生成AIの普及により、「簡単に動画が作れるようになった」と評判だ。しかし、それは素人界隈の話であるようだ。
では、プロのCG業界ではどのようにAIを活用しているのか。日本のCG技術の最前線を走るCG制作会社のひとつ、デジタル・フロンティアへ取材を敢行。
ゲームのCGに使われるモーションキャプチャー(※)技術へのAI活用例も紹介する。
※カメラやセンサーにより人間などの動きを取得し、データ化して3D表現する技術
CG業界のAI活用の現状
CG業界ではどの程度AIが活用されているのか。同社のCG制作部 モーションキャプチャーディビジョン ディビジョンマネージャーの越田弘毅氏は次のように答える。
「CG業界におけるAIの活用は急速に広がっていますが、現時点では、作品のすべてをAIだけで完成させるというよりも、制作工程の一部を補助するツールとして検証・導入されている段階だと感じています」
●AIの活用分野
「画像やアイデアのたたき台の作成、映像素材の整理、動きの補正、ノイズ除去、作業の自動化など、人がこれまで時間をかけていた工程を効率化する用途では、AI活用の可能性が高まっています。
モーションキャプチャーの分野でも、収録データの補正や、骨格の推定、映像から人の動きを取得する技術などが進化しています」
●AI活用の課題
「一方で、プロの映像制作では、同じキャラクターや背景を複数のカットで一貫して表現することや、監督からの細かな修正指示に正確に応えることが求められます。
現在の生成AIは、短時間で印象的な映像を作ることには長けていますが、キャラクターの形状や演技、カメラワークを細部まで意図どおりに制御したいケースでは、まだ課題があります。
また、著作権や学習データ、情報管理などの問題もあります。実際の制作現場では、使用するAIツールの安全性や権利関係を確認し、クライアントや作品ごとのルールに従って利用する必要があります。
そのため、技術的に使用できるからといって、すべての案件ですぐに導入できるわけではありません。
人が後から細かく修正でき、既存のCG制作工程とスムーズに連携できるAI技術が、より実用的になっていくのではないか」と今後の展望を話す。
注目のモーションキャプチャー技術「マーカーレス・モーションキャプチャー」とは?
現在、ゲーム開発の現場で注目されているAIを活用した技術のひとつに「マーカーレス・モーションキャプチャー」があるという。どんな技術なのか。
「従来の光学式モーションキャプチャーでは、演者が専用のスーツを着用し、身体にマーカーを装着した上で、複数の専用カメラを使用して収録します。
一方、マーカーレス方式では、市販のカメラやスマートフォンなどで撮影した映像から、AIが人物の姿勢や動きを推定し、3Dモーションデータを生成します」
●「マーカーレス・モーションキャプチャー」のメリットとは?
・手軽にデータ化できる
「大掛かりな設備や専門スタッフを必要とせず、アニメーターが自席などで動きを撮影し、アイデアをすぐにデータ化できる点が大きな特徴です」
・武術やスポーツ映像からの3Dモーション化が可能
「既存の2D動画から3Dモーションを生成する『Video to Motion』という技術も進歩しており、武術やスポーツなどの映像から、アニメーション制作のベースとなる動きを作成することも可能になっています」
・屋外での活用の可能性
「通常のカメラ映像を使用するマーカーレス方式は、森や坂道、階段など、従来の光学式システムでは収録が難しかった屋外でも活用できる可能性があります」
●「マーカーレス・モーションキャプチャー」の課題
「映像から動きを推定するため、足が地面をすべってみえる『フットスライディング』が発生したり、指先の動きや小道具の動きを正確にキャプチャーできなかったり、複数人が絡む複雑なアクションを正確に取得しづらかったりするなど、精度にはまだ課題があります。
そのため、業界全体の傾向としては、カメラワークやシーンの尺、演技の大まかな方向性を確認する「プレビズ」などには手軽なマーカーレス方式を活用。
作品の顔となる重要なシーンや、複数人によるアクション、繊細な演技については、大規模な光学式モーションキャプチャースタジオで高精度に収録するという、用途に応じた使い分けが考えられます。
当社でも、現時点では本格的な制作フローへの導入には至っていませんが、今後の活用可能性を見据えて技術検証を進めています」
●動物の自然な動きをトラッキングできる可能性も
さらに今後、技術が進化することでAI活用の新たな可能性が広がるかもしれない、とも。
「人物だけでなく、馬や犬などの哺乳類に加え、鳥類、魚類、昆虫などをトラッキングできる仕組みもすでに登場しています。
従来、動物にマーカーを装着する手法は準備のハードルが高く、動物への負担も課題でした。マーカーレス方式であれば、より自然な状態での動きを収録できる可能性があります。
当社でも、こうした動物向けのマーカーレス・トラッキング技術について、今後テストを行う予定です。これまで収録が難しかった対象の動きを捉え、表現の幅を広げる技術として期待しています」
CG業界では、AIの活用は進んでいるが、まだまだ本格導入には課題があることがわかった。
「当社では、AIですべてを置き換えるのではなく、データ処理や確認作業、制作ツールの開発など、人がより創造的な業務に集中するための活用方法を検証しています」
検証が重ねられ、さらに日本のCG技術が向上することに期待が高まる。
取材・文/石原亜香利
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