なぜ今、『機動警察パトレイバー』なのか――。OVAシリーズ開始から約30年、直近の映像作品から10年を経て、『機動警察パトレイバー EZY』としてリブートされた。
今年5月公開の『File 1』は全国70館の小規模な公開ながら興行収入約2億円を記録。8月公開の『File 2』も好評を博し、今もなお根強い人気を持つことを改めて示している。
名作をリブートするにあたり、『パトレイバー』の魅力とどう向き合い、何を変え、何を残したのか? HEADGEARの一員であり、『EZY』三部作の監督を務める出渕 裕さんに、その狙いと『パトレイバー』への思いを聞いた。
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OVAシリーズでのアニメ化から30周年を迎えた『機動警察パトレイバー』。現在も多くのファンを魅了し続ける本作は、8月14日に完全新作アニメーション『機動警察パト…
〝時代に取り残された〟特車二課だから描けること
『機動警察パトレイバー EZY』監督・出渕 裕さん
『機動警察パトレイバー』を企画・制作するHEADGEARの一員。1978年『闘将ダイモス』以来、『機動戦士ガンダム』シリーズなど数々の作品でメカニックデザインを手がける。2002年『ラーゼフォン』で監督デビュー。『宇宙戦艦ヤマト2199』では総監督を務めた。
――新しい『パトレイバー』を作る上で意識したことは何ですか?
初期作品から30年後を舞台に設定したので、変えようと思えばいろいろ変えられるんです。でも『パトレイバー』は〝現実の街の中にレイバーがいる〟という、フィクションなのに妙にリアルなところがおもしろかった。そこは変えたくなかった。
実際の現代社会はAIも進化しているし、フィクションとはいえ人が乗る巨大な作業機械が残っているのかと真面目に考えると、恐らく残ってはいないでしょう。でもそれでは作品が成立しなくなる。
レイバーが未だ存在していることを前提に、主人公たちの立ち位置は変わらず、変わったのは周囲の街や景観の方であると。つまり特車二課は〝時代に取り残された存在〟なのだとしました。
埋立地にポツンとあった二課棟の周囲には高層ビルなどが建ったけど、二課棟は昔の姿のまま。「98式イングラム」も現実の戦闘機「F-15」のように長く使うだろうし、一機の製造単価を考えたら易々と量産できるモノでもない。
といっている一方で、第一小隊には常に新型が導入されるんですが(笑)。
『EZY』に登場させる他の作業用レイバーをまったく違うデザインにすることも考えましたが、変にリアルに考えるよりは昔の少しマンガっぽい雰囲気が残っている方がレイバーらしい。なので作業レイバーも旧型をバージョンアップする方向に決めました。
80年代のノリを残した8本のオムニバス形式
――リアリティーを維持する上でこだわったことは何ですか?
シリーズ立ち上げ当初の日本はバブル期で〝バビロンプロジェクトの需要によってレイバーが普及した〟という設定に納得感がありました。
先ほど話したとおり、レイバーを含め、あれほど巨大な作業用ロボットが活躍する社会が間近に迫っているとは到底思えない。
実は『EZY』構想段階で、危険物なったレイバーを取り締まって回収し、最後にお役御免になった特車二課を解散する話はどうかと提案したんです。そうすることでキャラクターにも葛藤が生まれドラマにもなるんじゃないかって。
でも「夢のない話はやめてください」と却下されて(笑)。それなら腹をくくって、世界は変わっても「イングラム」と特車二課はそのまま残した上で考え直そうと。
――『EZY』はオムニバス形式の作品です。この構成も当初から?
最初はストーリーに連続性を持たせた45~50分の話を6本でしたね。脚本家の伊藤和典さんと話すなかで、それだと難しいので、結局1話完結の30分作品を8本という形に落ち着きました。
でもこれって『パトレイバー』の初期OVAを彷彿とさせるフォーマットですし、作品のノリも80年代風。原点回帰という意味で、ファンの方々も納得してくれたんじゃないかな。
現場の想定外が生んだ〝本気のパロディー〟
――作品愛を公言する現場スタッフも多いと思います。彼らから監督の想定を超えたアイデアも?
ありましたよ。パッと思い浮かぶのは、第3話とオープニングで絵コンテを担当した樋口真嗣君かな。エンドロール後に流す特撮映画の予告映像。
上がったコンテを見たら、これが押井さんの映画のパロディー全開で(笑)。 当然シナリオにはそんなこと書いてないから、最初に絵コンテを見た時は思わず「はあ!?」ですよ(笑)。
そうしたら「これしか思い浮かばない」って樋口君は言うんですよ。仕方ないから悪ノリに乗っかろうと、本人に許可を取ってからクレジットに〝予告編承諾 押井 守〟と入れて……。
そもそも樋口君に依頼したのは、制作上は第3話じゃなくて第5話に当たる話だったんですよ。劇中に登場する特車二課の制服を見てもらえばわかるとおり、『EZY』は12月から翌年8月くらいまでの時系列に準じた構成なんですね。
でも樋口君は「春じゃなくて冬の話にしたい」と。それで第3話と第5話を入れ替えたんです。結果的に『File 1』のあの予告映像が生まれて大きな話題になったし、今となっては良かったと思っていますけどね。
ただ作画のタイミングとかピッタリ合わせたおかげなのか「予告映像はAIで作っただろ」というSNSの書き込みもあって。それにはひと言いたいかな。レイバー以外は全部手描きです!
――カット割りのタイミングまで合わせた〝本気のパロディー〟という点も『パトレイバー』ならではの魅力です。とはいえ、10年ぶりの新作です。改めて〝らしさ〟とどう向き合いましたか?
僕たちが作っていると自然と『パトレイバー』になっちゃうというのが、正直なところですね。
らしさ、というお話だと、ギャグ回もシリアス回も幻想的な話も展開できるのがパトレイバーらしさなんじゃないかな。懐の深さ、あるいは多様性というのかな、そういうところがあって、それがこの作品のおもしろさでもあるんですよね。
そして何よりも、現実にいる僕たちと同様に、30年分の歳を重ねた過去の主要メンバーの姿を描くこともできた。そういうことができる作品って、存外少ないんじゃないでしょうか。それも〝変えたこと〟のひとつだし、作品のリアリティーを高める要素になっているんじゃないかな。
取材・文/ヒセキグラフィックス 撮影/藤岡雅樹
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