今年は昨年に比べて涼しい日が続いているが、それでも暑い日はガス台の前に立つ調理はなるべく避けたいもの。コンロキャンセル界隈がSNSの注目ワードに上がる中、4割以上の人が15分以上のキッチン料理に限界を感じ、調理したくない人は15%にも上ることが、成城石井(本社横浜市西区、代表取締役社長後藤勝基氏)が行った酷暑時代のキッチン実態調査から明らかになった。
コンロキャンセル界隈を狙い、スーパーでは惣菜や冷凍食品など、外食と内食の中間にあたる中食(なかしょく)に力を入れ始めた。弁当や持ち帰り寿司、パンや惣菜など、持ち帰ってすぐに食べることができるのが中食である。特にスーパーの惣菜は高齢化により、調理が難しくなった消費者や、共働き世帯に受け入れられてきた。
成城石井の調査では、「惣菜を購入するのは手抜きではなく、暑い時期の賢い選択だと思う」と「多少手抜き感はあるが、無理をしないためにも必要だと思う」と、惣菜購入を前向きにとらえている人は3人に2人の65.8%となった。惣菜の利用は賢い酷暑対策としても根付いてきた。
コンロキャンセル界隈の惣菜市場
1979年に設立された(一社)日本惣菜協会(東京都千代田区、会長黒田久一氏)は「中食」を製造販売する組織のための、全国規模の業界団体である。協会が発表した2026年惣菜白書によると、2025年の惣菜市場は前年比3.7%増加の11兆7075億円。12兆円も目前の、巨大市場となっていた。
すでに消費者は惣菜を上手に利用し、酷暑を乗り切るための手段の一つとしていた。さらに調理をせずに食べられる弁当や惣菜類のほか、家庭では調理が難しいエスニック料理の他、レンジで調理できるミールキットが登場している。
今夏、成城石井では酷暑時代のコンロキャンセル救世主としてRTC(Ready To Cook)商品に力を入れている。生の食材と自社セントラルキッチンでシェフが開発した自家製タレを組み合わせた商品で、容器ごとレンジで加熱するだけで、プロの味が再現できる。
「手軽さや時間短縮につながるタイパと、生の食材から出来たてのプロの味が楽しめるウェルパの二つを実現させた商品です。一日に必要な野菜の3分の2が摂取できる商品など、健康を意識しているのが特徴のひとつです」と執行役員商品本部本部長濱田智之さん。
成城石井のRTCは冷凍されていない。味と栄養バランスを重視し、生のままの野菜や肉、魚にすることで、冷凍による食品の劣化を防ぎ、美味しく食べられるように工夫されている。
特に珍しいのがRTCの成城石井自家製 旨辛チュクミポックムという、イイダコがたっぷり入った韓国料理である。レンジで加熱した後もイイダコのぷりぷりした食感が残り、キャベツとニラ、ネギが自家製のタレを含み、2種類のコチュジャンの辛みと甘みのバランスが楽しめる。辛い物が苦手な子どもでも美味しく食べられる人気商品である。
辛みと甘み、イイダコの風味を残しながら調理するのは、家庭では難しい。コンロを使わずに、手軽に家庭で珍しい海外の料理を楽しめる。
こうしたエスニック系の料理だけでなく、和風の出汁茶漬けも好評である。冷たくなると固まってしまうご飯にもち麦を入れることで出汁を入れてもぱらっとほぐれるように工夫している。梅酢に漬け込んだレンコンスライスと「いぶりがっこ」の食感も絶妙で、手軽なだけでなく、美味しさで勝負してきた。同社では酷暑時代の食卓をサポートする取り組み「成城石井流 おいしい酷暑対策」の一環として、このようにコンロ調理0分の手軽でおいしい惣菜を提案する「涼を味わう、ひんやりグルメフェア」を開催している。
コンロキャンセル界隈による「食」意識の変化
コンロキャンセル界隈が浸透していく中で、今後さらに伸びが期待されているのが冷凍食品分野である。コンビニでも最近は冷凍食品コーナーが増えており、弁当やおにぎりなどの日配品コーナーを席捲してきた。お弁当のおかずや保存食として利用されてきた冷食が、普通の家庭の惣菜として活用されることも増えている。
特に冷凍技術の向上によって味や品質が大幅に向上し、レンジで加熱するだけで、手作り惣菜の味を家庭で楽しめるようになってきた。
小売店側も賞味期限が長い冷凍食品は、売りやすく、廃棄が少ないメリットがある。特に最近はトラックドライバー不足による物流問題解決の手段のひとつとしても、冷凍食品に期待が寄せられている。冷食が増えれば「コンビニからおにぎりとお弁当が消える日が来る」という専門家の意見もあり、酷暑をきっかけに、日本の食事情が大きく変わろうとしている。
日本の台所から本当にコンロが無くなる?
令和のワーキングママは家族が寄り添う時間を大切にし、親子の体験を共有するために、中食を賢く選択している。高騰する食材を無駄なく使い切るには惣菜の方が便利だし、惣菜を食材のひとつとして使うなど、アレンジの知恵もある。「手作り料理でなければ子どもに愛情が伝わらない」といった固定観念からも脱却している。
コンロキャンセル界隈は酷暑時代の戦略として浮上している一方で、本当に台所からコンロが無くなる可能性を、示唆しているのかもしれない。
調理器具が進化し、電気圧力釜、フライヤー、電気グリルなど、コンロが無くても美味しい料理が可能になった。消防庁のデータでも、住宅火災の出火原因の一位はコンロである。高齢者世帯では、火災へのリスク回避のためにも、火を使った料理は避けたい。今年の酷暑の夏は、家庭の調理手法を見直し、食卓を変える大きな転換期となりそう。
文/柿川鮎子




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