夏に野外ステージで行なわれる音楽フェスティバル、いわゆる〝夏フェス〟は音楽だけでなく、野外のグルメやアウトドアも同時に楽しめる開放感あふれるイベントだ。
けれど近年の猛暑の中では熱中症リスクが高く、万全の準備をして臨む必要がある。
今回は、熱中症に詳しい救急科専門医の三宅康史医師に、夏フェスでやるべき熱中症対策と応急処置の方法を聞いた。
夏フェスは熱中症リスクが重なる!
三宅康史医師
熱中症総合研究所所長、帝京大学医学部救急医学講座客員教授。東京医科歯科大学医学部卒業後、帝京大学医学部附属病院高度救命救急センター長などを歴任した救急医学・集中治療医学のエキスパート。日本救急医学会救急科専門医をはじめとする多数の専門医資格を持ち、熱中症や救急医療の権威としてテレビなどメディアでの解説実績も豊富。
三宅医師によると、夏フェスのような屋外レジャーは複数のリスクが重なるため、厳重な注意が必要だという。
「夏フェスは長時間にわたり屋外で過ごすケースが多く、直射日光や地面からの照り返し、高温多湿、移動による疲労、準備に伴う睡眠不足、食事不足など、熱中症の引き金となるリスクが次々と重なります。
また、普段の生活とは異なり、楽しさや高揚感から、のどの渇き、疲労感、体のだるさといった初期のサインを無意識に見逃しやすくなります」
三宅医師は「熱中症は単に〝暑さで具合が悪くなる〟だけではない」と指摘する。まずは、その危険なメカニズムを正しく理解しておきたい。
熱中症とは、暑い環境にさらされることで体温が上昇し、体内の重要な臓器が熱によってダメージを受ける病態のこと。
大量の発汗によって水分とナトリウムなどの電解質が失われ、脱水状態に陥る。これにより、臓器に栄養や酸素を運ぶ血液の循環量が激減してしまう。
すぐに異変に気づいて応急処置を行なわないと、体外へ熱を逃がす防衛機能が完全にストップする。
結果として脱水と相まって体内に熱がこもり、めまい、頭痛、吐き気、倦怠感、さらには重篤な意識障害へとつながるのだ。
早期からの戦略が効く!夏フェス参加前にやるべき熱中症対策
三宅医師によると、「夏フェス当日の熱中症対策は出かける前夜から始まっている」という。事前に準備すべきポイントは以下の4点だ。
●体調を万全に整えておく
夏フェス前夜にアルコールを摂取して盛り上がるシーンもあるだろう。しかし注意したいのは睡眠不足。他にも食欲不振、発熱、下痢、二日酔い、強い疲労感などがあれば、熱中症リスクが高い状態で夏フェスに参加することになってしまう。体調は万全に整えておこう。
●熱中症警戒アラートもチェック
天気予報だけでなく、暑さ指数(WBGT)や環境省・気象庁が発表する〝熱中症警戒アラート〟も必ず事前に確認しておこう。
「気温が同じでも、湿度が高い、風が弱い、日差しが強い、照り返しが強いといった条件が重なると、熱中症リスクは大きく高まります。
場所によって人が密集していることによる熱気、風通し、日陰の有無なども大きく影響します。
熱中症リスクが高まりやすい11時~15時頃の炎天下の活動をなるべく避けることも有効です」
●朝食は必ず摂る
朝は暑さで食欲がないということもあり得る。けれど、朝食を抜くことには、大きなリスクがあるという。
「起床時の体はすでに軽度の脱水状態。そこに朝食欠食が重なると水分、電解質、糖質、ビタミン、たんぱく質など、身体機能を正常に働かせるために必要な栄養素が不足した状態に陥ります。
大量の汗をかく夏フェス参加時には、水分とともにナトリウムなどの電解質も失われるため、不足によりめまいや立ちくらみ、こむらがえり、倦怠感などを引き起こすことも。
糖質も重要です。不足すると集中力や判断力が低下し、転倒や事故などにつながる恐れもあります」
どうしても食べる時間や食欲がないときは〝水分・糖質・電解質〟に加え、〝アミノ酸、ビタミンB群、クエン酸〟などを効率よく摂取できるゼリー飲料を早めに取り入れるのが賢い選択だ。
●熱中症を防ぐ必携の持ち物
飲料や帽子、日焼け止めはもちろん、保冷剤、氷のう、冷感タオル、着替えといった冷却グッズは必須である。
万が一の怪我や体調不良に備え、ばんそうこうや消毒液、常備薬も忘れずに持参したい。
フェス本番中のサバイバル術!直射日光の回避と〝内側からの冷却〟が必須
三宅医師は、熱中症を診療する立場として「そもそも日陰がない場所での長時間の立ちっぱなしを続ける行為は非常に危険だ」と強い警鐘を鳴らす。
「日陰がないエリアで数時間連続して立ちっぱなしになる状況は絶対に避けてください。
自主的に日陰の涼しい場所へ移動して休む、持参したグッズで身体を冷やす、こまめな水分補給を行なうなど、あらゆる対策を組み合わせる必要があります」
実際、各夏フェスの主催側も、休憩所の増設やスポーツドリンクの補給スポット設置、塩タブレットの配布などの熱中症対策を積極的に行なっている。事前に会場マップで位置を把握しておき、当日はフルに活用したい。
●「水だけ」はNG!水分+電解質・糖質を渇く前に摂取する
こまめな水分補給は鉄則だが、単に水を大量に飲めばいいわけではない。
「水だけをがぶがぶと補給すると体内の電解質バランスが崩れ、かえって重篤な体調不良につながる危険性があります。
水分と同時に、ナトリウムやカリウムなどの電解質をあわせて補給することが必須です。
また、脳のエネルギーとなる糖質も、炎天下での集中力や判断力、身体の動きを支えるために欠かせません。
スポーツドリンクやゼリー飲料、経口補水液を必ず持参し、状況に応じて飲み分けましょう」
のどの渇きを感じた時点ですでに体内の水分不足は始まっているため〝のどが渇く前に飲む〟のが最大のポイントだ。
●〝アイススラリー〟や凍らせたゼリーで身体の内側から冷やす
夏フェス参加中は、ハンディファンや保冷剤などで身体を外側から冷やすことは大切だが、身体の内側から冷やすのも有効だという。
「アイススラリーや凍らせたゼリー飲料を活用しましょう。
アイススラリーとは、液体と細かな氷の粒子が混ざったシャーベット状の飲料です。
微細な氷が体内でゆっくりと溶ける際に、体の深部の熱を奪うため、水分を補給しながら深部体温上昇の抑制が期待できます」
「真っ直ぐ歩けない」は赤信号!命に関わる危険サインと現場での緊急応急処置
夏フェス参加中に、少しでも熱中症の初期症状を感じたら、即座に応急処置を行なう必要がある。
熱中症の主な初期症状:めまい、立ちくらみ、頭痛、吐き気、強い倦怠感、大量の発汗、ふくらはぎのけいれん(こむらがえり)、顔のほてり、ぼーっとする、反応が鈍いなど
「熱中症は、早い段階で適切に対応できれば重症化を防げる可能性があります。一方で、対応が遅れると命に関わることもあるので、初期症状が見られた場合は、無理に活動を続けず、すぐに行動を中断して応急処置を行ってください」
現場で行なうべき応急処置の基本ステップは以下の通りだ。
1)涼しい場所へ移動する:日陰やクーラーの効いた救護室、車内へ即座に避難する。
2)衣服をゆるめる:襟元やベルトを外し、体内の熱を逃がしやすくする。
3)身体を外側から冷やす:首すじ、脇の下、足の付け根など、太い血管が皮膚の近くを通る部位を狙って冷やすと極めて効率的である。保冷剤や氷のう、冷たいペットボトル、濡れタオルを患部に当てて体温を下げたい。
4)水分と電解質を補給する:本人が自力でスムーズに飲める状態であれば、経口補水液やスポーツドリンクを少しずつ飲ませる。
「首すじ、脇の下、足の付け根など、太い血管が通る部位を冷やすと効率的です。
保冷剤、氷のう、冷たいペットボトル、濡れタオルなどを活用するといいでしょう。
自力で飲める場合は、経口補水液などで水分と電解質を補給します」
ただし、呼びかけへの反応がおかしい、意識がはっきりしない、まっすぐ歩けない、応急処置が効かないといった状態であれば、すでに重症化している可能性があるという。
「この場合は、無理に水分を飲ませると誤嚥の危険があるため、速やかに医療機関を受診するか、救急車を呼ぶ判断が必要です」
夏フェスに参加する際には、事前に体調を万全に整えておき、朝食をしっかり取った上で出かけよう。
そして参加中は日陰ではない場所での長時間の立ちっぱなしや、トイレに行く時間を惜しんで水分摂取を控えるなどはもってのほか。
水分補給や体調管理に励み、応急処置をしなくて済むように努めたい。夏フェスを存分に楽しむために、ぜひ仲間を気遣いながら対策しよう。
取材・文/石原亜香利
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