93年の発足時から「春開幕・冬閉幕」というスケジュールだったJリーグが34年目にして「欧州基準」に移行した――。
26-27シーズンから欧州主要リーグと同じ夏スタートとなり、8月7日から熱戦の火ぶたが切られたJリーグ。MUFGスタジアム(国立競技場)で行われた横浜F・マリノス対鹿島アントラーズの「オリジナル10対決」には6万人超の大観衆が集結。地上波でも生中継され、新シーズンへの大きな期待感が見て取れた。
「欧州5大リーグに追いつくという目標を掲げています」と野々村方和チェアマンは口癖のように語っているが、シーズン移行はその大きな布石と言っていい。DIMEでは2026年8月号のサッカー特集でこの敏腕リーダーを取り上げたが、同インタビューの全容をこのタイミングで改めてお届けする。
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欧州5大リーグとJリーグのマーケット格差が広がったのは2000年代以降
――93年のJリーグ発足時、野々村さんは慶応大学のアマチュア選手でした。それからの34年というのをどう感じていますか?
「プロサッカーというものが何もないところで”ゼロイチ”で始まって、僕もただただ嬉しいと感じていたファンの1人でした。そこから30年以上の月日が経過し、自分もJリーガーからクラブ経営者、チェアマンと立場も変わったわけですけど、30数年間の中でサッカーマーケットのヒエラルキーがすごく変わったと痛感します。
90年前半は世界のトップリーグがどこというのはあまりなかった。FIFAワールドカップ(W杯)に出たことのない日本から見れば『サッカーが盛んな欧州やブラジルとは大きな差がある』という認識でしたけど、給料がそこまで違ったわけではなかった。イングランド・プレミアリーグにいるクラブの収益規模はどこもほぼ同じで、特定のクラブにトップ選手が集まる状況ではなかったんです。
その後、イタリア・セリエAが躍進し、イングランドも急成長した。24-25シーズンのプレミアリーグの総収入は約1兆円。Jリーグは2025年時点で2000億円ですから、まだ大きな開きがあるのは確かです。
放映権ビジネスが盛んになり、移籍金も高騰した2000年代以降はマーケット自体が一気に大きくなり、日本との差が広がったと僕は認識しています」
――その間、日本はJクラブが60に増え、リーグカテゴリーも1~3部に広がり、今では全国43都道府県にクラブが生まれました。
「ここまでの日本は国内の成長に目を向けていた期間だったと思います。欧州はもともとサッカー文化が根付いていて、成熟した環境があったので、ビジネス的な成長に注力できましたけど、日本は難しかったと思います。
そういう時期を経て、Jリーグを国内コンテンツとしてより魅力あるものにしていくのか、それとも世界のマーケットの中で勝負していくのかのいずれかを選択するフェーズに入った。それは後者だと僕を含めて関係者全員が考えたんです。
そのために何が必要かを考えた時、シーズンのスタートと終わりを変えるのが第一歩だと。それによって選手や指導者の行き来もスムーズになりますし、同じ基準やサイクルで動いていける。ようやく世界のマーケットの中に入れるという実感があります」
――野々村さんは「Jリーグが30年以上経って、選手は海外に出ていくなど目覚ましい進化を遂げたが、フロントは発足当時からあまり変わっていない。それが大きな課題だ」と話していました。
「そうですね。国内競争だけに目を向けるなら『隣町のクラブにどう勝つか』だけを考えていればよかったですよね。でもシーズンが移行すると、国内の競争はもちろんですけど、世界の中で勝てるクラブを作らなければいけなくなる。その意識改革が一番重要なんです。
我々は『欧州5大リーグに追いつく』という目標を掲げています。もちろん、欧州の真似をしてほしいということではなくて、日本のクラブやサッカー文化が世界の中でも十分にやっていけるところを示してほしいし、それだけの力をつけることが大事だと考えています」
Jリーグの成長には移籍金収入アップが必須。強化人材の育成は急務
――野々村さんはJリーグの強みと課題をどう捉えていますか?
「今のJリーグが最も優れているのは、安心・安全のスタジアムという部分ですね。日本社会の基盤がそうだからというのもありますけど、海外から来た関係者や観客から一番言われるのが『日本は運営面がしっかりしている』ということ。世界に目を向ければ恐怖感を覚えるスタジアムもあるでしょう。
僕が4月に行ったAFCチャンピオンズリーグ・エリート(ACLE)決勝のキング・アブドゥラー・シティ(サウジアラビア・ジェッダ)でもペットボトルが飛び交ったことが問題視されました。今では欧州トップリーグはそういったことがなくなり、安全かつ熱量を感じられるような環境になってきた。日本もそうなれると思います。
課題の方もいろいろありますけど、先ほども話した通り、世界を見据えて収入規模を引き上げる意識はもっと高めてほしいところです。『隣が100億円、ウチも100億円だから、まあまあOK』みたいな感覚ではさらなる成長は難しい。世界トップクラスへ行けば1000億円超のクラブもあるわけですし、つねにそういう基準を意識してほしいです」
――収益アップのためには、移籍金収入引き上げは必須。それは野々村さんが北海道コンサドーレ札幌の社長時代にトップチームの指揮を執っていた名古屋グランパスのペトロヴィッチ監督も話していたことです。
「シーズン移行によって、日本人選手の欧州移籍が増えると思いますけど、今でもJクラブと契約満了になって移籍金ゼロで海外へ行く選手がいると聞くと、本当に残念でなりません。シーズン移行はフロントや強化部が交渉力やネットワーク力を引き上げるチャンスですし、少しでも移籍金収入を増やす努力をしていかないといけないですね。
『非常に少ない資金規模・強化費でチームを躍進させた』という強化担当はこれまでにもいましたけど、彼らが高い評価を受けて、次のステップに進むというケースもこれまでは少なかった。でも欧州では敏腕のジェネラルマネージャー(GM)がどんどん引き抜かれています。
そういう人材がどんどん出てくることをJリーグとしても願っていて、ロンドンにJリーグヨーロッパのオフィスを出し、FIFA仲介人として手腕を振った秋山祐輔さんをトップに配置。レバークーゼンなどで手腕を発揮した名将のロジャー・シュミットさんをグローバル・フットボール・アドバイザーとして招聘もしています。
ロジャーにはスポーティング・ダイレクター(SD)向けの講座を実施してもらいましたが、1人当たり年間150万円くらいの費用がかかります。『それを捻出してでもぜひ受けたい』という人が数多くいて、定員30人をはるかに上回る応募がありました。それだけ『世界基準に近づきたい』『もっと成長したい』という意欲が高いということ。それはポジティブなことですね」
2025年のJリーグ収入合計は2100億円を突破。10年で欧州5大リーグに追いつけるか?
――シーズン移行によって移籍金収入増は期待できそうですね。
「それは間違いないですね。今、世界の移籍市場では選手・監督合わせて1兆2000億円くらいのお金が動いているんですが、そのほとんどが7~8月までの夏場です。欧州は1月にも移籍市場が空きますが、限られた人しか動かない。やっぱり夏が勝負になります。
かつて横浜F・マリノスを率いたアンジェ・ポステコグルー監督(現アル・ナスル=)が教え子だった前田大然(イプスウィッチ)や岩田智輝(バーミンガム)といった教え子の選手たちを連れて行って、適正な価格で完全移籍するといった事例がありましたけど、シーズンが欧州と一緒なら向こうの有望な監督が日本に来やすくなりますし、彼らが実績を残して欧州に戻るときにアンジェのようなことをするかもしれない。そういういいサイクルが生まれるように仕向けていきたいと思っています」
――それ以外の収入アップ策については?
「DAZNとの放映権契約も大きいと思います。2023~2033年までの11年契約で、約2395億円という金額を設定していますが、それによりクラブへの配分金が増えたのは確かです。リーグ冠スポンサーの明治安田生命さんのような企業の協力も増えています。2025年度のJリーグ収入合計が2100億円を突破したのも、1つ前向きな材料ですね。
過去5年間を見ると、Jリーグの成長率は年10数%で推移しています。欧州5大リーグの下2つのイタリア・セリエAとフランス・リーグ・アンは4%前後の成長率。為替レートに関係なく言えば、10年後にはJリーグはその2つに収入面で追いつける計算なんです。
多くの日本のサッカー関係者から見ると『欧州5大リーグとJリーグは相当に差があるだろう』という感覚だったかもしれませんけど、これはリアルな目標なんですよ」
★ ★ ★
野々村チェアマンが言うように、Jリーグが世界に肩を並べつつあるのは確か。それをより加速させるのが、今夏のシーズン移行なのだ。そういう目線で見れば、新たなスケジュールのリーグ戦もより興味関心が持てるのではないだろうか。(2に続く)
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取材・文/元川悦子
長野県松本深志高等学校、千葉大学法経学部卒業後、日本海事新聞を経て1994年からフリー・ライターとなる。日本代表に関しては特に精力的な取材を行っており、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは1994年アメリカ大会から2014年ブラジル大会まで6大会連続で現地へ赴いている。著作は『U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日』(小学館)、『蹴音』(主婦の友)『僕らがサッカーボーイズだった頃2 プロサッカー選手のジュニア時代」(カンゼン)『勝利の街に響け凱歌 松本山雅という奇跡のクラブ』(汐文社)ほか多数。




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