音楽に合わせて自転車をこぎ、暗闇の中で大量の汗を流す──。2010年代前半に日本へ上陸した「FEELCYCLE」は、当時、海外発の新たなトレンドとして注目を集めた。
しかし、それから10年以上が経った現在も、FEELCYCLEには、多くの利用者が通い続けている。さらに近年では、ボクシングやトランポリン、ダンスなど、音楽や照明による演出で没入感を高めたフィットネスにも広がっている。
一時のブームで終わることなく、定着したFEELCYCLE。なぜ、これほど長く支持され続けているのだろうか。その背景には、フィットネス市場の変化だけでなく、人々が運動に求めるものそのものの変化がある。
FEELCYCLEを起点に広がった「没入型フィットネス」の現在地から、その人気が続く理由を探る。
「鍛える」より「楽しむ」へ。暗闇フィットネス®が変えた運動の価値
2012年、日本のフィットネス業界に新たなスタイルとして登場した「FEELCYCLE」。照明を落としたスタジオで、大音量の音楽とインストラクターの掛け声に合わせてバイクをこぐという、それまでのジムとは一線を画すスタイルは、大きな話題を呼んだ。
当時は、「SNS映えする新しいフィットネス」「海外発のトレンド」として話題を集めた。一方で、一過性のブームに終わるのではないかという見方もあった。日本では、これまでもさまざまなエクササイズが流行しては姿を消している。FEELCYCLEも、いずれ同じ道をたどるのではないか。そんな見方も少なくなかった。
しかし、その予想に反して暗闇フィットネス®は徐々に広がっていく。
FEELCYCLEが生み出した「音楽×運動×没入感」というスタイルは、自転車だけにとどまらず、ボクシングやトランポリン、ダンスなどさまざまなプログラムへと発展。
現在では、「暗闇で運動する」というスタイルそのものが、一つのフィットネスジャンルとして定着している。
ブームとして注目を集めてから、10年以上。では、なぜ暗闇フィットネス®は一過性の流行で終わらず、今も支持され続けているのだろうか。
音楽・照明・空間演出が生む「没入感」 FEELCYCLEが支持され続ける理由
FEELCYCLEの魅力は、運動する空間そのものが非日常へと変わることにある。
周囲の視線を気にせず、自分のペースで体を動かせる安心感。そして、音楽や照明、インストラクターのパフォーマンスが生み出す高揚感。FEELCYCLEは、「運動する場所」だけではなく、「非日常を楽しみながら体を動かす場所」として支持を集めてきた。
実際にFEELCYCLEを体験すると、その魅力はより明確になる。スタジオに入り、レッスンが始まると、周囲の参加者とともに音楽のリズムへ引き込まれていく。インストラクターの掛け声に合わせてペダルを踏み続けるうちに、運動しているという感覚そのものが薄れていく。
こうした音楽や照明、空間演出によって生まれる楽しさは、FEELCYCLEが支持される理由の一つだ。健康維持や体型管理だけでなく、ストレス発散や気分転換、自分自身を整える時間として運動を捉えるニーズも広がるなか、FEELCYCLEは、「楽しみながら自分を整える」という新たな運動の選択肢を示した。
さらに、FEELCYCLEのレッスンは1回45分。効果には個人差があるものの、公式では1回のレッスンで約800kcalを消費するとしている。45分という短時間でもしっかり運動でき、忙しい日常にも取り入れやすい。運動のためにまとまった時間を確保する必要がないことも、継続しやすさにつながっている。
かつて運動は「努力して続けるもの」だった。しかし現在は、「楽しみながら自分を整えるもの」へと、その価値が変化している。FEELCYCLEの人気は、運動そのものではなく、運動を取り巻く体験そのものが進化していることを象徴している。
大型イベントにも進出!「没入型運動」はフィットネスの未来をどう変える?
音楽や照明、空間演出などを組み合わせることで、FEELCYCLEは運動そのものの楽しみ方を変え、フィットネスの新たなスタイルを生み出してきた。近年では、こうした「没入型」の運動が大規模なイベントにまで発展するなど、その裾野はさらに広がっている。
現在の盛り上がりを見ると、FEELCYCLをはじめとした没入型のフィットネスは、より一人ひとりに合わせたサービスへと進化していく可能性もある。AIやデータを活用し、心拍数や運動履歴、体調などに応じたプログラムを提案できれば、個々の目的や状態に合わせた運動が、より身近なものになるだろう。
また、これからのフィットネスでは、「鍛える」だけでなく、「回復する」「整える」といった視点も重要になっていく。リカバリーサービスやマインドフルネスなどとの融合が進めば、運動そのものだけでなく、その前後のコンディショニングまで含めたサービスへと広がっていくのではないだろうか。
こうした変化の背景にあるのは、運動を「続けなければならないもの」ではなく、「またやりたいと思えるもの」として捉える発想だ。音楽や照明、空間演出、コミュニティなど、運動以外の要素を組み合わせることで、フィットネスは単に体を鍛える場所から、気分転換や自己管理のための場所へと役割を広げている。
「鍛えるために通う」だけではなく、「楽しむために通う」。FEELCYCLEが切り開いたのは、運動をもっと自由に楽しむという新しい考え方なのかもしれない。
一時のブームと思われたスタイルが10年以上にわたって支持されてきた背景には、「またやりたい」と思える時間をつくるという発想があった。これからのフィットネスも、運動効果だけでなく、いかに楽しみながら続けられるかが、ますます重要になっていくだろう。
取材・文/Tajimax
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