プラモデルは、接着剤不要かそうでないかで工作レベルが段違いに異なってくる。
たとえば、ガンプラは接着剤を使わずに組み立てることを前提にした製品で、説明書の手順通りにやれば誰でも簡単にモビルスーツを作ることができる。タミヤのミニ四駆も同様に、接着剤はいらない。しかし、タミヤ1/35MMシリーズは接着剤がないと始まらない。プラモ初心者からすれば、このあたりでつまずいてしまう可能性がある。
しかし、そんな「壁」を超えるのに最適なキットもまた存在する。それが1971年6月から今に至るまで生産され続けているタミヤ1/35MMシリーズ『1/35 ドイツII号戦車 F/G型』(通称『Ⅱ号戦車アフリカ軍団キット』)だ。
1971年から生産され続けるキット
1971年といえば、日本では高度経済成長がまだ続いていた時代である。
60年代に比べて、日本人の生活水準は格段に上がった。それと同時に、食習慣に大胆な変革が及んだ。銀座にマクドナルド日本1号店が登場したのは、1971年である。日清食品のカップヌードルの発売もこの年だ。食事は「家で座って食べるもの」とは限らなくなり、それと共に文化が多彩化していく。
子供が手にする玩具にも、その影響は表れた。それは一言で言えば「玩具が玩具ではなくなった」ということだ。
プラモデルは、なぜプラスチックでできているのか。模型とは元々は木製だったが、素材をプラスチックにすることでより精巧な造形が可能になるからだ。戦車の模型は、それが木製であるうちは「戦車」という普通名詞から飛び出すことはない。しかしプラスチック製になると、はっきりとした固有名詞を持つ「ティーガーⅠ」や「T34/76 1942年生産型」になるのだ。
子供たち、というよりも若者が普通名詞では満足せず、より詳細な固有名詞を目指すようになった。要するに若者が「オタク化」していったということだ。
『Ⅱ号戦車アフリカ軍団キット』は、誤解を恐れずに言えばまさにそのような製品である。
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歴史考察に基づいたリアルな造形
『Ⅱ号戦車アフリカ軍団キット』にはⅡ号戦車そのものだけでなく、それに乗る戦車兵1体、そして随伴歩兵4体がついている。彼らが手にする武装も、もちろん用意されている。
歩兵のヘルメットを熱帯帽にすることができる選択肢もあり、仮に熱帯帽を選んだ場合はヘルメットが浮く。それをジオラマ製作の材料にしたり、Ⅱ号戦車に乗せて「乗組員用のヘルメット」という設定を付け足すことも可能だ。
また、戦車兵と歩兵は「アフリカ軍団所属の兵士」という明確な役を与えられている点にも注目するべき。もしもタミヤが子供を「単なる子供」として扱っているのなら、このような細かい設定は絶対に施さない。モブに過ぎない兵士の造形表現は、もっと簡単にしていたはずだ。
しかし、1971年の子供たちは上述したように、もはや普通名詞で満足できなくなっていた。一口に「ドイツ軍兵士」といっても、年代や戦線で装備や服装が大きく変わる。実際に第二次世界大戦のドイツ軍は、エデュアルト・ディートルの北極山岳軍からエルヴィン・ロンメルのアフリカ軍団まで、広大な範囲に兵力を送り込んでいた。ディートルの山岳軍とロンメルのアフリカ軍団が同じ格好をしているわけがない。そうした区別を、当時の子供たちは既に知っていた。
『Ⅱ号戦車アフリカ軍団キット』には、説明書とは別にⅡ号戦車の塗装例の解説図が用意されている。同じ戦線でも師団によってマークや迷彩の有無という違いが存在し、それを再現するための技法が書かれている。大和糊を使って組み立てた車体に面を貼り、その上からスプレー式タミヤカラーを塗布する手法はMMシリーズファンの間では有名だ。
カスタマイズの余地も十分
『Ⅱ号戦車アフリカ軍団キット』は決して大きいキットではなく、部品点数も割と少ない。1/35MMシリーズの中では特に作りやすいキットと評価できる。
「作りやすい」ということは「カスタマイズの余地がある」という意味も含んでいる。
キットにはない部品をどこかから調達してⅡ号戦車に載せるもよし、追加費用をかけてエッチングパーツを組み込むのもよし、砲塔を外して対戦車砲を載せてしまうのもよし。とりあえず説明書通り作ってみて、あとから塗装や改造について思案する方法もアリだ。価格も税込1,320円と、決して高価なものではない。何両も同じものを揃えて、自分だけの戦車小隊を編成することもできる。
より高難易度のキットに挑戦したい初心者から、プラ板で何でも作り出してしまう熟練モデラーまで、幅広い層をカバーしているのが『Ⅱ号戦車アフリカ軍団キット』と言えよう。
また、この時代のMMシリーズの説明書は戦車の開発に関する経緯から、実際にどのような戦場でどのような戦果を挙げたのか、さらに戦車連隊の編成図や戦線の動き、歩兵の服装に関する解説なども豊富に記載されている。言い換えれば、1,320円を財布から出せば第二次世界大戦のドイツ軍に関するちょっとした知識が得られるということだ。ネットのない時代、プラモデルが子供たちにとっての第一級資料という側面もあった。
そんなわけで、今年の夏はタミヤの名作キットを作って酷暑を乗り切ろう!
文/澤田真一
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