筆者は2カ月前、13年以上使っていた縦型洗濯機がついに動かなくなり、次の買い替えに頭を抱えていた。
次に買うべきは慣れ親しんだ縦型か、それともドラム式か。ネットを調べ尽くすと、「ドラム式で人生が変わった」という絶賛の声がある一方で、「服が傷む」「掃除が大変」「狭い賃貸には置けない」といった声もあり、賛否両論だ。
「洗濯物を上からポイポイ投げ込める」という手軽さや賃貸での置きやすさや、比較的設置面積が小さく、重量も軽めなことを考えれば、縦型が無難。一方で、乾燥機能が欲しいなら、縦型洗濯機では物足りないと聞く。せっかく買い替えるなら、やっぱりドラム式にしてみたいというあこがれもあった。
ただ、ドラム式は価格が20万円~30万円台の商品が多く高額だ。筆者の資金力では、洗濯機にそこまでお金を出すのははばかられた。しかも、ドラム式は本体サイズが大きいこともしばしば。筆者の済む1人暮らし用の狭い賃貸には置けないリスクがあった。
そこで浮上したのが、近年急増している「単身者世帯も置ける、10万円前後の格安ドラム式」という選択肢だ。
10万円前後のドラム式が続々登場
近年はニトリが9万9900円のドラム式を販売し出したのを筆頭に、ヤマダ電機やドン・キホーテなど、小売り系のプライベート・ブランド(PB)が続々と10万円前後のモデルを投入。日本メーカーでは山善、中国メーカーではハイセンスやTCLなども同価格帯の商品を販売している。
ドラム式はもはや一部の富裕層や家電通だけのものではなく、頑張れば手が届く日常の時短家電へと民主化が進んでいる。ただ、そのうちの多くの商品についてはクチコミが少なかったり、レビューの評価がイマイチだったり、自宅に設置できそうにない大きさだったりと、なかなか購入に踏み切ることができなかった。
悩みに悩んで筆者が購入したのが、中国の家電大手・美的集団(Midea Group)のブランド「Comfee’(CD-105DA1)」だ。Amazonの公式ショップでは通常価格9万9800円(税込)で販売されており、「洗濯10kg・乾燥5kg」「洗剤・柔軟剤の自動投入」「液晶タッチパネル」「15℃、30℃、40℃、60℃から選べる洗浄温度」「多様な選択コース」など、さまざまな機能を兼ね備えている。
クチコミを見ると乾燥機能や音・揺れに不満を持つ人も一定数いたが、10万円前後のドラム式にしては比較的高評価だった。そのうえ購入当時はセールで12%オフで買えたこと、自宅の賃貸1Kの狭い脱衣所・防水パンに収まりそうなことが判明したことなどから、購入を決めた。
完璧ではないが、満足
実際、Comfee’のドラム式は自宅へ問題なく設置できた。筆者はこれまでの約2カ月間、週に2~3回稼働させてきたが、おおむね満足している。縦型洗濯機から乗り換えたことで、洗濯物を干す・取り込むという作業からほとんど解放されたからだ。
具体的な特徴と感想は以下の通りだ。
・洗剤・柔軟剤の自動投入が便利:低価格帯のドラム式では手で粉末や液体洗剤を軽量する必要があるものも多いが、タンクに補充しておくだけで毎回自動的に計量されるためラク。洗濯を始めるハードルが下がった。
・絶妙なサイズ感: 幅59.5cm、奥行き60.5cm、高さ約89.5cmとコンパクト。日本の一般的な賃貸アパートの防水パンやドアの搬入経路でもスムーズに設置できた。
・必要十分な洗浄力と乾燥性能: 音は想像以上に静か。揺れが大きいと感じる人もいるかもしれないが、筆者は夜間に回しても気にならないレベルだと感じた。洗浄力に不満を感じたことはないし、容量を守れば普段着やタオルがシワにならず綺麗に乾く。日々の家事ストレスが激減した。
・手入れも比較的簡単:従来のドラム式洗濯機は毎日ゴムパッキンを掃除する必要があるなど、手入れの面倒さがネックだった。だがこの商品は、2週間に1度を目安に排水フィルターを清掃すればよいため、手間がぐっと減る。
・洗練されたデザイン性:ここは好みが分かれる部分だが、この商品は物理ボタンではなくタッチパネルで操作する。操作が直感的で分かりやすいだけでなく、文字が目立ちすぎないため、周りのインテリアや部屋の雰囲気になじみやすい。
ただ、個人的に感じた大きなデメリットもある。
それは、使い始めてから十数回は、乾燥後に不快なにおいがしたことだ。表現が難しいが、ゴムが焼けたようなにおいとも言うべきか。乾燥で内部のパッキンが加熱されているのが問題なのかもしれない。ただ最近は徐々に気にならなくなってきており、今後は完全になくなることに期待している。
当然ながら、大切なおしゃれ着などは手で干す必要がある。多くの衣類を洗濯した場合は一気に乾燥までかけるとシワがつきやすいため、5kg以下になるように調整しなければならない。だが、そのあたりはどの洗濯機を使っても同じだろう。
もちろん、筆者はまだ2カ月しか使用していないため、これから耐久性の問題が生じるおそれは十分にある。
なぜ今「10万円以下の格安ドラム式」が急増?
そもそも、なぜ近年これほどまでに、10万円以下のドラム式が増えているのだろうか。
背景には、消費構造とメーカー側の供給構造の変化が存在する。
(1) 物価高とタイパ需要
これは想像に容易いだろうが、物価高が続く日本において、共働き世帯や一人暮らし層を中心に「洗濯の手間や干す時間を削減したい」というタイパ(時間対効果)需要が確実に拡大している。しかし生活防衛意識から、家電に数十万円を出す心理的ハードルは高い。
この「高すぎて買えない」という巨大な未開拓ゾーンを、各社が「10万円以下」というキラー価格で攻め入っている。
(2) 国内大手メーカーの高付加価値化
パナソニック、日立、東芝など日本の大手家電メーカーは、厳しい家電市場で利益率を維持するため、ヒートポンプ乾燥の高度化や温水洗浄、AI制御、スマホ連携などをフル装備した「高単価・高機能路線」に力を入れている。
そうして店頭に並ぶフラッグシップ機が高価格化する一方で、「必要十分に洗えて乾けば十分」というマス層の需要が空洞化していたと言えよう。この隙間に中国ブランドやPBメーカーが入り込んだ。
(3) 中国・台湾OEM/ODMメーカーの技術の成熟
かつてドラム式洗濯機は、複雑な振動制御や乾燥ユニットの設計難易度が高く、日本の大手メーカー以外には参入が困難な「高い技術の壁」があったと言われている。
しかし、中国をはじめとするグローバルEMS(受託製造)企業などの技術レベルはこの数年で大きく成長してきた。自社工場を持たない流通企業(ニトリやドン・キホーテ等)であっても、短期間かつ低コストで品質の高いドラム式を企画・販売できる環境が整ったのである。
第2フェーズに突入した「格安ドラム戦争」とComfee’(美的集団)の優位性
なお現在は、単に「安いから買う」というフェーズは終わり、「10万円以下という枠組みの中で、どこまで付加価値を詰め込めるか」という第2のフェーズに入ってきていると言えそうだ。
山善やニトリなどの競合機が洗剤の手動投入などシンプルな設計にとどまる。そうした中、Comfee’が自動投入などの多機能をつけた9万円台のドラム式を実現できたのはなぜか。
その裏には、自社ブランドとしてComfee’を擁する美的集団の圧倒的な規模の力がある。美的集団は広東省に本社を置く世界最大級の総合家電メーカーであり、2016年に東芝の白物家電事業(東芝ライフスタイル)を買収・子会社化したことでも知られる。
同社はグローバルな調達網を持ち、原価をコントロールしやすい。また、大型家電量販店への依存を避け、AmazonなどのECサイトを販路の主軸とすることで、卸売業者などに支払う中間マージンや店頭販促費をカット。その分、洗濯機を高機能にするための費用として振り分けられる。
さらに、美的集団は東芝ライフスタイルを通じて日本の住環境を把握している。設置ができない、日本人には操作しにくいなどといったトラブルを回避しやすいのはそのためだろう。
家電の新しい選択基準
現在の日本では、テレビ市場でハイセンスやTCLなどのアジアンブランドが台頭し、モバイルバッテリーなどスマホ周辺機器ではAnkerが大人気となっている。同様の構造転換が、ドラム式洗濯機でも起きているのではないだろうか。
高い技術力を持つ国内メーカーが「多機能化による高単価路線」を突き進んだ結果、一般消費者の可処分所得との間に乖離が生まれ、そこに圧倒的なコストパフォーマンスを持つ新勢力が攻め込んできた。
実際に使ってみて確信したのは、Comfee’の洗濯機は単なる安売りではないということだ。過剰な多機能化などに疲れた現代人にとって、今後は合理的な選択肢の1つになりそうだ。
取材・文/田中節子
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