米Appleは米国時間9月9日(日本時間10日未明)、新CEOジョン・ターナス氏の下で初めての発表会を開き、同社初の折りたたみスマートフォン「iPhone Duo」を発表しました。日本価格は36万4800円(税込)からで、iPhoneとして歴代最高額です。仕事で使えるのか、買う前に何が分かっていないのか、株価はどう動いたのかを整理したうえで、筆者自身が「今回は見送る」と決めた理由と、この端末が暮らしをどう変えるのかを書きます。
36万4800円で10月23日発売。何が出たのか
iPhone Duoは本のように横に開く折りたたみ端末です。閉じたときは5.4インチの画面で普通のiPhoneのように使え、開くと7.6インチの大きな画面になります。閉じると厚さ11.3mm、重さは254gです。価格は256GBが36万4800円(税込)から。Appleの36回払いなら月々1万133円からです。予約は10月16日、発売は10月23日で、米国では1999ドルから。同時発表のiPhone 18 Pro Maxは23万9800円からです。
36万4800円から消費税分を除いて1999ドルで割ると、Appleは1ドル=166円前後で日本価格を決めた計算になります。発表当日の9月10日朝の円相場は153円台で、円が164円近くまで下がった7月下旬の水準が反映されたまま、その後の円高は織り込まれていません。本記事の試算では、今の為替なら8%ほど安くてもおかしくない値段です。
仕事で使えるか
開いた画面は約11×16cmで、文庫本より少し大きい程度です。縦横の比率はA4用紙とほぼ同じなので、A4のPDFを1ページ丸ごと表示すると、縦横がそれぞれ実寸の半分ほどに縮小されます。書類を見渡すには十分ですが、細かい文字は拡大しないと読めません。8.3インチのiPad miniより一回り小さい、と考えると実感に近いはずです。iPhoneで初めて2つのアプリを左右に並べられるSplit Viewも加わりますが、並べると1画面あたりは小型スマートフォンの画面ほどの大きさです。
手書きメモや書類への書き込みに使えるApple Pencilへの対応は年内の予定で、発売日から使えるとは案内されていません。新しいSiri AIの日本語対応も10月からです。出張では、SIMがeSIM専用になった点が効きます。海外で現地のeSIMを追加するのは簡単になりますが、会社支給の物理SIMを使っている人は、情報システム部門でeSIMを発行してもらう必要があります。重さはGalaxy Z Fold8 Ultra(約215g)やPixel 11 Pro Fold(約239g)を上回り、いま買える主な折りたたみ端末の中で最も重く、最も厚い部類です。
買う前に分からないこと
まず折り目です。Appleは製品ページのFAQで「インナーディスプレイに折り目は見えるか」と自ら問いを立てていますが、回答は「見事に平らでなめらか」というもので、折り目があるともないとも書いていません。プレスリリースには、Nano-texture仕上げが折り目を目立たせないマットな表面を作るとの説明があります。目立たせないとは書いていますが、折り目がないとは言っていません。次にヒンジの寿命です。ヒンジは100以上の部品でできていて、水深6mで30分の防水(IP68)にも対応しますが、何回開閉できるかの試験値をAppleは公表していません。サムスンのGalaxy Z Fold8は50万回と公表しています。内側の画面の表面はガラスではなく樹脂のカバーで、水濡れによる故障は保証の対象外です。
次に修理費です。AppleCare+の料金は公表されました。Duoは年額2万9800円(月額2980円)で、iPhone 18 Proの1万9400円より1万円ほど高い設定です。加入していれば画面や背面ガラスの修理は3700円、その他の損傷は1万2900円と、いまのiPhoneと同じ料金で済みます。一方、AppleCare+に入らずに修理する場合の料金は、本稿執筆時点で公表されていません。日経アジアは9月4日、8月下旬の生産が品質基準の厳しさで1日数百台にとどまっていると報じました。Proモデルの予約が9月12日に始まるのに対し、Duoの予約が1カ月以上遅い10月16日なのは、この報道と符合します。発売直後は手に入りにくくなる可能性があります。
株価と部品株はどう動いたか
Appleの売上の約半分はiPhoneです(2026年4~6月期で49.6%)。Duoは1台1999ドルとPro Maxより700ドル高く、売れれば1台あたりの売上を押し上げます。ただし日経アジアが報じた年間約1000万台の目標を達成しても、Appleが1年に作るiPhone2億2000万台超の5%に届かず、台数の主役にはなりません。一方でAI向け需要でメモリーの価格が急騰しており、Appleは決算説明会で、7~9月期に利益率が下がる理由はメモリー代の上昇だけで説明できると述べています。折りたたみ画面やヒンジの部品代も高く、投資家が気にしているのは売れるかどうかより、いくら儲かるかです。
株価は7月2日、日経アジアが折りたたみモデルの生産目標が約1000万台に引き上げられたと報じた日に3.9%上がりました。「1日数百台」の報道が出た9月4日には2.5%下げ、発表当日の9日は0.28%安の315.34ドルで引けました。バンク・オブ・アメリカによれば、新型iPhoneの発表直後は「事実で売る」動きが出やすい一方、2007年以降、発表から60日後に株価が上がっていたケースは17回あります。日本では、スマートフォン向け電池で世界首位のTDK(6762)が8月27日、Appleの発表会の告知を受けて一時3.26%高となりました。ただし円相場は7月下旬の164円近辺から9月には一時152円台まで円高が進んでおり、円高は輸出企業の円換算の利益を減らします。部品株を見るなら、Apple株と為替の両方を見る必要があります。
買う人、待つ人、持たない人
買う理由が成り立ちやすいのは、iPhoneとタブレットの2台を持ち歩いている人、移動中にPDFやSlack、Zoomを扱うことが多い人です。本体にケース(1万4800~2万4800円)と2年分のAppleCare+(5万9600円)を足すと、総額は44万円前後になります。待つ理由は具体的です。AppleCare+なしの修理料金の公表、実機レビューでの折り目と重さの評価、発売直後の在庫、初期不具合、10月のSiri AI日本語対応、年内のApple Pencil対応。電話、SNS、決済が中心なら、iPhone 18 ProやPro Maxで足ります。Pro Maxとの差額12万5000円でタブレットを別に買う手もあります。投資家にとっての次の材料は、10月23日以降の売れ行きと、12月期決算で示される利益率の見通しです。本記事で挙げた銘柄は例示であって推奨ではありません。
筆者がいらないと感じた理由
筆者の仕事は原稿を書くことと資料を読むことで、iPad miniとノートPCを持ち歩いています。Duoを見て最初に思ったのは、この2台のどちらも減らせない、ということでした。開いた画面は文庫本ほどの大きさで、A4資料は縦横それぞれ半分ほどに縮小されるため、結局は拡大して読むことになります。読む道具としてはiPad miniに届かず、書く道具としては、Pencil対応が年内の予定で発売日には間に合わない見込みです。閉じたときの厚さ11.3mm、重さ254gは従来のPro Maxより重く、タブレットの代わりにもならない。持ち物が減らないなら、36万4800円を払う理由が見つかりませんでした。
もう一つは、壊したときの備えにいくらかかるか、という単純な理由です。AppleCare+に入れば画面修理は3700円で済みますが、そのAppleCare+が2年で約6万円。入らない場合の修理費は未公表で、ヒンジの寿命も未公表、内側の画面は樹脂のカバーです。本体と合わせて44万円を用意し、それでも壊したときの上限が見えない状態で持ち歩くのは、仕事道具としては落ち着きません。円安のピークで決まった価格を払う割高感も残ります。2世代目で軽く安くなり、修理費も見えてから考えれば十分だと判断しました。
暮らしはどう変わるか
それでも、この端末が生活を変える場面ははっきりしています。一つは「開く」という動作です。開いた画面は文庫本1冊とほぼ同じ大きさなので、通勤電車で電子書籍や漫画を文庫本の感覚で読めるようになり、iPad miniや電子書籍端末をバッグから出す機会は減るはずです。その代わり、254gと11.3mmの厚みはズボンのポケットに向かず、ジャケットの内ポケットかバッグに居場所が移ります。
家族の場面では、撮られる側が外側の画面で写り方を確認でき、そばにいる家族が外側の画面からビデオ通話に加われます。買い方も変わります。36万円台はスマートフォンというよりノートPCの値段で、36回払いは3年使う前提です。ケースは必須になり、2年で6万円近いAppleCare+も事実上の前提になる。スマートフォンを2年ごとに買い替える消耗品ではなく、長く使う道具として扱う。Duoはその最初の一台になるかもしれません。
※本記事の株価データは2026年9月9日(米国時間)の終値、為替は9月10日午前(日本時間)時点のものです。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。投資に関する最終判断はご自身の責任で行ってください。
※写真はアップル公式より
文/ 鈴木林太郎 経済ライター テックと経済の”交差点”を主戦場にやさしく解説。企業・自治体の取材とデータ検証を重ね、現場の課題を言語化する記事づくりが得意。




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