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地域とともに育む「幸せなお産」、多拠点運営産院が支える出生環境の持続可能性

2026.08.16

自分が生まれ育った街にお産ができる場所が存在することは、単なる医療施設以上の価値を持ち、地域の持続可能性を支える重要なインフラとなり得ます。かつて私が現場に立った地域でも、産院の存在がコミュニティの維持に寄与する姿を目の当たりにしてきました。しかし現在、地方の分娩施設は厳しい採算性と現場の負担増により存続の危機に瀕しています。この厳しい環境下で、いかにして持続可能な体制をつくり、地域のお産を守っていくのか。私たちが現場で実践している取り組みをご紹介します。

医療過疎地に「お産ができる場所」を残す意義

当ファミール産院グループは「しあわせなお産をしよう」を経営理念に定め、千葉県をはじめ各地域でお産を支える産院を展開してまいりました。私個人としては、当グループで生まれたお子様の母子手帳に「ファミール産院」の名前が記されることに誇りを持っており、「年間1万人の母子手帳に名を刻む」という目標を掲げています。この「1万人」という数字は「たくさんの」という想いを数値化した象徴的な指標であり、現場のスタッフが自身の仕事を通じてより豊かな生活を送れることこそが一番大切であると考えています。

地方で分娩施設を展開する理由を聞かれることがありますが、経営上の狙いというよりは「誰もやろうとしないから」「地域のトップに強く請われたから」という点に尽きます。当グループの原点は千葉県館山市にあり、地方の過酷な医療事情や過疎化を目の当たりにしてきた経験が、地域に対する強い想いの糧となっています。

たとえば、和歌山県有田市での「ファミール産院ありだ」の開院は、当時の市長や現地医師との「口約束」からスタートした事業でした。遠隔地での立ち上げには大きなリスクを伴いますが、代表である私自身のこだわりや執着を捨て、現場に任せる新たな手法を取り入れることで実現させることができました。

地域にお産ができる場所が存在することは、間違いなく「コミュニティの中心」となり得ます。出産体験が幸せなものであれば、お母様方はその場所や関わった医療者を一生覚えており、地域コミュニティへポジティブな影響をもたらします。かつて私自身が院長を務めた千葉県の館山市や君津市では、合計特殊出生率で県内上位(館山市1位、君津市2位)となった実績もあります。産院の有無だけで人口動態全体が劇的に変わるわけではありませんが、自分が生まれ育つ場所に産院が存在することは地域の誇りであり、街の持続可能性を支える重要なインフラであると信じています。

補助金に頼らない!「マネジメントの仕組み化」で医療現場を救う

自治体や地域からの要請を受けて開院する際、民間の事業者として「自立した関係」を保つ最大のポイントは、自らのノウハウによって補助金に頼り切らなくても運営できる体制を構築することです。要するに、自分たちの力で地域に選ばれる産院をつくることに尽きます。

全国で個人産院が分娩をやめてしまう大きな要因の一つに、お産疲れや医療現場の厳しさだけでなく、院長やその身内(奥様など)が労務・経理・人事などのバックオフィス管理を一手に引き受け、マネジメントにほとほと疲弊してしまうという現実があります。これだけマネジメントに追われると、新たな知識や時代の変化を取り入れる精神的・時間的余裕も失われてしまいます。

当グループでは組織としての仕組み化を進め、医師は医師として、助産師は助産師として各自の専門性を存分に発揮できる環境を整えています。また、このノウハウを活かして他院の労務・経理・人事などを代行する「マネジメント受託事業」にも取り組んでいます。これは他院との不毛な競争ではなく「お互いの共存」へシフトし、地域のお産施設を一つでもなくさず維持するための試みです。一つでも多くのお産施設を残すことが、結果としてその地域を救い、世の中を明るいものにすると考えています。

現在の医療業界では、都市部に医師が溢れる一方で地方では確保が難しく、出稼ぎによって採算を合わせざるを得ないという奇妙な構造的歪みが30年以上続いています。人口減少が進む地方での運営は採算の瀬戸際になることもありますが、効率性やマーケティングの成功シナリオのみを求めるのではなく、自身の原点である「地方創生」を大切にし、非効率であっても誇りを持てるスタッフと共に地方産院運営モデルを確立していく挑戦を続けています。

「徹底したお母さん目線」とスタッフの誇りを育む仕組み

出産後のお母様に対するサポートにおいて最も重要なのは、子育て以外の部分で「とにかく休む」環境を提供することです。出産を経験された方のほぼ全員が、程度の差こそあれ「産後うつ状態」を経験します。これを「気合いで乗り越えてこそ一人前の母親だ」といった根性論で押し通すのではなく、「ママだって休んでいいんだよ」という前提に立つことが不可欠です。私どもでは10年以上前より産後ケアセンターを開設し、千葉県トップクラスの利用実績を誇ります。また、プレゼントとして提供している鍼灸や骨盤矯正の施術も、専門家と連携して出産で緩んだ骨盤やすり減った体力をすみやかに回復させ、産後のお母さんを少しでもサポートするための試みです。

さらに、各施設では地域住民やご家族を巻き込んだ祭りやプロレス興行などの各種イベントも開催しています。これらは社会的意義を声高に主張するための大それたものではなく、日頃ご利用いただいている地域の皆様への純粋な感謝の表現です。同時に、日々の業務でマンネリ化しがちなスタッフ自身がイベントを通してリフレッシュし、成長したお子様の姿を見て自分の仕事への誇りを再確認するための「内向きなエネルギーの還元」でもあります。結果としてこうした姿勢が、地域の方々からの温かい支持へと自然につながっています。

“ここでまた産みたい”を叶えるために

ホスピタリティにおいて私たちが最もこだわっているのは、「居心地の良さ」につきます。大半の出産は病気ではありません。だからこそ過度な豪華さや華やかさを追い求める必要はなく、求められているのは、心身を養う適切な食事、清潔で落ち着いて過ごせる客室環境、そして母乳育児の強制ではなく、お母様それぞれの状況に合わせた柔軟な育児指導を提供することです。

要約すれば、「自分たち(病院側)の都合という矢印ではなく、常にお母さんに矢印を向けて行動する」ということです。私自身、過去に総合病院に入院した際、医療関係者でありながら病院側の都合が優先されている現場を身をもって体験し、自らの産院における姿勢を深く見つめ直した経緯が根底にあります。医療者が主体の都合を押し付けるのではなく、お母様目線に立った温かい環境を整えること。その良質な体験の積み重ねこそが「ここで産んでよかった、次もここで」という満足感を生み出し、他院との決定的な差別化につながると確信しています。

創業者の本質とは、最初から社会的意義なんて大それたことを考えて起業するのではなく、起業することで自らの情熱や欲望を満たし、ワクワクしながら活動し続けた結果として社会に認められるようになることだと感じています。私自身も未だに現場でワクワクしながら挑戦を続けている最中ですが、私が代表である間に年間1万人のお産に立ち会える基盤と地方産院モデルを完成させること、そして創業者の志を受け継ぐ次世代の仲間たちがその活動を通じてより大きな社会的価値と意義を確立してくれることこそが、私たちが目指す未来の姿です。

文/杉本雅樹
すぎもと・まさき。医療法人社団マザー・キー理事長、ファミール産院グループ代表。筑波大学医学群卒業後、筑波大学附属病院などを経て、2005年に千葉県館山市でファミール産院を開院。以降、産婦人科を中心に事業を拡大し、現在は分娩施設11施設を含む全13施設を展開している。グループ全体の従業員数は約600名。著書に『体のベースを整えるプラセンタ療法 再生能力を上げる方法』『ママ0歳から読むしあわせ出産バイブル』がある。

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