間に余裕があると遅刻しやすい!?
先のコロナ禍で“リモート”が一気に社会に浸透したが、それでもリアルな対面の人的交流が失われたわけではない。コロナ禍後も一定の割合で“リモート”を続けていた一部の企業で、原則出社に戻したという話も聞くようになった。
そしてコロナ禍を経たからこそ、我々にとって“遅刻”はますます厄介な問題になってきたのかもしれない。一度“リモート”の味を占めてしまった身にとって、リアルに移動することが以前よりも億劫に感じられてきても無理はないのだろう。
もちろん誰しも遅刻をしようとしてしているわけではないのだろうが、往々にして出立前に時間に余裕がある時に限って到着時間がギリギリになってしまったり、残念ながら遅刻してしまったりするのは多くが経験しているのではないだろうか。
タイトなスケジュールで動いていると自ずからアポの時刻にもセンシティブになるが、時間に余裕があるとつい余計なことをしてしまうことで、皮肉にも行動が遅れてしまうのかもしれない。新たな研究では予期せず得られた時間がなぜ早く過ぎ去ってしまうのかを説明している。
予期せず得られた時間は長く感じる
カナダ・トロント大学スカーバラ校、米ラトガ―ス大学をはじめとする研究チームが今年4月に「Journal of the Association for Consumer Research」で発表した研究では、予期せず時間を得た場合、その時間は主観的に通常の時間よりも長く感じられることを報告している。
研究チームは、実際に得た自由時間と仮想的に得た自由時間の両方を対象とした7つの研究を通して、この主観的な時間の拡張が我々の行動を変えることを突き止めた。つまり予期せず得た時間の中で我々はより時間のかかる活動を選択することが多いのだ。
たとえば出かける直前に待ち合わせの相手から30分遅らせてくれるよう連絡があった場合、その30分は主観的に長く感じられるため、30分以上かかることに手を着けてしまいがちになり、その結果家を出るのが遅れ遅刻しやすくなるのである。
ある実験では課題終了後に予期せず10分間の自由時間を得た学生は帰り支度の荷物をまとめるのに時間がかかり、研究チームが廊下に置いておいた他愛ない小物やお菓子の箱を物色する傾向が強く、建物を出るのに約14%長くかかったことが報告されている。
「時間が増えることは、良い面も悪い面もあると思います。常に時間に追われていると感じている人にとって、30分増えるのは素晴らしいことです。少しペースを落とすことは、心身の健康にも良いかもしれません。しかし時間に余裕ができたという感覚をあまりにも長く引き延ばしてしまうと、またすぐに時間不足に陥ってしまう可能性があります」と研究チームのサム・マリオ氏はトロント大学のプレスリリースで言及している。
“無い”から“有る”への心理的影響
予期せず得られた自由時間は、当初の「使える時間がゼロ」という基準値との大きな違いにより、事前に計画された同量の自由時間よりも認知的に長く感じられていることになる。
マリオ氏はこれを、しばらく着ていなかったジャケットのポケットから20ドル札を見つけた時の感覚にたとえている。期待値が0から20に跳ね上がったため、20ドルを獲得したかのように感じるのだ。あるいは真っ暗な部屋でマッチに火をつけるのと、照明がすべて灯っている部屋でマッチに火をつけるのとの違いにもたとえられている。
「たとえ5分でも5時間でも、自由時間がどれだけ増えようとも、『何もない』という状態から『何かある』という状態への、予想外の急激な変化によってそれが実際よりも大きく長く感じられるでしょう」(マリオ氏)
研究チームは、この主観的な時間拡張の効果は感情には左右されないことも発見した。予定が変更になったりキャンセルになったことで安心した者も落胆した者も、予期せず得た時間の流れが長く感じられるのだ。さらにこの効果は累積的であることも判明した。予期せず得られた時間が長いほどその効果は強くなる。
また時間が奪われることを想定することでも、主観的な時間拡張の効果が生じることもわかった。参加者にいつもどおり通常の自由時間がある状態と、何らかの理由で急遽まったく自由時間がとれなくなってしまった状態を比較してもらったところ、通常の自由時間も偶然に得られた自由時間と同じくらい長く感じられていたのだ。
これは単純に予期せぬ自由時間が得られたことから時間拡張効果が働いているのではなく、時間がない状態と時間がある状態との比較から主観的な時間拡張の効果が生まれることを示唆している。
スマホのタイマーやアラームをこまめに活用
ある研究では、参加者は予期せず自由時間ができた場合、同じ活動でもより長いバージョンを選ぶと報告した。たとえば休憩時間が長くなったことでより遠くにあるコーヒーショップを選んだり、いつも通りの30分かかる作業ではなく45分かかる作業を始めたり、散歩の時間と距離を長くしたりしたのである。この効果は増えた時間をレジャーに使うか仕事に使うかに関わらず同じだった。
しかしもちろん変容したその行動が適切なものであるのかどうかはまったく別問題である。つまりその行動が“遅刻”につながる可能性も大いにあるのだ。
「時間的余裕ができると、私たちはその時間を違った視点で見てしまい、無意識のうちにとってしまう行動が必ずしも最善の策とは限りません。実際よりも多くのことができると思い込んでしまう危険性があります」(マリオ氏)
興味深いことにマリオ氏はこの心理現象を身をもって体験しているという。つい最近、出発時刻が遅延した飛行機を待つ間に余計な作業をしてしまい、危うく乗り遅れそうになったということだ。
実践的なアドバイスとしては時間管理を“アウトソーシング”することに尽きる。スマホのタイマーやアラームをこまめに活用して主観を排除した時間管理を心がけたいものである。
※研究論文
https://www.journals.uchicago.edu/doi/10.1086/740288
※プレスリリース
https://www.utoronto.ca/news/u-t-study-explains-why-extra-time-doesn-t-always-go-far-we-think
文/仲田しんじ
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