Excelは、今に至るまで企業に必須の表計算ソフトとして日常の光景に根付いている。
Officeの中でもExcelは非常に重い意味合いを持つソフトで、これを完璧に使いこなすことができればとりあえず大抵の企業に就職できるだろうとも言われている。ところが、そんな「当たり前」も過去の景色になりつつある。というのも、今やMicrosoftのAIアシスタント『Copilot』に指示を出すだけで関数や表計算の設定を実装することができるからだ。
これが、ベラボーに面白い。一度やり出すと止まらなくなってしまうのだ。とりあえずこの記事ではフリーランスのライターに必須の請求書の雛形を作ってみようと思うが、発想次第では第二次世界大戦の暗号機ですらも作り出すことができる。え? 話が飛躍してるって?

関数設定済み請求書をらくらく生成
かなり前の話だが、筆者はExcelでの関数設定について解説したハウツー本の書評を書いたことがある。小学館とは別の会社のメディアからの依頼だった。
その本は、あまり頭がいいとは言えない筆者でも十分に理解できるほど分かりやすく、仕事に必要な点がきちんと抑えられていた。これはまさに「名著」と言っても構わないレベルの1冊だった。が、時代というものは恐ろしい。それだけの名著を「昔の本」にしてしまうのだから。
ExcelにおけるCopilotとは、簡単なプロンプトだけで全ての関数設定を実行してくれるアシスタントである。
たとえば、請求書。これはフリーランスにとっては避けられない道でもあるが、請求書の作成はかなりの手間暇がかかる。その月の執筆記事本数と記事単価を入力すれば、消費税と源泉徴収税も自動計算してくれる雛形がほしい。それを自分で作ろうと思ったら、上に挙げたような本を読んで勉強するしかなかった。つい最近までは。
ところが、Copilotとのチャットに以下のプロンプトを入力すると……。
縦のA4サイズに収まる請求書。消費税と源泉所得税の自動計算ができる。請求先は小学館。小学館の住所も記載して。請求者は澤田真一。
数分後に、以下のような請求書が完成する。
これは、記事本数と記事単価を入力するだけで最終的な請求金額を割り出してくれる仕組みになっている。画像の記事単価はあくまでも検証のための仮の数字で、本当はもっと頂戴していることを断っておきたいが、ともかくCopilotで作った請求書は難なく報酬の計算をしてくれた。小学館の住所もちゃんと記載している!
Excel上にエニグマ暗号機を再現
「AIは人間の仕事を奪うのか?」ということが、今でもよく議論されている。
それは、仕事の内容によるだろう。たとえば、Excelに熟達しているという理由で、しかも他の社員がExcelにあまり触れない状況の職場に採用された人は(こうした企業は地方にはよくある)、窓際に追いやられないために今すぐにでもExcelに代わるフェイバリットを見出す必要がある。ライター業界には「録音書き下ろしライター」という職種があったが、AI書き下ろしツールの登場で人間が録音内容を転写する必要がなくなった。それと理屈は一緒である。
つまり、これからはハローワークで求職者に「Excelを使えますか?」と質問する行為は意味を成さないということだ。
「そんなことはない! Excelの関数設定はまだまだ人間がやるべき仕事だ!」と主張する人がこの記事を読んでいるのなら、「あなたはExcelでエニグマ暗号機を作れますか?」と問い返したい。
第二次世界大戦のドイツ軍が使用した暗号機『エニグマ』。3枚もしくは5枚のローターとプラグボードを用いて膨大な組み合わせの暗号を生成するこのマシンは、当時は科学の最高峰の象徴でもあった。「エニグマ暗号の解読は絶対に不可能」と言われていたほどだ。
もっとも、エニグマ暗号はイギリスの数学者アラン・チューリングとブレッチリ―・パークの暗号解読チームによって破られ、ドイツ軍はあらゆる軍事行動が完全に監視された状態で敗戦までの道をたどった。
実は、このエニグマ暗号機をExcelで再現できるのだ。
エニグマで暗号化された文章を解読できるシートを作って
たったこれだけのプロンプトで、Excel上にエニグマ暗号機シュミレーターが登場する。途中でモデルM3かモデルM4かを選択する場面が出てくるが、今回はM3にした。
3枚のローターとプラグボードの設定を入力し、アルファベットの文章を打ち込めば暗号を生成してくれるのだ。逆にエニグマ暗号を平文に解読することも可能である。実機と全く同じ仕組み、同じ手順だ。
パープル暗号機も作れるぞ!
エニグマ暗号機の再現が可能だから、パープル暗号機の再現も当然できる。
パープル暗号機とは連合軍側の呼称で、第二次世界大戦時の日本の外務省が使っていた九七式欧文印字機である。恐ろしいことに、CopilotはこれすらもExcel上で作ってしまった。
連合軍では対独暗号解読チームを「ウルトラ」、対日暗号解読チームを「マジック」と呼んでいた。それぞれの解読文は「ウルトラ情報」「マジック情報」とされ、僅かな人数の高官だけがそれを読むことができた。21世紀のExcelは、そんな極秘マシンを難なく再現してしまう。
「Excelの設定に精通したスキル」は、残念ながら習得必須のものではなくなっている。代わりに求められるのが「AIに何を作らせるかを考える発想力」ではないか。
たとえば、筆者はこんなものも作ってみた。1805年のアウステルリッツの戦い(三帝会戦)に参加したフランス軍の指揮官のリストである。
1805年の三帝会戦に参加したフランス軍の将軍と元帥の名前と肖像画、兵力、功績をリストアップして。彼らをパリで開催される戦勝パーティーに誘えるようにしたい。
という、まるで19世紀初頭にPCがあったらを想像するかのようなプロンプトを入力してみる。すると、こんなのが出てきた。
元帥だけでなく、師団と旅団の指揮官もリストアップし、それぞれの兵力や「三帝会戦ではどのような働きをしたのか」もちゃんと書いてくれている。
つまり、Copilotはこうした「発想力勝負のもの」も即座に生成できるということを筆者は言いたいのだ。
Excelそのものを手動で設定するスキルの代わりに、Excelで何を作るか・作ることができるかをひらめくことができるスキルがこれからの時代問われていくのではないか。
AIというものは、突き詰めれば突き詰めるほど「主役」ではなく「脇役」としての大活躍を見出すことのできる代物だ。では、「主役」とは誰か? もちろんそれは、我々人間である。
文/澤田真一
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