
「狭小住宅」が話題になっている。特に単身者の間では、「家は狭くても構わない」と考える人が増えているという。
また、現実問題として日本は平野面積が少なく、巨大な家をいくつも建てることは叶わない。江戸時代の裏長屋の「九尺二間」というサイズは、ある意味で日の本四十八州の国情に沿ったものだったと言える。
都心で働く人にとっては、家賃は頭の痛い問題でもある。ある程度広くなると、当然家賃も高くなる。では、西東京か朝霞か相模原あたりに居を構えるのか? それもいいかもしれないが、毎日の通勤を考慮すると住まいはやはり極力都心の近くにあったほうがいい……と考えるのは至って自然な成り行きである。
が、それまで狭小住宅で満足していた単身者が結婚して子供を作る段になれば、慣れ親しんだ狭小住宅から卒業しなけれならない。国民の住宅需要とは、一口では語り切れないほど多種多様であることを念頭に置く必要がある。少子高齢化の歯止めが利かない現代であれば、それは尚更だ。
2026年は『住生活基本計画』変更の年
「国民の住居確保」は国家にとっての第一議題である。
戦後、米軍の爆撃により焼け野原になった日本は早急の住宅建設が実施された。国外各地で戦っていた旧日本兵が復員兵として帰国し、彼らが数年後のベビーブームを作る最大要因となった。かつての日本の人口ボーナス期はここから始まる。
増加する国民の住まいは、まるで江戸時代のような長屋から始まり、やがて団地になった。人口ボーナス期に支えられた高度経済成長期の到来、そして終焉が訪れると、今度は「量から質へ」ということが叫ばれるようになった。「ただ暮らす」だけではなく、より豊かな住生活を実現することができる住居の建設だ。
その上で、21世紀に入ると耐震性能と少子高齢化問題に対応できる住まいの設計が求められるようになった。この記事では特に少子高齢化問題に焦点を当ててみたいが、詳しいことは後述させていただきたい。
我が国では2006年から概ね5年の感覚で『住生活基本計画』というものが策定・変更されている。今年、この住生活基本計画の変更がされたのだが、その中で「最低居住面積水準」の記載が削除されたことが大きな話題になった。
それまでは「単身世帯は最低25m²、2人世帯は最低30m²」といった具合に、健康で文化的な生活を営むための最低限の広さが設定されていた。そうした設定がなくなることにより、いわゆる狭小住宅が増えるのではと論じられるようになったのだ。
「最低居住面積水準」という物差しがなくなる
此度の最低居住面積水準の記載削除を受けて、「これは貧困者に狭い住宅を押し付ける政策ではないか」という声も上がっている。
しかし、本当にそうだろうか?
住生活基本計画の本文、「住宅性能水準」の項目には以下のように記載されている。やや長いが、極めて重要な部分なので引用させていただきたい。
1 基本的機能
(1)居住室の構成、規模等
(1) 各居住室の構成及び規模は、個人のプライバシー、家庭の団らん、接客、余暇活動等に配慮し、他の基本的機能、居住性能、利便性等の居住者の多様なニーズも勘案の上、適正な水準を確保する。
(2) 専用の台所その他の家事スペース、便所(原則として水洗便所)、洗面所及び浴室を確保する。ただし、適切な規模の共用の台所及び浴室を備えた場合は、各個室には専用のミニキッチン、水洗便所及び洗面所を確保すれば足りる。
(3) 世帯構成に対応した適正な規模の収納スペースを確保する。
(4) その上で、今後の住宅ストックの充実に当たって供給・流通を促していく住宅の規模は、これまでの単身世帯の最低居住面積水準が25m²以上とされてきたことにも留意しつつ、2050 年に向けて増加が見込まれる単身世帯が都市居住に当たってゆとりのある住生活を営むことができる規模及び、2人世帯、3人世帯若しくは夫婦と2人の未就学児等からなる世帯が生活を営むことができる規模を考慮して、40 m²程度を上回る住宅とする。
(5) なお、主として既存住宅の活用が想定されるセーフティネット登録住宅、居住サポート住宅等、政策目的に照らして適正な水準を確保する必要がある場合は、上記によらないことができる。
(住生活基本計画 国土交通省 太字は筆者)
太字の部分に注目してみよう。これを要約すると、単身者が将来結婚して子供を持つことを想定した場合、住宅は40m²以上が適切ということだ。世帯人数毎の最低居住面積水準を設けるのではなく、単身者の生活環境の変化を予め考慮した住宅を構想し、それを全国に建てていきたい……というのが国交省の思惑ではないか。
ただし、そうした側面はあるにせよ最低居住面積水準という物差しがなくなったことは、狭小住宅の増加を促す直接的要因となり得るはずだ。
「広さ」よりも優先すべき要素
その上で、前述した少子高齢化問題とそれに対応した住宅の構想について触れていきたい。
今後、日本で間違いなく増えるのが「単身の高齢者」である。生涯独身のいわゆる「おひとり様」が珍しくなくなるというのは、家族や親戚が一人もいない高齢者の増加を意味する。
そこで問題になるのが、孤独死だ。国交省は住生活基本計画の中で「高齢者の孤独死」などという直接的な表現を用いているわけではないが、以下のような対策を立てている。
(高齢者の孤立を防ぐ居住環境の整備)
○ 見守りカメラや見守りロボットなど、ICTの活用等の工夫を通じた見守る側・見守られる側双方にとって取り組みやすい見守りや安否確認の推進、医療・福祉施設との一体化等による安心の確保、多世代との交流を含む孤立を防ぐ居住環境の整備
・ICTを活用した住宅、サービス付き高齢者向け住宅、居住サポート住宅等の見守り等の機能を有する住宅の普及促進
・独立行政法人都市再生機構(UR)の賃貸住宅等の住宅団地における、医療・福祉施設等の生活拠点の充実、福祉と連携した居住支援体制の整備、若年層も含めたエリア内及び周辺の居住者との交流の場と機会の創出
(同上)
IoT機器やそれと接続するインターネットを駆使し、住宅に入居する高齢者の「いざ」に備えよう……というのが国交省の明確な方針である。
これらを総括すると、21世紀も中頃を迎えようとしている日本の住居は、単純な広さよりも「つながり」が重要視されていくのではないか。「つながり」とはオンラインへの常時接続はもちろんながら、医療・福祉へのつながり、そして地域内のつながりも意味している。
「見守りカメラ」や「見守りロボット」は、20世紀まではまさに『ドラえもん』の世界だった。しかし、2026年の今では現実がドラえもんのひみつ道具に追いつくようになった。かつての「夢」を手にした我々は、それをより良い暮らしや社会問題の解決に活用しようとしている。
その先にはどのような景色が広がっているのだろうか。敢えて楽観的な考え方でいるとするなら、20世紀以来の固定観念から脱却して新しい価値観を確立させた効率的な住宅街が我々の目の前に展開されているだろう。
文/澤田真一
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