多くの男性ランナーは後半で“大失速”していた
今年4月26日のロンドンマラソンで遂に2時間を切る1時間59分30秒の世界最高記録が樹立された。短距離でのウサイン・ボルトの世界記録も衝撃的であったが、いずれの種目においても人類の足は着々と早くなっているようだ。そして市民ランナーをはじめ、競技を長く続ける人々もますます増えてきている。
“昔取った杵柄”があってもなくても、スポーツ競技に参加するということは広い意味での挑戦であり、そもそも気力が伴っていなければ参加しようという気にもならないだろう。
したがってそれぞれのレベルに応じた相応の自信を持って参加することになるのだが、自信過剰や意地っ張りは判断を誤らせることにもなりそうだ。特に男性はその落し穴に陥りやすいことが新たな研究で指摘されている。マラソンにおいて男性ランナーは女性ランナーの2倍の確率で後半に大失速していたのだ。
ブラジルの研究機関「Nova O2 Sports Science」、スイス・チューリッヒ大学をはじめとする研究チームが今年7月に「Scientific Reports」で発表した研究では、男性ランナーは女性ランナーよりもレース中に大幅な減速を経験する可能性がはるかに高いことが浮き彫りになっている。
男性ランナーは最後の5kmで力尽きやすい
研究チームは、1999~2025年のベルリンマラソンの完走者の走行データ87万3334件を分析し、ランナーが「大失速(20%以上の減速)」する正確なタイミングを特定した。
ベルリンマラソンは平坦なコースが特徴で、開催時期の天候もおおむね安定しているため、地形や天候の影響を受け難い。
ランナーの年齢、性別、5つのパフォーマンスカテゴリー(競技者レベルから記念参加レベルまで)に分けた層別分析を実施し、5kmごとの詳細なペース配分も分析した。
分析の結果、女性の52%が42.195kmのコースを目立ったペースダウンなく完走できたのに対し、男性ではペースダウンせずに完走できたのは3分の1にとどまっていたことが明らかになった。
そして男性ランナーは女性ランナーよりも総じてタイムは良かったものの、突然の大幅な減速を経験する可能性が約2倍も高かったのだ。男女別の平均で、レース後半で力尽きた男性は17.63%だったのに対し、女性は9.66%だった。
大失速したのは体力に自信のない記念参加ランナーだけではなかった。3時間以内に完走した参加者の内でも、男性は女性の6倍も途中で力尽きる可能性が高かった。3時間以内のタイムでありながらも大失速した男性ランナーは1.42%だったのに対し、女性ランナーは0.23%であった。
また男性ランナーは最後の5kmでよりペースを落としやすく、女性ランナーの13%減に対し、男性ランナーは18%減となっていた。
男性ランナーは自分の走力を過大評価している
これまでの研究では、女性は体内に蓄えられるブドウ糖の一種であるグリコーゲンを生まれつきより効率的に保持できる可能性があることが示唆されている。これにより理論的には女性は男性よりも長距離レースでスピードを維持しやすい可能性がある。
しかし研究チームは、もしその差が純粋に生理学的なものであれば、上位レベルの男性ランナーと女性ランナーの間にこれほど大きな失速率の差が生じるはずはないと指摘している。
研究チームは最も可能性の高い説明として、男性は一般的に「自分の競争力を過大評価」し、早々に疲れてしまうことを挙げている。
つまり多くの男性ランナーは前半を実力に見合わないほどに飛ばしているのだ。当然だがエネルギーを早い段階で使い果たしてしまうことで、全体のパフォーマンスは大きく低下する。
研究チームはまた、女性は男性よりもペース配分がはるかに得意である可能性があることも示唆している。それは生理学的特性からくるものではなく、エネルギー消費を予測する能力がより正確であるからだという。
“昔取った杵柄”は返上する
もちろんトップ選手の間ではこのような男女差は出難い。
スポーツ科学者たちは、マラソンを走る上で体力が絶対的なものではないことをよく理解している。
ランナーは精神的に迷いがない状態にあることが求められ、明確な作戦を立ててスタートラインに立ち、どんなことがあってもそれを貫き通す勇気を持たなければならない。
世界トップクラスの多くのランナーたちは現在、いわゆる「ネガティブスプリット(negative splits)」を目指している。ネガティブスプリットはレースが進むにつれてペースを上げていくという戦略で、グリコーゲンを温存し、乳酸の蓄積を遅らせ、早期の疲労を防ぐことができると言われている。
今年のロンドンマラソンで史上初の2時間切りを果たしたセバスチャン・サウェはこのレースで後半を前半よりも88秒速く走破していたのだ。
トップクラスのマラソンランナーのペース配分には驚かされるばかりだが、多くの男性ランナーはスタート直後にペースを上げすぎてレース後半で燃え尽きて大失速している実態が今回の研究で明らかになった。
これまでの研究でも男性は自分の能力を過大評価し、競技においてより大きなリスクを冒す傾向があることが示されている。久しぶりにマラソンや競技会に参加してみようと考えている向きは、“昔取った杵柄”をいったん脇へ置いたほうがよいのかもしれない。
※研究論文
https://www.nature.com/articles/s41598-026-56334-7
文/仲田しんじ
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