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猛暑で儲かる業界、打撃を受ける業界は?「猛暑関連株」の考え方を徹底解説

2026.08.18

連日の危険な暑さは、家計や健康だけでなく、株式市場の風景も変えています。気温が1度上がるだけで売れ行きが大きく動く商品があり、逆に客足が遠のくビジネスもあります。ただし、先に断っておきましょう。あなたが気づいた「暑さ」は、市場もとっくに気づいています。そこで今回は、いわゆる「猛暑関連株」というテーマ投資の考え方を、追い風業界・逆風業界の対比から、「織り込み済みの罠」まで掘り下げて解説します。

猛暑が追い風になる業界

■空調・冷房関連

猛暑の恩恵を最も直接的に受けるのが空調業界です。代表格は空調世界大手のダイキン工業でしょう。同社は住宅用エアコンだけでなく、データセンター向けの業務用大型空調が業績のけん引役となっており、直近の四半期決算では売上高・営業利益ともに過去最高を更新しています。2030年までに北米のデータセンター冷却関連事業の売上高を3000億円以上に引き上げる計画も掲げています。

市場規模の面でも、この分野の成長性は際立ちます。米調査会社グランドビューリサーチの推計によると、世界のデータセンター冷却市場は2024年の約221億ドルから2030年には約561億ドルへ、年平均16.4%のペースで拡大すると予測されています。猛暑という季節要因に、AIインフラという構造的な成長市場が重なっているわけです。このほか、三菱電機やパナソニックといった総合電機の空調事業、エアコンを販売するヤマダホールディングスなどの家電量販店、設置工事を担う企業まで、バリューチェーン全体に需要が波及する点がこのテーマの特徴です。

■飲料・アイス・冷菓

気温と販売数量の相関が最も分かりやすい業界です。調査会社の富士経済によると、国内の清涼飲料市場は2026年に5兆8,601億円(2024年比4.8%増)へ拡大すると予測されており、猛暑による止渇需要と健康志向がその追い風となっています。中でも注目すべきは熱中症対策飲料で、スポーツドリンクや経口補水液を含むこの市場は、同じく富士経済の調査で2023年時点3,151億円(前年比9.9%増)と推計され、対策意識の高まりを背景に拡大が続いています。「ポカリスエット」の大塚ホールディングス、「お~いお茶」の伊藤園、コカ・コーラボトラーズジャパンホールディングス、アイスでは「ガリガリ君」の赤城乳業(非上場)や森永製菓などが連想される銘柄群です。

■製薬・熱中症対策商品

熱中症への社会的な警戒感の高まりは、対策商品の市場全体を押し上げてきました。2025年の熱中症予防製品市場は前年比3%増の743億円規模と報じられており、冷却グッズから冷房機能付きサービスまで裾野が広がっています。経口補水液「OS-1(オーエスワン)」は大塚グループの大塚製薬工場が手がける病者用食品で、いまや夏のドラッグストアの定番です。冷却シート「熱さまシート」の小林製薬なども連想されます。

さらに注目すべきは制度面の変化です。2025年6月1日に改正労働安全衛生規則が施行され、職場における熱中症対策の体制整備・手順作成・関係者への周知が対象事業者に義務付けられました。怠った場合は6ヶ月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金という罰則付きです。この義務化の効果は数字にはっきり表れています。富士経済の調査によれば、ファン付き作業着の市場は2025年に前年比71.8%増と特需的な伸びを示し、2030年には475億円に達すると予測されています。首元を冷やすウェアラブル冷温デバイスも2030年に122億円が見込まれています。この分野に注力するワークマンでは、ファン付きウェアとペルチェベストが義務化による企業需要の拡大を受けて2025年に売り上げを大きく伸ばしました。個人消費より企業需要のほうが景気や天候のブレに強い点は、投資目線で見逃せないポイントです。

猛暑が逆風になる業界

■外食・レジャー

危険な暑さは「外出そのものを控える」行動を生みます。ランチタイムの外食、屋外型テーマパーク、ゴルフ場、動物園などは、猛暑日が続くと客足が鈍る傾向があると指摘されます。屋外滞在時間の長い東京ディズニーリゾートを運営するオリエンタルランドや、ゴルフ場運営会社などは、酷暑が来場動向に影響しうる業態です。一方で、同じレジャーでも屋内型施設は「避暑需要」でむしろ恩恵を受けることがあります。ラウンドワンのような屋内アミューズメント、映画館を運営する東宝などはその例です。「レジャー=逆風」と一括りにせず、屋外か屋内か、商品構成はどうかまで見る必要があります。

■アパレル

意外に思われるかもしれませんが、猛暑はアパレルにとって必ずしも追い風ではありません。夏物は単価が低く、Tシャツ1枚あたりの利益は薄いのが実情です。さらに深刻なのは、猛暑が長引くと秋物の立ち上がりが遅れることです。単価の高い秋冬物の販売期間が圧縮され、セール依存が強まると、売上より利益への打撃が大きくなります。エアリズムなど機能性夏物に強いファーストリテイリングのような例外はあるものの、秋冬物への依存度が高い百貨店アパレルほど、残暑の長期化は業績リスクになります。なお、同じ「服」でも前述のファン付きウェアのように猛暑を成長市場に変えた例があることは、逆風業界の中にも勝ち筋があることを示しています。

■農業・食品原料

猛暑と渇水は農作物の生育に影響し、野菜価格の高騰や米の品質低下を招くことがあります。原料高は食品メーカーのコストを押し上げ、価格転嫁が遅れれば利益を圧迫します。電力業界も一見「冷房需要で儲かる」ように見えますが、燃料調達コストの増加や供給義務の負担があり、単純なプラスとは言い切れません。

テーマ株投資の魅力と、最大の落とし穴

猛暑関連株のようなテーマ投資の魅力は、日常の実感と投資判断が直結する分かりやすさにあります。スーパーでスポーツドリンクの棚が空になっている、家電量販店のエアコン売り場が混んでいる——こうした生活者としての観察が、投資アイデアの入り口になります。

しかし、ここに最大の罠があります。それは「既に織り込み済み」という問題です。

株価は将来の予想を先取りして動きます。気象庁が「今年の夏は猛暑」という予報を出した時点で、プロの投資家は関連銘柄を買い始めています。ニュースで「記録的猛暑」と報じられ、個人投資家が「エアコン株を買おう」と思い立った頃には、株価はすでに期待をたっぷり織り込んだ水準にあることが少なくありません。そこから買うと、決算で「予想通りの好業績」が出ても株価が反応しない、いわゆる「材料出尽くし」で下落する、という展開に巻き込まれがちです。

市場規模予測にも同じ注意が必要です。「2030年に○○億円」という数字は魅力的に見えますが、有望な予測ほど株価に先に反映されます。大切なのは「市場が伸びるか」ではなく、「市場の伸びに対して、いまの株価はどこまで期待を織り込んでいるか」を問うことです。

もうひとつの罠は、テーマの持続性です。猛暑は毎年来るとは限らず、冷夏の年には関連銘柄が一斉に売られます。ファン付き作業着の71.8%増という驚異的な伸びも義務化初年度の特需を含む数字であり、ワークマン自身も特需の一巡に言及しています。「今年の暑さ」だけを理由に買った銘柄は、天候という自分でコントロールできない要因に業績と株価を委ねることになります。

実践的な考え方——「季節テーマ」を「構造テーマ」で裏打ちする

では、どう向き合えばよいのでしょうか。押さえておきたいのは、次の3つの視点です。

第一に、「今年の猛暑」ではなく「温暖化という長期トレンド」で銘柄を見ることです。年16%超で伸びるデータセンター冷却、義務化に支えられた暑熱対策市場のように、一時的な天候ではなく構造変化に裏打ちされた需要を持つ企業なら、冷夏の年でも成長ストーリーが崩れにくくなります。

第二に、株価が期待をどこまで織り込んでいるかを確認することです。証券会社のアプリで銘柄のPERを表示し、過去数年の水準や同業他社と見比べるだけでも、「期待が過熱していないか」の感触はつかめます。テーマが話題になる「前」に仕込むのが理想ですが、それが難しければ、話題のピークで飛び乗らない自制だけでも損失リスクは大きく下がります。

第三に、テーマ株はあくまでポートフォリオの「衛星」に留めることです。資産形成の中核はインデックスファンドなどの分散投資に置き、猛暑関連株のようなテーマ投資は余裕資金の範囲で楽しむ。この線引きができていれば、テーマが外れても致命傷にはなりません。

生活実感を投資の入り口に、判断は構造で

猛暑関連株は、生活実感から市場を読む格好の教材です。追い風業界と逆風業界の構造を理解し、市場規模の成長予測と株価の期待値を突き合わせ、「織り込み済みかどうか」「テーマは一時的か構造的か」を問う癖をつけること。それが、単なる連想ゲームで終わらないテーマ投資の第一歩です。

文/鈴木林太郎 経済ライター テックと経済の”交差点”を主戦場にやさしく解説。企業・自治体の取材とデータ検証を重ね、現場の課題を言語化する記事づくりが得意。難解な制度や技術を、比喩と事例で”今日使える知識”に翻訳します

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