漫画『みいちゃんと山田さん』の勢いが止まらない。アニメ化も決定した同作は、知的障害が疑われる少女やキャバクラで働く女性など、現実社会の生きづらさを抱えた登場人物を描き、大きな反響を呼んでいる。一方で、SNSでは登場人物に由来する「みいちゃん」という言葉が、特定の人物像を揶揄する言葉として使われ始めている。このような「みいちゃん」呼びは侮辱罪に当たるのか。アディーレ法律事務所の大垣優希弁護士に聞いた。
「みいちゃん」は侮辱罪になる?侮辱罪になる条件とは?
「高校を中退して、今は夜の仕事をしています。最近、SNSで『Aちゃんって完全にみいちゃんだよねw』『みいちゃんすぎる』と書かれていることに気付きました。友人は『気にしすぎだよ』と言ってくれるのですが、私はバカにされているように感じて、すごくもやもやします」
Q.相手を侮辱罪に問うことはできますか?
大垣弁護士:まず、侮辱罪(刑法231条)とは、
①具体的な事実を示さずに、
②公然と
③人の社会的評価を低下させるような発言をした場合
に成立する犯罪です。侮辱罪の法定刑は、1年以下の拘禁刑もしくは30万円以下の罰金、または拘留もしくは科料です。2022年の法改正で厳罰化され、それまでの「拘留または科料」に比べて大幅に重い刑罰が科されるようになりました。
①の「具体的な事実を示さずに」とは、「ばか」「無能」「役立たず」といったように、抽象的な表現を用いて、相手を見下したり人格を否定したりすることをいいます。一方、「横領した」「万引きをした」など具体的な事実を示して名誉を傷つけた場合は、侮辱罪ではなく名誉毀損罪が問題になります。
②の「公然」とは、不特定または多数の人が認識できる状態をいいます。SNSの公開アカウントへの投稿も「公然」となります。一方、誰にも聞かれない二人きりの会話では、通常はこの要件を満たしません。
そして、③のその言葉が一般の人から見ても相手の「社会的評価を低下させるような表現」であることが必要です。
「みいちゃん」という言葉については、現時点では社会全体で侮辱的な意味を持つ言葉として広く定着しているとは言えません。そのため、「みいちゃん」と投稿しただけで、直ちに侮辱罪が成立するとは言えないでしょう。
もっとも、侮辱罪になるかどうかは、単語そのものだけでなく、その言葉がどのような意味や文脈で使われたのかによって判断されます。例えば、夜の仕事に従事する女性や障害のある人を見下したり、嘲笑したりする意味でSNSの公開アカウント「〇〇さんはみいちゃんだ」と書き込んだりした場合には、社会的評価を低下させる表現として侮辱罪が成立する可能性があります。
侮辱罪にならなくとも、損害賠償請求できる可能性も
Q. 「バカにするつもりはなかった」「かわいいキャラクターだと思っていた」と相手が主張すれば、侮辱罪にならないこともありますか?
大垣弁護士:加害者が「侮辱する意図はなかった」と主張したとしても、その弁解がそのまま認められるわけではありません。侮辱罪では、本人の言い分だけではなく、その言葉がどのような場面で使われ、周囲からどのように受け取られるかが重視されます。
そのため、「かわいいキャラクターを思い浮かべて言っただけです」「褒めるつもりでした」と説明したとしても、実際には相手をからかったり見下したりする文脈で使われていたと認められれば、その弁解は認められないでしょう。「この言葉が悪口だと認識していたのか」「侮辱する意味で使ったのか」といった点が争点になる可能性はあります。
Q. 「みいちゃん」と言われて私は傷つきました。それでも侮辱罪にならないことはあるのでしょうか?
大垣弁護士:侮辱罪は、被害者が実際に傷ついたかどうかだけで決まるものではなく、客観的に見て、その発言が相手の社会的評価を低下させる表現といえるかどうかが重要になります。
そのため被害者が強く傷ついたとしても、一般的に侮辱的とは評価できない発言であったり、誰を指しているのか分からない発言であったりすれば、侮辱罪が成立しないこともあります。逆に、被害者が「侮辱された」と感じていなくても、客観的に侮辱的な表現であれば侮辱罪が成立する可能性もあります。
もっとも、刑事上の侮辱罪が成立しない場合でも、発言の内容や態様によっては、民事上の不法行為として損害賠償請求の対象となる可能性があります。
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現時点では、「みいちゃん」は「ばか」や「無能」のように、社会全体で侮辱語として定着しているとは言い切れない。しかし、『みいちゃんと山田さん』をきっかけに、特定の属性を揶揄する社会記号として使われ始めているのも事実だ。その言葉が相手や周囲にどう受け取られるのかを意識して発信する姿勢が必要だろう。

大垣優希弁護士(第一東京弁護士会所属)/アディーレ法律事務所。夫婦問題や遺産相続、債務整理など、多様な一般民事分野に関心を持つ。法律分野に留まらず、日本化粧品検定1級の資格も保有するなど、専門性のさらなる深化にも意欲的で、身近な悩みに根拠をもって寄り添う解説を志す
取材・文/峯亮佑 (C)亜月ねね/講談社




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