モナキ、パンチくん、ボンドロ…2026年上半期のヒット商品&トレンドを総力取材!SNSで話題の『みぃちゃんと山田さん』やマンジャロも独自視点で切り込む大特集!第11回は、今年3月にオープンした「OIMACHI TRACKS(大井町トラックス)」ピックアップ!〝まちびらき〟からわずか4か月、400万人以上が訪れた人気スポットが示す新たな都市開発のあり方とは?
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2026年3月28日、東京・大井町駅前に誕生した「OIMACHI TRACKS(大井町トラックス)」が、日本の都市開発における成功の方程式を鮮やかに塗り替え、2026年の〝ヒット〟のひとつとなっている。先日のDIME本誌の特集で、人気アイドル・モナキの4人が個人的ヒット商品を公開した際、都市開発に詳しいサカイJr.が「大井町トラックス」を挙げたことも記憶に新しい。
実績としては、まちびらきから7月末までのわずか4ヶ月間で、累計来場者数は約417万人を記録。月平均100万人超という驚異的なデータは、当初の目標を遥かに凌駕する圧倒的なヒットを証明した。
しかし、真に分析すべきはこの数値を支える客層の厚さにある。30〜40代のファミリー層を中核に据えながら、平日の昼間にはママ友たちがベビーカーを並べて語らい、夕暮れ時には部活帰りの学生が芝生に腰掛け、友人と青春の1ページを刻む。さらに、シニア層までもが、デッキから整然と並ぶ列車を眺めながら静かな時間を過ごしているのだ。
属性の境界を超え、あらゆる人々を惹きつけて離さない場所となったのはなぜか。それは、これまでの都市開発が無駄として切り捨ててきた〝ある要素〟を、最大級の資産へと昇華させた戦略の勝利であった。このプロジェクトについて、東日本旅客鉄道株式会社 マーケティング戦略部 広域都市創造ユニット TOKYO GLOBAL VALUE DESIGNグループ(まち運営・バリューアップ戦略)マネージャー布施俊太郎さんと、サブマネージャー山田修也さんに詳しく話を聞いた。
坪効率を捨てて選んだのは〝歩きたくなる街〟づくり
都心部における複合開発の定石は、いかに敷地面積あたりの収益(坪効率)を最大化させるかにある。一般的に、駅直結の好立地であれば、改札付近に巨大な高層ビルを聳え立たせ、残りの敷地を駐車場などで埋めるのが効率的な収益モデルとされる。
しかし、東西約500メートルに及ぶ細長い敷地を持つ本プロジェクトは、そのセオリーに真っ向から挑んだ。単なる高層ビルを建てるのではなく、広大なデッキや広場——すなわち〝余白〟を贅沢に散りばめたのだ。効率を捨ててでも〝歩きたくなる街〟を創ることが、結果として持続的な価値を生むと現場は確信していたからだ。
「ここは元々、一般の方があまり立ち入ることのないJR東日本の社宅や車両基地が中心となった土地でした。一方で大井町には、歩いて楽しい魅力的な商店街が存在しています。そこで、商業部分を運営する株式会社アトレを含む開発メンバー(以下、「開発チーム」)で議論し、既存の商店街のように歩くこと自体を目的化できる街を目指しました。あえて効率を追求しすぎずゆとりを設けることで、結果としてユーザーの滞留時間が延び、消費へと繋がる。この逆説的な成功こそが、開発チームの狙いでした」(布施さん)
設計段階で直面したコロナ禍という逆風も、結果として開放的な空間ニーズへの追い風となった。三密を避け、屋外で心地よく過ごしたいという現代人の心理的欲求と、余白を生かした空間づくりが見事に合致したのだ。

約10メートルの高低差が創り出す飽きさせない刺激

大井町トラックスの敷地には、東西にかけて約10メートルの高低差が存在する。この地形的な制約を、開発チームは複層的な動線設計へと転換した。3階の改札階から1階の広場まで、階段やエスカレーターを立体的に配し、歩行者の視点を常に変化させる仕掛けを施したのだ。

「ただ平坦な道が続くだけでは、人は心理的に遠さを感じて飽きてしまいます。そこで、開発チームで、高低差をあえて活かし、階段を上った先に違う景色が現れるような設計にすることで、自然と奥へ、さらにその先の品川区役所側へと足を運びたくなる仕掛けを施しました。実際、隣接する南側の道路側からTRACKS PARKへ向かう際、ただの勾配を歩くよりも、トラックスのデッキを歩く方が体感時間が短く感じられるという声もいただいています」(布施さん)
実際に施設内を歩いてみると、ゆったりとした通路も非常に印象的だ。歩行者通路の幅員については、都市計画の中で最低ラインが定められているが、大井町トラックスではそれよりも更にゆとりを持たせている。歩いて楽しんでもらう動線や、気持ちよく過ごしてもらうことを重視したと担当者は語る。
また、普段は多くの人がくつろぐ芝生の広場「TRACKS PARK」は、災害時には広域避難場所としての機能も果たす。ゆとりある楽しい空間づくりをすることで、周辺の住宅街に不足していたオープンスペースを確保することにも成功したのだ。この歩行者の心理的刺激と都市の安全性の融合が、周辺エリアとのポジティブな化学反応を誘発している。

「開業」から「まちびらき」へ——アウトモール型が導く地元商店街との共生
本プロジェクトにおいて、開発側は「開業」ではなく「まちびらき」という言葉を一貫して選んだ。これは単なる商業施設のオープンではなく、生活、ビジネス、そして地域コミュニティが、この日を境に本格的に動き出すことを意味している。
その象徴となるのが、店舗ごとに独立した玄関を持つアウトモール型の採用だ。従来の駅ビルにありがちな、全店舗一律の営業時間という高いハードルを、この形式が打ち破った。
「運営会社のアトレからは、地元のお店が出店してくださったのは、このアウトモール型だったからだと伺っております。個人オーナー店にとって、朝から晩まで休まず営業し続けるのは大きな負担となっているため、店舗ごとに営業時間や休業日を調整できる仕組みにしたことが、地元の個性を保ったまま出店に繋がった理由のひとつと伺っております」(布施さん)
この、職・住・遊の境界が溶け出すような共生モデルは、施設外にも波及している。大井町トラックスに入り切れなかった客が周辺の商店街へ流れ、商店街で開催されたマルシェでは過去最高の数字を更新した。今後も地域との共創を目指しさまざまな施策を考えていると担当者は語る。施設単体での完結ではなく、地域全体を一つのエコシステムとして活性化させる。この実態こそが、大井町トラックスが示す現代の都市開発の最適解と言えるだろう。

トレインビューが呼び覚ました「シビックプライド」
開発側にとって予想外のヒットだったのは、隣接する車両基地を見下ろすデッキ、通称「トレインビュー」の爆発的な人気だという。夜、整然と並ぶ山手線の車両を高い位置から見下ろす景観は、鉄道ファンのみならず、親子連れからシニア層までもが「自分たちの街の風景」としてSNSに投稿する。
担当者は、地域住民の反応に深い感慨を覚えている。
「車両基地は国鉄時代からこの場所にあるものです。しかし、デッキから見下ろすという新たな視点を提供したことで、住民の方は『私たちの大井町は、首都圏の鉄道を支えてきた街なのだ』と魅力を再発見し、それを誇りに感じてくださっています。鉄道という日常の風景が、情緒的な価値、すなわちシビックプライドへと昇華した瞬間になったと感じています」(布施さん)
かつて立ち入り禁止だった閉ざされた場所がオープンになることで、街のアイデンティティを確認し、次世代へ語り継ぐための聖地へと変貌を遂げたのである。この開かれた場所には、大井町という土地の歴史やロマンが詰まっているのだ。


コスパ・タイパ時代に「目的のない時間」が生む価値
大井町トラックスが提示したのは、消費を強要しない都市の在り方だ。職場でも家庭でもない、現代人が必要とする「サードプレイス」としての可能性がここにはある。
オフィスワーカー向けコミュニティ「At 7 PM(アットセブンピーエム)」の取り組みはその象徴だ。「At 7 PM」は、広域品川圏(大井町・高輪ゲートウェイ・浜松町(竹芝)・田町・品川)で仕事以外の繋がりを作ってもらうことを目的とした施策で、近隣のオフィスワーカーがメインの対象者となっている。仕事帰りにヨガやベリーダンスを楽しんだり、移動書店が運んできた本の中から今の自分にぴったりの一冊を選んでもらい、広場の好きな場所で読んだ後に参加者と語り合ったりするなど、終業後の時間を楽しむ人の姿がある。そこに流れているのは、効率とは無縁の贅沢な時間だ。 また、ベーカリーカフェのテラスやホテルのルーフトップバーからは、鉄道や飛行機、モノレールが交差するダイナミックな都市の鼓動を眺めることができる。高密度の東京において、これほどの開放感と動きを同時に体感できる場所は稀有だ。


「まちびらきのキャッチコピーは『思いがけない時間と出会う』でした。たまたま訪れたら、何かいいことがあった。目的がなくても、何かに出会うことができる。ただ、そこにいるだけで心地良い。私たちはそんな空間を目指しました」(山田さん)
効率を追求するあまり、偶発性という楽しみを失いつつある現代において、大井町トラックスが設けた広大な〝余白〟は、人々の心にゆとりと思いがけない出会いをもたらしている。この「目的のなさ」こそが、大井町トラックスが提供する最高のサービスであり、現代の都市開発における新たな価値だと言えるだろう。
取材・文・撮影/Miyu
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